第147話「東京タワー」
昭和33年3月開業、高さ333m。
建築基準法により、計画が頓挫しかけたところを『広告塔』という半ば強引なこじつけによって建設省を黙らせた経緯を持つ『電波塔』だった。現在ではその役割を半分終え、スカイツリーの『バックアップ』として、存在している『役目を終えた』建物だった。
閑話休題。
東京タワー・特別展望台直上のスペース。
「……待たせたわね、『真犯人さん』。いえ、ユウちゃん」
伊都子がホウキから降りてそう言った。
言われてユウは笑った。
「ボクも今来たところだよ。伊都子さん」
「……そうそう、聞いたわ。さくらさん、強制睡眠を解かれるようね?」
「うん。やっとだ。素直にうれしいよ」
「……そのために何人殺したの?」
伊都子はユウを犯人と断定している。
「『必要経費』さ。さくらの復活のための」
悪びれる様子もなく、ユウが笑って言う。
「……そう言えば読んだわ。あのレポート。『抜け』があるから指摘してあげる。①さくらさんのようなクローン。②『妹』の存在。だったわね?ーー」
伊都子の長い髪が風で揺れる。顔にかかる髪をかき分けて続ける。
「ーー③長田洋子の子供。よ。ユウちゃんあなたのようなね。長田洋子によって『魔法少女』になり、長田洋子の手法を学んだ」
「へぇ、的を得てる。じゃあさ、もうどうやってあの事件を起こしたか?も、わかっているんだ?」
ユウが今度は挑発するように笑う。
「『インシュリン』の過剰分泌よ。もっと言えば直前に出た『クエの刺身』が銃弾。旬を迎え脂の乗ったそれによって、異常分泌されたインシュリンが脳へと達する。脳がエネルギー不足になれば心臓は止まる。インシュリンは血液中に普通に含まれる。だから司法解剖では発見できない」
「どうやって?が抜けてるし、そもそもボクのアリバイは伊都子さんによって証明されているんだけど?」
お互いフッと笑う。
「それこそ、アタシがユウちゃんを『犯人』と断定した部分よ。あなたの固有魔法『ボイドニウム』は地球上には存在しない、未知の物質。それが酸で溶けた場合、糖類と似た分子配列になる。つまり、アタシが同席してたあのあいさつの時、あれこそが本当の犯行時刻でトリガーだった」
「証拠は?」
「……そもそも同じ場所で2人が死んでもう1人が重体、自然には起こり得ない。つまりは『実行できる』可能性があったのはユウちゃん、あなただけよ」
ユウがスカートの裾が捲れるのにも構わずクルリと回る。
「証拠になってないと言いたいところだけど、どうせ前田先生に聞いたんでしょ?ボクの『ボイドニウム』の事?」
ユウの問いに伊都子が首を縦に振る。
「状況証拠は揃っちゃったね。
そうだ。ボクがあの時、胃の中に直接『ボイドニウム』を生成した。時間をおいて少しずつ体内にインシュリンが増加していき、脂の乗った魚が処刑スイッチになった。『照銀事件』みたいにね」
今度は伊都子が言う。風が強くなってきたので顔にかからないように髪を押さえながら。
「……その事件とユウちゃんの出したレポートがきっかけでさくらさんの復活が検討された。まるで長田洋子ね」
「長田さんなら、直接攫って、治療するさ。そっちの方が『効率的』だもん」
「……配られたカードで目的を遂げるのが長田洋子の本懐じゃない?あくまで推測だけど?」
今度は先程とは逆回転でユウがクルリと回る。先程よりも勢いよく回ったので、今度こそスカートの『中身』であるおむつがチラリと露出した。
「あはは、そうかも。ところでさ、ボクが犯人だっていつから疑ってた?」
「……病院に向かうタクシーの中よ」
「おかしいな?ちゃんと訓練して思考を読めないようにしていたはずなのに……」
不思議そうに言いながらも、ユウはさらにクルクルと回る。
「……『魔法』じゃないわ。田中管理官はアタシに電話した。でも、ユウちゃんはもう化粧してた。つまりはあの時、アタシが呼びに来るのを知っていたって事でしょう?」
伊都子がタワーを見上げる。普段は見えない、内部から見上げた景色に少し圧倒される。ふと、そこに黒い線が1本走っているのを見つける。
「知ってる?ここ東京タワーってさ、『役目』を終えた鉄塔なんだよ?」
「『詠唱禁止』!」
気づかないうちにタワー内側に黒い線がもう1つ増えている。
「倒す気だったのね?このタワーごと」
「すっかりバレバレか……。で、どうするの?」
黒い線は『ボイドニウム』だろう。タワーの支柱を腐食し、倒壊させ、その間に逃亡しようとしたようだった。
「……役目を終えても残るわ。長田洋子も宮本孝子も東京タワーもね」




