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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第5章「公安」編

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第145話「遺言」

「塚本君、ごめんなさい。今日の弁護士の原田先生とのランチミーティング、どこの店だったかしら?私ったら、スケジュールアプリに店を入れ忘れていたみたいで」


宮本孝子に『擬態』した伊都子が、『世界調和協会』事務局次長の塚本に聞く。『事務局次長』というポストは『秘書課長』のようなポジションでこの塚本が会頭である孝子の担当らしかった。


「それなら、先方に近い神田ハイアットホテルの和食店を押さえています」

「すまないわね。ありがとう」


事件から3日、なんとか『慣れた』と実感する。孝子に擬態する中でわかった事がある。


『事件』にかかわらず、孝子は長くはないという事だ。


まだ、協会内でも話していないらしいが、孝子は末期ガンで、あと半年は持たないと診断されていた。


それで自分が『いなくなった後』を決めておくために今日は昼から協会の顧問弁護士と会食の予定を入れていた。


♦︎♦︎♦︎


「遺言書の素案をFAXで貰った時はビックリしましたよ」


神田といっても大手町から首都高を挟んで反対側のエリアにホテルはあった。先日『椎葉ユウ』として1日秘書をした時の参加者の1人が目の前にいる、顧問弁護士の原田敬三であった。


「先に言っておくわ。私はもう長くない」


伊都子はそう言って診断書のコピーを差し出す。それを一読した原田が言う。


「『個人資産』については本来なら僕の仕事じゃない。けれど、あなたの頼みだ。サービスしておきます」


(……この原田って弁護士、本当に孝子さんを敬愛していたのね)


伊都子が相手の思考を読んでそんな事を思う。


「ごめんなさいね。個人的に弁護士の知り合いなんていないからつい、頼ってしまったわ」


伊都子のその言葉に、原田は微笑んで答える。


「構いませんよ。それで個人資産は息子さんの章一君に相続。それは構わない。問題なのは協会の方だ。『陸奥伊都子に代表者や権限を移譲する』ってあなた案。これは理解しかねる。そもそも『陸奥伊都子』なる人物を僕は知らない」


その想像を絶する衝撃に、伊都子は一瞬と言わず数秒は制止した。


取り繕わなければと何とか持ち直す。だが、心臓はバクバクと早鐘を鳴らし続ける。


「この前、見たでしょ?秘書見習いの子よ」

「『気にいってる』じゃ、ダメかしら?」

「『世界調和協会』20万人のトップ。そんなにふんわりした理由で決められませんよ?」

「そうよね……」


(……そんなのアタシが知りたいわ!)


心の中で毒づく。


(……仕方がない、『奥の手』よ)


「あの子が『この会』にとって、新たな『基幹事業』をもたらそうとしていても?」

「内容をお聞きしても?」


原田が食事をする手を止め、水を飲んでこちらをしっかりと向いた。


伊都子もここが勝負所と理解する。


「ここの和食は『イシュランガイド』で星を獲得している。でも市井の人たちは何を使うか知ってる?」


欧州のタイヤメーカーが発表する星の数によって、その店に『箔』や『格』が付与される。だが、もっと汎用性のあるサービスがネット上には存在する。


「『モグログ』や『ぐるぐる・マップ』、『ホット・ペーパー』あたりでしょうか?」

「正解よ」


そこで伊都子はもったいつけるように一呼吸置く。


「さっき、あなたは言ったわね。『会員数20万人』と。それだけあれば、例えばあそこに見える看板の店、行列店にできると思わない?あの子はそれを提案してきたの」


原田が見た事のない素の表情に一瞬だけ戻る。そして笑う。


「なるほど。『新規事業』にも関わらず、即座に、しかも初期投資ゼロで始められる。あなたの言う通り『基幹事業』になり得る!」


原田の目の色が変わる。声も少しだけ大きくなっている。


「いいでしょう。その遺言書。作成しましょう」


伊都子はホッと胸を撫でおろした。


(さすがユウちゃんね。孝子さんに取り入る策だったけど、ここで活かせたわ)


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