第134話「巣鴨プリズン」
昭和23年(1948年)3月、東京都豊島区池袋。
『巣鴨』と言っておきながら、実際には現在のサンシャイン60の付近にそれはあった。
『巣鴨プリズン』。
現在も続く東京裁判、その被告人たち——
東條英機をはじめ、この国を戦争に引きずり込んだ人間たちが集められた場所だった。
当然ながら、周囲は進駐軍が厳重に警備している。
鉄条網の向こうにあるのは刑務所ではない。
まだ終わっていない『戦争』そのものだった。
ーーー
「日吉伍長、頼む」
辻村敬之元中将が言った。
「は!」と短く返事して、少女が前へ進み出る。
「『擬態』!」
難なく警備ゲートを突破する。それどころかこちらに敬礼さえしてくる。
「……何をしたのだ?」
ためらいがちに、辻村ではない脇にいる男性が不思議そうに尋ねた。
「彼らには私達が『東京裁判』関係者に見えているはずです」
日吉伍長と呼ばれた少女が答えた。
「日吉由佳伍長は『催眠』の使い手でな。満鉄調査部でその能力で工作活動に従事していた」
補足するように辻村元中将が言った。
「辻村中将、そこの左側の房になります。秋松中尉、せっかく『異能少女』に擬態してもらっているのです。堂々としていてください。中で迷わぬよう、『照銀』を襲ってどの房に誰がいるかまで調査したのですから」
「ーーそうだな」
秋松と呼ばれた男が何か言いかけて、短い返事に変えた。
そうして難なく、東條英機の前に辿り着く。
「閣下、お迎えにあがりました」
辻村元中将が敬礼と共に言った。
「……辻村か?久しいな。大陸にいたはずだが、無事に帰還したようで何よりだ」
真っ直ぐにこちらを見て、そう言った。
「2・26事件の時、陛下の気持ちがよくわかった。介添えは不要。往ね!」
それだけ言うと、東條元首相は反対側を向きさらに言う。
「この国を負けさせた責任、その戦争を起こした責任は私にはある。例え、後世で何と言われようと、もう戦うべきではない」
それ以上、何も語らなかった。
♦︎♦︎♦︎
「さすが東條元帥だ。一度決めたら頑として譲らんな……もう1人。『元上司』のところへ行く」
辻村元中将が外に出るなり言う。右側の男がそれに応える。
「は!房が変わります。2つ点前のあそこにーーー」
その時だった。
調査を担当していた鶴岡少将が、目の前から消えた。
いや、物凄い速度で上空へ飛ばされたのだ。
「遅かったね」
目の前にいる幼女が笑って言った。
「『異能』……いや、海軍由来の『魔法』か?」
つぶやくように辻村元中将が言う。
「正解〜!景品です!」
幼女は本当に嬉しそうに笑った。
鬼ごっこを始める前の子どもみたいに。
「『かそーー』・・ケホッ!」
辻村元中将の左側にいた女が地面を蹴り上げて小石や砂が飛び、理子の詠唱が邪魔される。
「『転移』!」
目の前から4人が消える。
「『千里眼』!……いた。隣の建物ね」
♦︎♦︎♦︎
「岸川総裁!お迎えにあがりました!」
岸川信男、元満州鉄道総裁。彼も戦犯としてこの巣鴨プリズンに収監されていた。
「必要ありません。私は今年中にはここから出られるのですから。利点がありませんよ。それより、早く立ち去って下さい。おちおち昼寝もできません」
その時だった。
「み〜つけた!」
幼女が現れる。
「この呪文便利だね。『転移』!」
その瞬間、日吉由佳伍長の首にガラス板が現れる。
ポトリと首が落ちた。
「こんな使い方もできるんだもん」
そう言って幼女。いや、理子が笑った。
年齢に相応しい無垢な顔で。




