第113話「代打、椎葉ユウ」
東京都千代田区霞ヶ関、文部科学省・文部科学大臣室。
魔法少女ワールドカップから1ヶ月が過ぎた日の事。
「夏樹ちゃんの足取り、まだ掴めないの?」
この部屋の主である、文部科学大臣の佐藤ゆりあが言った。
それに対して、答えるのは水田マリ。魔法少女の隠れ家である『明王義塾学園』の理事長であり、ゆりあの右腕として知られた人物である。
「無駄ね。プロコトルごと偽装してる。これでGPSもWi-Fiからも居場所の探知は不可能よ」
結論を言いつつ、やれやれとマリは思う。普段は冷静なゆりあが、こうも取り乱すのは珍しい。それは広井夏樹を0歳からゆりあが育てたせいかもしれない。いわゆる『母性』というものだ。それでも1ヶ月経つのだから落ち着いて欲しいとマリは思う。
「はいはい。仕事は待ってくれませんよ?
特に『公安部』の件、情報は渡さずに人だけよこせって妙な話よね……」
マリは怒りを隠さない。学園理事長なんてポストに就いているが、これで結構人見知りだったりする。
「んー。その件ね。ユウちゃんなんてどう?」
「あら?悪くない線ね。決勝でも意外と解説役をやってたし。でもそれならもう1人、精神感応系をつけたいところね」
意外にも、まともな人選にマリは内心驚く。
元々、超がつく天才なのだ。心配しながらも、脳内では別タスクとして処理したのだろう。
「大阪の陸奥伊都子ちゃんは?」
「大阪支部に精神感応系魔法少女がいなくなるわ。東京から選ぶべきじゃない?」
「そこは引退して暇を持て余してる、沙織ちゃんを半年限定で復帰させましょう」
あっさりと決めていく。
マリも異論はないが確認だけしておく。
「どうしてこの2人?」
「きっと『公安部』は私達まで疑っているのよ。だから情報を渡さない。そして、こちらも情報は渡さない。あの2人なら、まだ魔法少女になって半年ぐらい。そもそも情報を持っていないのよ」
こうして、2人の出向が決まった。
♦︎♦︎♦︎
5日後。
渋谷区渋谷ーー
『渋谷』と言えば、誰もが思い浮かべるあのスクランブル交差点。
そこからJRを挟んだ反対側、宮益坂から1本路地を入ったところに目指す雑居ビルはあった。2階の表示は『蛍光出版』となっている。ここが指示された場所だった。
「ごめんなさいね。こんな場所を指示して」
3・40代ぐらいの女性が僕らを出迎える。
長い髪を団子状にひとまとめにして、紺と青の中間ぐらいの色のスーツ姿で身長が170cmはありそうな長身だった。ヒールのある靴を履いているので余計にそれが目立つ。
「私は田中菜津美、警視よ。ここはまあ、我々『サクラ』の拠点の1つよ。あなた達、中高生を桜田門で『ようこそ』って迎える訳にはいかないからここにしたの」
一見、どこにでもいそうな中年女性。でもボクの直感は違った。そして何より、隣の女の子がそれが正しいと判断している。陸奥伊都子さん、1つ年上の高1。大阪支部の精神感応系統の魔法少女だった。
「……あなた、元魔法少女ね」
伊都子さんが自己紹介もせずにそう言った。
場の空気が一瞬、止まる。
「ーーへえ……優秀ね。これは捜査の方も期待できそうだわ」
そう言って、菜津美さんが意味ありげにわらう。
「自己紹介はいいわ。資料で貰っているし、時間の無駄。こっちが事件の資料」
目の前に週刊少年漫画雑誌ぐらいの厚さのファイルが3冊置かれる。
それを読めという事らしい。
「1週間あげる。それなりにどれかの事件の目星をつけて」
ボクは直感でわかった。
これはウォーミングアップ。
いや、選抜テストだと。




