第122話「ブリリアント・カット」
半年前、12月2日。青森県弘前市。
昼間のボク以外誰もいない自宅。
突然、インターホンが鳴った。
「椎葉ユウ君だよね?お話があるの、ちょっといい?」
無視しようとしたボクにその声は届いてしまう。
「さくらちゃん。探せるかもよ?もう名前が変わっているかもだけど」
――疑う理由は、いくらでもあった。
それでも、手は勝手に動いた。
ガチャリとロックを解除する。
「はじめまして。私の名前は長田洋子」
第一印象は『小学校の先生みたいな人』だった。
♦︎♦︎♦︎
さらに半年前、修学旅行2日目、東京都新宿区、新宿中央公園。
視界が真っ赤に染まり、自分の身体から黒い水蒸気のようなものが滲み出る。
「ユウ君?!」
さくらの声だった。
(近寄るな!さくらまで巻き込んでしまう!)
内側から溢れ出そうな『何か』を必死に抑える。
だが。
視界の中で、佐藤ゆりあ大臣とさくらが話している。
「あなたには素質がある。あの男の子の変化に気がついたのだから。あれは魔力を体内に貯め込んだ状態。『魔力中毒者』よ。放っておくと『ビースト』になる。これは『テンペスト』。装着しなさい」
「えっ、ちょ、ちょっと待って!?私、なんの訓練もしてないし、魔法とか──」
「うるさいわね。……いいから着けなさい。時間がないの」
そうして、さくらは魔法少女になりーー
「『浄化』!」
ーーボクは『助けられた』。
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再び半年前、12月2日。青森県弘前市。
「思いだせた?」
「……はい。ハッキリと」
日中の誰もいない公園で2人でベンチに座っている。カイロの代わりに、長田さんが買ってくれた缶コーヒーが指先を温めていく。
「この国は『魔法少女』を管理してる。それは過去、魔法少女が別の国に拉致されたり、理解されずに隔離された歴史があるから」
(それがこの世界の『裏側』って事か……)
そう思ったボクを長田さんが否定する。
「違うわ。世界は『表と裏』なんて薄っぺらいものじゃないわ。経済的、合理的、政治的……見方の数だけ形は変わるわ。あなたはあなたの『正解』を見つければいい」
やっぱり、学校の先生みたいな人だった。
「あなたの正解を見つけに東京に来ない?『シークレット・ヘブン』ってグループなんだけど」
「そこなら、さくらを探せますか?」
「さっきも言ったわ。『あなた次第』よ」
その日のうちに、ボクは家を出た。
♦︎♦︎♦︎
現在、東北自動車道。車中。
「ここだけの極秘情報よ。ネタ元は言えない。すぐに返して」
そう言って田中警視が資料を渡す。
(これって、口座情報!……え?おかしいだろ。こんなの!)
「ええ、上田理子こと、長田洋子は1円も自己資金を使っていない」
田中警視がボクの思考を読んだように言った。
可能性は2つ。
「『使いたくても使えなかった』か『そもそも使う必要がなかった』か、どっちだと思う?」
(……違う。そうじゃない)
ボクは知ってる。
長田さんとさくらはDNAが同じ人間だって事。
それなら。
あの『長田洋子』はーー
『本物の長田洋子』ではなかったかもしれない。
フロントガラスから見える景色は、いつのまにか東京の高層ビルを映していた。




