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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第5章「公安」編

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第125話「宮本孝子」

1997年9月(宮本孝子の転入から1ヶ月)。広島県某町。


「幸子さん、章一を預かっていただいて、ありがとうございました」

「いいのよ。この前なんて、ウチの人、章一を抱っこしたまま麻雀やってたのよ。それから、ナス。近所からもらったのだけど、ウチも農家だからナスなんて売るほどあるのよ。よかったらもらって?」


孝子は悪いなと思いつつビニール袋を受け取る。なおも幸子の話は終わらない。


「そう言えば、この前面接で決まりかけたスーパー、閉店するんだって?」

「そうなんですよ。パートが決まらないのもですけど、アパートから1番近いスーパーだったので、そっちの方が大変です」


そこへこの町の議員である、立花俊介がどこかから帰って来た。同じぐらいの男性を連れている。


「お!いたいた。孝子ちゃん、紹介する。俺の高校の同級生の宮島光太郎だ」

「宮島です」


連れの男性が名刺を差し出す。


『医療法人ハピネス会・ハピネス病院事務長 宮島光太郎』


「宮島を紹介したのは他でもない、簡単なアルバイトをしないか?って提案だ」

「私の方から説明します。我々の『ハピネス病院』はこの辺では随一のベッド数を誇る病院です。しかし、山の中腹にあり、高齢者が通院しにくいのが難点です」


孝子が相槌を打ちながら聞いている。


「そこで送迎サービスを提供しようと計画しています」

「それを孝子ちゃんにどうかな?って。病院の通院時間だから変な時間ではないし、まだ保育所に通ってない章一も、一緒でいいようにお願いした」

「オフレコでお願いしたいのですが、『シングルマザーの応援をしてる』って病院のイメージ戦略でもあります。それに孝子さんが上手くいけば順次人を増やそうと思っています。それで細かい話は来週、病院で面接するとして、仮にですが、今日から軽自動車を貸し出します。慣れておいた方がいいと思いますので」


ここまでしてもらっていいのだろうかと孝子は思う。今、孝子が抱えている問題の大半を解決する。


「わかりました。とりあえず面接だけでもお願いします」

「実は私も『世界調和協会』の会員なんです。だからこれも、『教義』の実行ですよ」


宮島が洗いたてのシャツみたいな笑顔で言った。


♦︎♦︎♦︎


その夜。立花夫婦の家。


毎週金曜日はこの家で麻雀をするのがこの4人の習慣だった。まだ飲酒運転が厳罰化前であり、缶ビール2本程で日付が変わる頃まで、という明言化されていないがルールがある。


「しかし、立花はスキームを作るのが上手いな」


珍しく宮島から話題を切り出した。彼はこの4人で1番寡黙な男であった。


「……あれは孝子ちゃんに車を与える口実だよ。病院名義なら、生活保護の規定に引っかからない」


立花が苦笑しながら、字牌を切る。


「ポン!息子を乗せるのも、ですか?」


藤井龍一はこの中で唯一の年下であった。高校時代の立花や宮島の剣道部の後輩である。


「……まだ2歳だしな。母親と一緒で顔が売れる。この町に縁もゆかりもないからな。そうすれば爺さん婆さんは可愛がるだろうさ」

「俺が『上手い』と言ったのは収入だ。出来高払いだから病院の財布は痛まない、向こうは大した収入ではないが、車が持てる」


宮島がそう言った。それを聞いて立花と墨田が笑った。


「『善と悪、世界はコインみたいに単純じゃない』あの、長田洋子の言葉だよ」


墨田がそう言い、立花が続けた。


「大学の頃、学生運動で少しだけ一緒に活動していた時に言われたんだ。1年後、『シイバ山荘事件』で崩壊したがね。だが、言い得て妙だろう?」


♦︎♦︎♦︎


5年後。4月。統一地方選挙直後。


「まさか。だったな」


役場の総務課長になった墨田が選挙結果を見て、ポツリと言った。


「いや、悪い話じゃないってことにしておこう」


藤井が同意しつつ、言う。彼も課長に昇進していた。


『町長選挙・立花俊介 7,456票 当選』


その下。


『町議会議員選挙・宮本孝子 823票 当選』


ーーー


「立花町長ご当選、おめでとうございます。これから、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします」

「孝子ちゃんもおめでとう。正直言って、驚いた。俺の議員選挙の時より300票近く伸ばしているんだから」

「立花町長が紹介した『仕事』のおかげですわ。お年寄りに寄り添えば、案外簡単ですよ?」

「究極のドブ板選挙だな」


♦︎♦︎♦︎


現在、東京都渋谷区渋谷、『蛍光出版社』。


「ーーここから、県議会議員を経て、『世界調和協会』の幹部へ。……これが『世界調和協会』の現在のトップである、宮本孝子の経歴よ」


田中奈津美管理官が資料とともに言った。


「現在はちょうど50歳。山岡幹事長の情報では長田洋子こと上田理子はさくらと同世代、つまりは15歳ぐらいまでしか作れないって話だから、彼女は『シロ』だね」


ボクの言葉を田中警視が部分的に否定する。


「『傀儡』って可能性もあるわよ」

「少なくとも、上田理子がクローンの技術を手に入れ、実用化したのが15年前。しかもSFみたいに『同一人物』は作れない。『DNAが同じ他人』ってレベル……」


組織の中のどこかに『それ』がいるのだ。


♦︎♦︎♦︎


同じ頃、千葉県、某町役場。


「あなた、どうかしたの?」


20代ぐらいの女性に中年女性が声をかけた。


「……何でもありません」

「もう2時間もここにいるわよ。ジュース奢るから少しお話しを聞かせて?」


20代の女性は白いブラウスにワインレッドのロングスカートといった格好で、黒いロングヘアも相まって、どこか巫女服のように見えた。そのブラウスの袖からアザがチラついているのを、この町の議会議員である中年女性は見逃さなかった。


「ーーそう。旦那さんがDVを。安心して、そういう人達を支える互助組織があるの」


そう言って、柔らかく笑った。

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