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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第5章「公安」編

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第146話「継承」

「陸奥伊都子さんですね?『協会』までご同行していただけますでしょうか?」


少し前に支援者集会を開いたホテルのロビーに、伊都子は今日は『陸奥伊都子』本人としてアイスコーヒーを飲んでいた。そこに声をかけたのは塚本だった。宮本孝子の秘書役をしていた、事務局次長である。


「……宮本会頭からお話は伺っています。よろしくお願いします」


それだけ言って、ロータリーで高級ワンボックスカーに乗る。


「こちらが宮本会頭からの手紙です」


生前、宮本孝子は塚本に手紙を預けていた。それを昨日、精神感応で読み取り、今日は宮本の擬態を体調不良を理由に休んだ。その代行として、塚本が動いたのだった。


(孝子さん、本当に『知っていた』のね)


手紙を開封する。


『陸奥伊都子さま。

挨拶は省かせてもらうわ。それから、忠告を1つ。『潜入』してるなら『本来の正体』につながる持ち物は持って来ちゃ駄目よ。『明王義塾学園、高等部1年の陸奥伊都子さん。私の家に泊まった時に見ちゃったの。ゴメンね。

そして『ただの高校生』が戸籍や住民票まで用意はできない。だから、あなたは公安の潜入調査だと思ってる』


ここまで読んで、一度目を逸らした。ほぼ最初からわかっていたのだ。それでも孝子は伊都子の『椎葉ユウ』としての潜入に乗ったのだ。


(……敵わないわね)


そう思いながら、手紙の続きを読んでいく。


『さて、そんな伊都子ちゃんにお願いがあるの。「世界調和協会」を私がいなくなった後、引き継いで欲しいの。あなたは普通の高校生ではない。きっと「公安」かあるいは私の知らない「国家的組織」と繋がっているはず。

協会員数20万人の組織、「悪意」のある人に渡れば公安の懸念通りになってしまうわ。

その点、国家ともつながる伊都子ちゃんなら私も国家も安心でしょう。私がいなくても、すでに組織は回るようにできてる。

だから、お願いね。 宮本孝子』


(……孝子さんらしいわね)


少しだけ感傷的になりながらも、宮本孝子から陸奥伊都子へと、組織の継承が上手くいくように動かなければならない。


そのための今日は役員数名へのあいさつ周りである。


「……ところで塚本さん、宮本会頭の容態は?」

「医者からは『春は迎えられないだろう』と」


つまりは塚本は『知っている側』である。

孝子が末期がんに冒されてい「た」事をだ。


「……そう」


短くそれだけ言って、窓の外を見た。


『本物』の宮本孝子は既に旅立った。


それを知っているのは『世界調和協会』の中でも伊都子だけなのだ。


短い車での移動で協会の入るビルに辿り着く。


数日前にもらったゲストパスを首から提げる。


♦︎♦︎♦︎


「ーー以上が、私の提案です」


会議室に3名の役員と原田顧問弁護士、塚本の5名が伊都子の提案を聞いた。


「既に埼玉と神奈川でテストを行なっています。協会の支援者の店です」


塚本の補足説明に全員が資料に目を移す。


「たった25人の動員で売り上げが30%アップか!これは昨年対比かそれとも前月比か?」

「ああ、注釈が抜けていてすいません。前年比です」


そして、原田顧問弁護士の口から、『それ』は伝えられる。


「この提案をした『陸奥伊都子』さんが、宮本会頭に何かあった場合の『後継者』になります。既に、『秘書見習い』として同行をご覧になった方も多いでしょう」


それに3人の役員はそれぞれの反応を返す。


「僕は賛成だ。この新規事業だって既存事業に上乗せでほぼ負担も変化もない。それでいて『我が協会』の存在感を向上させる素晴らしい案だと思う」


中部地方の代表役員だった。この中では比較的若い。さらに東北地方の役員が少しだけ付け加える。


「私は現在の『世界調和協会』は宮本会頭あってのもの、と考えていた。しかし、この子は負けず劣らず支援者集会で存在感を示した。だから『後継者』というより、『ニューリーダー』とした方がいいのではないか?」

「……東北の佐々木役員の言う事もごもっともです。アタシに宮本会頭の『代わり』なんて務まりません。ただ、会頭の病状を鑑みると、ここで静かにリタイアしていただくのも一考に値すると思います」


伊都子があくまで孝子の病状の心配というスタンスで押し返す。


そこに口を開いたのが唯一の女性代表である、関東地方代表役員の都留留美子である。


そして、伊都子にとって1番の『障害』であった。なにしろ『椎葉ユウ』として自己紹介しておきながら、現在は『陸奥伊都子』を名乗っている。つまりは『偽名』の使用が明らかになり、不信感だけを抱いているからだ。


「ところであなたは『どこの誰』なの?最近加入した『椎葉ユウ』という協会員に『ソックリ』だけど?」


(……本当にユウちゃんは『長田洋子』になりつつあるわね)


想定済みであった。

伊都子は1枚の書類と2枚の運転免許証を出す。


「……孝子さんの提案です。離婚した元・夫が何かで『会頭』となった事を聞きつけるかもしれないと……」


書類は改名の届けの写し、免許証は1枚は『椎葉ユウ』として、使えないように穴が空いている。もう一枚は『陸奥伊都子』と改名したものである。当然、公安が作成した『贋作』だが『本物』と同じ作りをしている。国家公安委員会が発行するものなので当然と言えば当然である。


(……『感情』で納得はできない。でも反論できる証拠はない。だから黙る)


静かに留美子の『思考』を読んだ伊都子がそう判断する。


結局、この会議で伊都子は宮本孝子の後継と承認された。


♦︎♦︎♦︎


1週間後。


東京都港区芝公園。


『東京のシンボル』としても、電波塔としての役目も静かに終えて、それでもやはり『象徴』としての存在感を放つ鉄塔がある。


『東京タワー』


特別展望台の上、そこに伊都子は『それ』を呼び出した。


「待たせたわね。『真犯人』さんーー」


ゆらりと炎が揺れるように相手は笑った。


「ボクも今来たところだよ。伊都子さん」

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