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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第5章「公安」編

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第141話「隙間」

東京都渋谷区渋谷、『蛍光出版社』。


「ん?伊都子ちゃんから、クラウドにアップされたわね。何かしら?」


管理官である田中奈津美がファイルをタップする。


「映像データ?これは……」


絶句する。

そこにアップされたのは代表である宮本孝子と各エリアの代表役員が一堂に揃う、役員会議の映像だった。どうやって撮影したのか不明だが、発言内容や資料の大部分までしっかりと映っている。


「まだ潜入して4日よ?ウチの部下が半年接触して梨の礫なのに……」


その一方でユウは長田洋子の生い立ちから、長田洋子が複数存在する『可能性』を掴んでいる。


「佐藤ゆりあ大臣の人選に間違いはないって訳ね」


控えめに言って『有能』。大袈裟に言えば『天職』。そんな考えが頭をよぎる。


だが、この2人でさえ『次点』なのだ。秘蔵っ子である広井夏樹はどんなに優秀なのだろう。


♦︎♦︎♦︎


神奈川県足柄下郡箱根町、『ハピネス病院・箱根』


「……お待たせしました」


伊都子がトイレから戻る。そこで午前中に撮影したデータをクラウドにアップしたのだった。その上でスマホ上ではデータを消去しておく。これで万が一スマホを見られても『偶然、カメラが起動していた』と言い訳できる。


「もうすぐ経営会議だけど、今回は午前中の会議みたいに立ちっぱなしではないわ。何か発言を求められる事はないし、私も今日は聞くだけのつもりだから、そのつもりでね」

「……はい」


伊都子が病院内を見学していた時、孝子はこの病院の病院長と面談していたようだ。病院長とは先程、名刺交換している。初老の男性で木村という名前だったはずだ。


30人は席に着けそうな会議室に5人が座っている。1番窓際の上座に孝子が座る。自然と空席が1つできて、そこが自分の席だとわかる。伊都子も1礼して座る。


「秘書見習いの椎葉ユウちゃんです。待たせても良かったのですが、せっかくなので聞いてもらうって、今後の経験に活かしてもらう事にしました」


病院長にはあいさつ済みなので他の内科部長、外科部長、看護師長にあてた説明で、その3人も特に異論はなさそうで会議が始まる。


「まずは私から」


と言って先程まで病院を案内してくれた岡村事務長が発言する。


「皆さんご存知の通り、今年度より、というか4月から『医療法人ハピネス会』傘下になった訳ですが、6月までの四半期収支報告がまとまりましたので、報告させていただきます」


全員が示し合わせたかのように手元の資料をめくる。


「ご覧の通り、1〜3月期も昨年同期も病床稼働率70%前半から今期は96.7%に向上しました。専門の先生方の整理縮小も相まって、医業収益は13.2億、営業利益は2.1億となり昨年度通期決算1.9億を回収しました」


ここで岡村事務長は一旦、区切る。

どうやらここで病院長が話すと決めていたようだった。


「僕の経営が不甲斐ないばかりに、ここ数年皆さんには迷惑をかけました。先程、会頭とお話しさせていただいた結果、次の四半期も高水準ならボーナスの上乗せの許可もいただきました。この場をお借りして、宮本会頭、本当にありがとうございます」


突然、話を振られた孝子は驚くが、それでも動じなかった。


「皆さんの頑張りでこの数字が出せているのです。特に看護師の方々はある意味で低稼働に慣れていたので、大変だった思います。この資料にある通り、看取り数も月2件から22件に増加していますから」


そう言って看護師長の方を向く。

伊都子が収支報告書を見るが、一見して普通。どころか上手くいっている。


会議はそこから細々とした話題に移る。患者数増加による、付近の温泉旅館・ホテルの健康診断の長時間化や患者急変時のマニュアルの強化など、全員の顔が明るい。思考を読むまでもなく、全員が病院を良くしようとしていた。


(……これのどこが問題なのかしら?)


思わず伊都子はそう思ってしまう。


程なく経営会議は終了し、孝子と伊都子は帰路につく。


「……この病院って、4月から『ハピネス会』に加わったのですね」


伊都子が聞いた。


「言ってなかったわね。そうなの。『ハピネス会』で債権30億を買い取る形でね。『ハピネス会』は昔、私も働かせてもらってた医療法人で『世界調和協会』の傘下団体なの。本部は広島にあるわ」


高級ワンボックスカーは途中、海老名サービスエリアで停車する。孝子の指示だった。


最近のサービスエリアのトイレは個室が広い。普通にトイレに入っても怪しまれずにおむつの交換が可能になっている。伊都子も素知らぬ顔で交換を済ませて、ベーカリーで2つだけパンを買う。


この後、会食の予定だが同席できるかは不明なのだ。最悪の場合、食べるのを後ろで見るだけになる可能性もある。相手は都議連のトップともう1名と聞かされていた。


軽く小腹を満たしながら、車は東京へ戻る。

首都高を降りて、見えてきた景色に一瞬ドキッとする。飯田橋だったからだ。通りの1本奥が明王義塾学園であった。運転手はそんな伊都子の内心など知る由もなく、飯田橋駅前を右折して目的地付近に近づく。


昭和の時代から、政治家や実業家の会合で有名な町に辿り着く。


神楽坂。


三年坂で車を降りて、少し路地に入ったところにあるビルの6階に看板のない店があった。


「ここよーー」


言いながら、腕時計を孝子が見る。


「ーー相手の指定だから私も初めてなんだけど、会員制の店らしいわ」


入口を入るとカウンターだけの店のようだった。


「宮本孝子会頭ですな。はじめまして」


ロマンスグレーのオールバックの初老の男性がそこにいた。


「え!山岡幹事長?」


都議連のトップと聞かされていたが、どうやら孝子も今、知ったらしい。


「都議連の村岡に紹介いただく予定でしたが、肝心の村岡がこの有り様でしてーー」


山岡幹事長がスマホを取り出して見せる。


『村岡都議、代表質問中に吐血。緊急入院へ』


そんな見出しがネットニュースになっていた。それで孝子は納得した表情を見せる。

伊都子は連れにも驚いている。


(……どうして、ここに?)


そこにいたのはユウだった。

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