第131話「最後の魔法少女」
2ヶ月前、東京都港区、羽田国際空港第2ターミナル。
「さくらちゃんはメディカルチェックね。決勝まで『魔力』をフル活用したのだから、キチンと1度見てもらいましょう」
連合王国で行われた『魔法少女ワールドカップ』の後、帰国してすぐにさくらが言われた。
(ここで止めるべきだった)
後悔が襲う。しかし、無情にも現実の通りに夢は続いていく。
東京都文京区明王義塾学園、魔法少女用医務室。
「さくらちゃん、CT撮るから『テンペスト』は外してね」
廊下で待つボクにもその声は届いた。
ーーそして、それは起こった。
「『強制睡眠』!」
ゆりあ大臣の声。
それから、さくらは眠り続けている。
♦︎♦︎♦︎
現在、東京都渋谷区、某ホテル。
夢から醒める。
強烈に『夢を見た事』を覚えていて、
心臓が跳ね続け、呼吸も浅い。
(そうだ。ボクはーー)
守るべき人は、もういない。
いや——
最初から、
守れてなんていなかったのかもしれない。
どうやら照明もテレビもつけたまま眠ったらしい。女性アナウンサーの天気予報を告げる明るい声がやけに耳についた。
ミネラルウォーターをホテルの備品のポットにセットして、軽くシャワーを浴びる。上がる頃にはお湯ができているのでアメニティーのコーヒーを淹れ、スマホをタップする。
(伊都子さん、凄いな。もうトップに会えたのか……)
化粧水と日焼け止めを塗る。日に焼けるとリサがうるさい。それにもう習慣になりつつあった。
ホテルを出て、湘南新宿ラインで大宮駅まで出てから、山形新幹線に乗る。ボクは大きなターミナル駅が苦手だ。高確率で迷う。だから東京駅を避けて大宮駅を使う事にした。
♦︎♦︎♦︎
山形県天童市、特別養護老人ホーム『天童高原の里』
「面会を予約していました、椎葉ユウと申します」
インターホンに向かって言うと、職員が丁寧に対応してくれる。「職員のみなさんでどうぞ」と手土産を渡しておく。下手をすると数回、来なければいけないかもしれないからだ。
「誰だい、アンタは?」
そう言って談話室に入ってきたのはベリーショートの高齢女性だった。
「はじめまして、椎葉ユウと申します。上田ヨネさん」
「ーーアンタ、『公安』か『魔法少女』か『どっちも』だね?」
さすがだと思ってしまう。
目の前にいるのは、長田さんの母親ーー
いや、『長田洋子』は公安での偽名にあたるから、『上田理子』の『戸籍上』の母親だった。
そして、最後の『戦前世代』の魔法少女でもあった。
「理子の事だね?誰かに聞かれても困る。喫煙所に行こう」
そう言って、庭に設置された東屋まで歩く。ヨネさんは今年で3桁の年齢になる割にしっかりとした足取りでボクを案内した。
「それで理子の何が聞きたい?」
どこからか煙草を出して火をつけた。
「上田理子が長田洋子になるまでです」
それを聞いて吹き出すように笑った。煙草の煙が一緒に出ていた。
「はは、それはワタシにしか聞けないね。いいだろう」
そう言って、また笑った。
「まずは上田理子はどこにもいない。そこから理解する必要ある……」




