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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第5章「公安」編

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第137話「可能性」

現在、山形県天童市、特別養護老人ホーム『天童高原の里』


「ーーこれでワタシの知ってる話は以上だ。人から聞いた話もあるし、正確かどうかは保証しないよ」


途中で煙草を5回ぐらい吸いながら、上田ヨネさんの回想が終わる。


ボクはいつしか握っていた掌が、汗でびしょ濡れになっていると気づいた。


「次はアンタの番だよ。なに、難しい話をしろって言うんじゃない、『アンタにとっての長田洋子。もしくは上田理子』だよ」


まだ頭の中が整理できていない。けれど、ヨネさんのその問いには答えられた。


「『母親』ですね。2番目の。ボクは1年前まで男で長田さんに『魔法少女』にしてもらった。魔法の使い方も、家を飛び出したボクに衣食住を与えてくれたのも。全部まとめて『母親』です」

「……あの子は95年まで公安の中心にいたが、いきなり辞めて海外へ行った。それがアンタみたいなのを助けたなら、良かった。あの子は他人を不幸にしてばかりだからね」


そう言って6本目の煙草に火をつける。


「幼少から長田さんを見ていて、『怖い』とか思わなかったんですか?」

「それはアンタが『戦後』を知らないからさ。例えば、地上100mにクレーンで吊られた鉄骨がある。アンタはそれに両腕でぶら下がっている。この時に今日の晩ご飯を考えるかい?毎日が『鉄骨にぶら下がり』さ。それが『戦後』の日常だ」


そう言って、紫煙を細く吐き続ける。


「ただし、誰にでもチャンスがあった。銀座でパンパンやっていた奴が大統領夫人になったり、日本一有名な占い師なんかも大物と出会ったからさ。その分、誰でも『落ちる』可能性もあった訳だけどね。理子だって同じさ」


でも、ボクは気づいてしまう。


「今出た3人って、長田さん(理子)も含めて『元魔法少女』ですよね?」

「なんだい、他人に話を聞きに来ただけのガキかと思ったら、しっかりと『予習』してきてるじゃないか」


そう言って笑う。


「それならもう1つ、教えてやろう。『巣鴨プリズン』で理子は普通なら東條英機の方で待つと思わないかい?」

「長田さんらしいですね。最初から岸川信男総理狙いだったんでしょ?」

「そうさ。それを5歳でやってのけるから『怪物』なのさ。そこで才能を見せつけ、政治に深く関与していった。だから95年まで権力を維持できた訳だ」

「石田茂学校と鴨山・岸田グループどちらにも顔が効いたんですからね」


灰を落としながら、ヨネさんが笑う。


「よく予習しているじゃないか。だが、それだと半分正解だね。最近あったって言う、長田洋子と佐藤ゆりあの抗争。あれはその時代から続く、イデオロギーの争いでもあった訳だ。そこをわかってないと長田洋子と佐藤ゆりあが一緒になっちまう」


そこで火のついた煙草を灰皿に投げ込む。

ジュっと音を立てて、火が消える。


「それと『戦後』には誰でも『可能性』があったって話だ。アンタは無自覚に気づかないフリしてるだろ?その『可能性』に」


ボクの心臓が跳ねる。

前にゆりあ大臣に『長田さんの最後』を尋ねた時、ボクはそれを知っていた。


魔法少女に銃弾は通用しない。

上田理子の母親も父親も沖縄戦にいった。

『戦後』という、『可能性』の塊。


(そこから導き出される結論はーー)


思考が、止まる。


いや、違う。


(そんなはずがない)


一度、そこで打ち切る。


けれど。


——それでも、辻褄が合ってしまう。


それは上田理子や長田洋子が『もう1人』存在する『可能性』だった。


「アンタは確証が持てないみたいだが、ワタシは『いる』と思ってるよ」


そう言ってヨネさんが笑う。

その笑顔は長田さんにそっくりだった。



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