第126話「潜入調査」
千葉県某町役場。
「そう。旦那さんがDVを。安心して、そういう人達を支える団体があるの」
談話スペースでミネラルウォーターを片手に、20代の女性の話を聞く。
「住むところは?決まってるの?」
「……はい。でも保証人がいないと保証会社は私の場合、日雇い派遣で審査、通らなくて」
ポツポツと言った感じで話す20代女性を、その中年女性はゆっくりと整理するようにさらに聞く。
「ごめんなさい。……最初に聞いてなければいけない事だったわ。お名前は」
「……椎葉ユウです」
「ユウさんね。ワタシ、これでもこの町の議員なの。これが名刺。都留留美子よ」
ユウと名乗った女性は名刺を受け取る。
「『世界調和協会』って団体があるの。まあ、ワタシもお世話になったの。今回はワタシがチカラになってあげる」
そういって、都留議員は笑った。
♦︎♦︎♦︎
「……入れたわ」
スマホで連絡を取る。
『お疲れ様、伊都子さん。それで首尾は?』
電話の向こうは本物の椎葉ユウ。
「……『椎葉ユウ』って偽名に引っかかるけど、大丈夫。都留留美子に近づけたわ」
『それじゃあ、引き続き頼むね』
「……了解」
都留留美子に保証人になってもらい、アパートで横になる。
「……静かで、いいところだわ」
家具も何もない、空のアパートの一室でつぶやいた。
♦︎♦︎♦︎
同じ頃。渋谷区渋谷、『蛍光出版社』。
伊都子さんとの通話を切る。
「田中管理官、1つ質問いいですか?」
資料に目を通していた、田中警視が顔をあげる。
「なに?」
「『世界調和協会』、調べれば調べる程、『善意の組織』じゃないですか?長田洋子率いる『シークレット・ヘブン』に資金提供していた以外に何か違法性はあるんですか?」
田中警視が笑顔で言った。
「『ない』わ。……だから厄介なのよ。これを見て」
そう言って、1冊のファイルをキャビネットから取り出した。
「『医療法人・ハピネス会 財務諸表』?」
ボクはそれに目を通していく。
「なんだよ……これ?」
「ハピネス会は『世界調和協会』の構成組織の一部よ。気持ち悪いでしょ?」
「人件費が異様に安い。人は雇っているみたいなのに」
「そう。介護っていうのは人手がかかるビジネスなのにね?それが他の1/3なら当然ボロ儲けよ。ここ20年で広島から伊豆・蓼科・軽井沢・由布院と観光地に高級老人ホームを運営してる」
その説明に、今度はボクが続ける
「そこに『世界調和協会の生活保護受給者』を送り込んで人件費を浮かしている。ボランティア扱いにすれば、違法にはならない」
『世界調和協会』の代表が宮本孝子に変わった後、このハピネス会は飛躍的に成長している。
「もう1つ、これは『表沙汰』にできない事があるの。『ハピネス会』は伊豆に老人ホームがあるの、そこで昨年7月、『入居者消失』事件が起こってる」
「ひょっとして、『魔法少女』絡み?」
「カンがいいわね。これは確証がないけれど、入居者を殺していたら、死体の運搬で相当目立つ。でも『魔石』なら?」
背筋がゾクっとした。一般人に魔石の微細な粉末を吸引させると『魔力中毒』になり、その後ビースト化する。それを倒すと『魔石』が得られる。そこに『死体』は残らない。
ずっと疑問だった。ボクが『シークレット・ヘブン』にいた時、魔法を使うために渡されたのが『テンペスト・レプリカ』だった。当然、内部に『魔石』が内蔵されていて、魔法が使えた。
では、その『魔石』はどこから来たのだろう?
ーー考えたくなかった。
ボクは長田さんの『狂気』に触れた気がした。
「表向きは台風避難の際の『事故』として処理されたわ。犠牲者は42名。『あのカルト教団』の記録をそれだけで更新しているわ」
その言葉にボクは少しだけ笑ってしまった。




