第128話「出てきたもの」
「ほう、そういう格好をさせると未成年には見えんな」
山岡幹事長が言った。
ボクはシンプルな紺の膝丈のワンピースに薄手のベージュのコート、派手すぎないがキチンと『している』事がわかる程度に化粧をしてこの場にいた。
「……すいません、メールでも良かったんですが……」
そう。ボクが山岡幹事長に『お聞きしたい事があります』とメールしたところ、『今晩8時、ココで』とURLのついた返信があった。
それがここ、銀座の会員制のバーだった。
「構わんさ、たまには若い娘と飲んでもバチは当たるまい」
「あら、私は若い娘に入りませんか?」
山岡幹事長の冗談を軽く刺すのは佐藤ゆりあ文部科学大臣である。言わずもがな、ボクの上司にあたる人だ。
「質問の内容から、この2人がいた方がいいと判断した。ちょうど、補正予算の件ですり合わせも必要だったからな」
「そっちは済んだから、ユウちゃんの用事を優先して大丈夫よ」
ボクがこういう場所に慣れていない事を察してか、2人とも穏やかに接してくる。
「では、単刀直入に。昨年12月24日の『長田洋子の最期』についてです」
それを聞いて、佐藤大臣が少しだけ目を伏せた。
この2人はそれの目撃者というか当事者だ。
「長田洋子は拳銃による自殺だった。でも『魔女』に銃弾なんて聞かないのは、2人ともご存知のはずです」
それを聞いて、ゆりあ大臣がグラスをコースターの上にそっと置いて口を開く。
「それは私から説明するわ。昨年12月24日のクリスマスイブ、私達と『シークレット・ヘブン』は全面対決をしていた。ニセコ、仙台、東京、横浜、名古屋、大阪、広島、福岡の8ヶ所でほぼ同時に。これが前提条件よ」
それはボクも知っている。というかその時、横浜でボク達とさくらは戦っていた。
「そして、『東京』は八王子に長田洋子が現れた。ヒロイ型AMFGで魔法を無効化した結果、身体強化はできなくなる。だからこめかみに拳銃を当てて、引き金を引けば一般人と同じく『自殺』できる。これは事実よ」
それを継ぐように、今度は山岡幹事長が言った。
「引き金を引く直前、彼女はこう言った。
ーー『終わりの始まり』だと」
それを聞いてボクが笑う。
それを予想していた山岡幹事長も笑って続ける。
「まるで今の状況を『読んでた』見たいだろう?」
「流石、長田さんです。『自らの死』すらプランに入れる。『狂気の沙汰』ですね」
ボクと山岡幹事長を見てゆりあ大臣も笑う。
「まるで親子ね。似てるわ」
「ゆりあ大臣、あなたにだけは言われたくない」
「確かに、佐藤大臣だけは駄目だな」
長田洋子も、藤原さくらも、佐藤ゆりあが『消した』のだから。
ボクの前に洒落たグラスが置かれる。
「ノンアルコールカクテルだ。せっかくこういうところにいるのだから、雰囲気だけでも味わっていきなさい」
「……山岡さん、このシーン撮られたら1発アウトよ?……それにしてもユウちゃんに甘いわね」
山岡幹事長に軽く頭を下げて、淡い青のカクテルをいただく。
「さて、本題ですが、『世界調和協会』の件。感覚的に『長田さんの匂い』がしないんですよ」
「確かに、長田洋子のクローンは世界のどこかにいるだろう。だが、『世界調和協会』の教団内には影も無いな」
ボクの根拠のない言葉を山岡幹事長が同意する。
「簡単には見つからないって話じゃないの?」
ゆりあ大臣がそう言う。
でも、ボクの感覚は違うものを捉えていた。
「伝わるかどうか怪しいですけどーー」
とボクは前置きする。
「ラーメン屋に行って、うどんが出てきた。みたいな」
それを山岡幹事長が『消化』する。『翻訳』と言ってもいいかもしれない。
「なるほどな。『ラーメン』も『うどん』も、鰹節にいりこ、小麦粉に醤油……『材料』は同じだか、『料理人』が違えば出てくる『料理』が違う。同じ原理で『世界調和協会』を見て、逆算すると、長田洋子ないしはクローンが関わっていない。と感じているーーと言ったところか?確かに俺も感覚だけでいえばそうかもしれん」
自分の中を確認するように山岡幹事長が言った。
「逆じゃない?」
ふと、ゆりあ大臣が言った。
「長田洋子のプランの実行、そのものが『目的』とか?」
ボクより幼く見えるゆりあ大臣が、妙な色気を帯びる。
「つまり、“長田洋子を探す”こと自体が間違いなの」
ゆりあ大臣は、
氷の溶けたグラスを指先で回した。
「本人がいなくても回る仕組みを作ったなら、それはもう“勝ち”でしょう?」
その言葉に、
少しだけ背筋が冷えた。
「宗教って、そういうものでしょ」




