第132話「昭和18年の魔法少女」
昭和18年(1943年)、茨城県霞ヶ浦。
「上田中尉!新入りだ!」
『撫子少女訓練小隊』の司令官、今田幸次郎少佐がワタシに言った。傍らには15歳前後の少女がいた。
「自己紹介!」
今田少佐の言葉にビクつきながらも反応する。
「本日より配属になりました、北原理恵です。お願いします」
この子が後に上田理子の母親となる、北原理恵との初対面だった。
ーーー
「上田先輩、この隊って何をする隊なんですか?」
理恵が尋ねた。
「軍隊なんだから決まってるでしょ。戦うのよ。それと私は『上田中尉』よ。軍隊なんだから」
そう言ってワタシは理恵にホウキを渡す。
「それとコレね」
魔石の嵌った指輪。
魔法を使うために必要なものだ。
「さあ、まずは飛行訓練よ」
「え!ええぇ?」
昭和18年、8月。
海軍内部では戦況の劣勢が明らかであり、それを『魔法』で補おうとした。
それが『撫子少女訓練小隊』である。
♦︎♦︎♦︎
2ヶ月後。
「北原理恵の『能力向上』はどうだ?」
今田少佐がワタシに聞いた。
「現状で100キロ。『千里眼』には程遠いわ」
「1600キロは無理でも、『250里眼』は欲しいところだな」
魔法少女は飛行・身体強化とは別に固有魔法を持つ。ワタシは『加速』で北原理恵は『千里眼』だった。
「先輩!来ます!B25!21機!」
「距離は?」
「75キロ」
「了解。迎撃するわ!」
旭日旗の下、旗竿の押さえとして人間の頭部程の石が複数置かれている。
「角度は?」
「このまま現状で約10度」
「30度まで引きつける。合図、お願い」
「後15秒……10、9、8、7、6」
5
4
「『加速』!」
10個の石が「シュ!」と音を立てて消える。
2
1
「着弾!墜落4、損傷3……旋回を確認しました!」
理恵の声が弾む。
「2人ともよくやった。今日も帝都を守ったな!」
後ろで見ていた今田少佐も言った。
この時、誰も知らなかった。
はしゃぐ北原理恵のお腹に「理子」がすでにいる事、そしてワタシは今田少佐こそ、理子の父親だと思っている。他に男性がいなかったからだ。
そして、生まれる前から理子は『魔法』に触れて大きくなっていった。
翌年の7月、理子が生まれた。
母親である『理恵』から1文字とっただけの簡単な名前だった。理恵は尋常小学校も碌に通っておらず、そうなったのだった。
そして翌月には、『撫子少女訓練小隊』が『なでしこ少女小隊』として正式発足した。
同時に、隊の半分が沖縄防衛戦に投入される事になり、理恵は理子を置いたまま帰ってこなかった。ワタシが理子の父親だと思っている今田少佐も、一緒に。
ワタシは帝都防衛のために残された。
しかしーー
「またB29です!高度が高すぎて応戦できません!」
ワタシも同じだった。
『自由の国』はその圧倒的な技術力、工業力を持って日本を空襲し続け、軒並み焼け野原になった。
その後は知っての通り、昭和20年8月に敗戦した。玉音放送を聴きながら、理子は無邪気に笑っていた。今田少佐が残していった、訓練用の木刀にまたがってフワリと宙を飛んでいた。
(この子は隠さなければ!)
そう思った。じきに『自由の国』がやってくる。彼らに発見されてはいけないと『上田理子』として、戸籍原本が焼けた川崎で私の実子として届けを出した。
この日から、ワタシは『怪物』の母になった。




