第127話「一歩」
東京都渋谷区渋谷『蛍光出版社』。
長田洋子は、42人を消した。
その結果として、『魔石』が生まれ、『テンペスト・レプリカ』が作られた。
その事実に、ボクは思わず笑ってしまう。
善悪で言えば、もちろん『悪』だ。
でも——
もしそれで、1億2000万の日本国民が救われるとしたら?
ほんの一瞬だけ、考えてしまった。
ボクはその考えを振り払うように、口を開いた。
「でもこの事件も長田洋子こと、上田理子か『シークレット・ヘブン』がやった事で、『世界調和協会』や『医療法人・ハピネス会』は無関係の可能性が高い。ただ、42人も消されて誰も騒いでないって事は『選別』された可能性がある」
「そうね。その可能性は高い。しかも『世界調和協会』は家庭環境を知っている」
ボク達の間に、言葉にしづらい沈黙が落ちた。それを破るように田中警視が聞いた。
「長田洋子ってどんな人だったの?」
「簡単に言うと、……『小学校の先生』かな?」
第1印象からクリスマスイブのあの事件の朝まで、ずっとそんな感じだった。
田中警視は表情で補足を待っているとわかる。
「中学や高校みたいに教科じゃなくて、生活も体調も全部見る感じ」
「あー、下手な母親より『お母さん』って感じの?」
「そうそう!そして怒らせると怖い」
自分で望んだけれど、ある日目が覚めたら性転換が終わっている。平気な顔で『人を殺して来い』と命じる。ボクが出会う前にはさっき聞いた42人を無きものにしている。
正気を保ったまま、狂った人間。
ーーボクはそう思った。
「ふふ……お義父さんと同じ顔してるわ」
「山岡幹事長と?」
「そうよ。お義母さんが言っていたわ。『だから子供のできない身体の私と結婚した』って」
田中警視は窓の外、ビルの隙間から見える空に視線を移した。
「気づいていると思うけど、山岡龍馬衆議院議員は公安OBよ。その活動初期、長田洋子とコンビを組んでいたの『森恒一夫』と言う偽名で」
「森恒一夫・・・まさか、あの。『連帯赤軍事件』?」
だとすれば、山岡幹事長の長田さんへの『執着』も納得できる。
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千葉県某町
「椎葉さん、生活家電持ってきたわ。使って」
都留留美子が伊都子の部屋に上がりながら言った。
「近所のお子さんが地方の大学で1人暮らししていた時に使っていたものなの」
そうして留美子の手により、ある程度、生活ができるようにアパートが整えられていく。
「『催眠』!」
据えつけたばかりのベッドに、留美子がゆっくりと沈んでいく。
「……特段、普通の人生ね」
昨日会ったばかりだが、魔法で『優先度』を変更していく。
これで『古い付き合い』と留美子が認識するようになる。
「……さあ、『協会』へ案内してもらいましょうか」
静かに伊都子がつぶやいた。




