最終話「エピローグ:日本の魔法少女」
1年後・11月、長崎県、大村市月島。
端島(軍艦島)と同じく、炭鉱で栄え、今は無人島となった島。そこを沙織が企業から買収し、今は沙織の住処となっている。
体育館だった建物は暗幕が降りているせいで昼間だというのに暗闇が広がっている。ステージだった場所にスクリーンが設置され、床には3人掛けのソファーが置かれている。
その真ん中で沙織は映画を見ている。
不意に画面がボヤける。
誰かが入ってきて、暗幕が揺れたせいで日光が入ったせいだった。
「コラ、小学生。飲酒はダメだよ」
沙織がそう声をかける。
「勘弁してよ。20歳は越えたんだし」
ワインを注ぎながら、ハルはそう答えた。事情があって戸籍上、10歳となっているが、実際には沙織と同じ歳である。
ハルはよく遊びに来る。
この1ヶ月、沙織はハルとしか会話をしていないかもしれなかった。定期船のないこの島に設備を導入するにはハルの協力が必要だし、何より思考が単純で沙織にはそれが良かった。
「ねえ、沙織ちゃん、たまには私の用事につきあってよ」
「いいよ」
2つ返事で沙織は答えた。たまには外の空気を吸うのも悪くない。今日はそんな気分だった。
「それじゃ、『転移』!」
♦︎♦︎♦︎
長野県塩尻市。旧、軽部ぶどう農園。
『売物件』
そんな看板が目についた。
「ここ入っていいの?」
沙織が不安気に聞いた。
「大丈夫。先週、『買ったから』。これ、登記簿のコピーと鍵」
ハルのそれを聞いて安心するが、沙織はふと、次の疑問が2つも浮かんでしまう。
「お金はどうしたの?」
ハルは答える代わりに古いテレビのリモコンを取り出した。
「『精錬』!」
リモコンの上に小さな金属の塊が現れる。
鑑定するまでもない。金塊だろう。
「……なるほど。それでここは?」
「旧ぶどう農園。ワインも作ってた。5年前に一家心中があって買い手がつかずに放置。それを私が買い取った」
質問攻めを嫌って、ハルが一気に答えた。
沙織は梓よりも少し量の多い説明にハルらしさを感じる。
そうしている間にぶどう畑を抜け、一軒家の玄関に辿りついた。
持っていた鍵を開け、中に入る。埃がフワリと舞い、長年誰も入っていないのがわかる。
玄関に家族で撮ったらしい写真があった。それを見て、沙織が気づく。
「あずちゃん?」
「正解。梓ちゃんが魔法少女になる前、軽部寧々だった時代の家」
そういえば5年も一緒にいて、全く聞いてなかったと沙織は思う。
今の持ち主であるハルは、家の方には興味なさ気に土間を横断し、裏口へ行く。
そこはワイナリーの入り口だった。
ステンレスのタンクは錆もせず、まだ光沢を保っている。そしてその先にハシゴが地面から生えている。いや正解には地下からハシゴが伸びているのだ。
ハシゴを降りて何かを探す。
そして見つけた。
あった。
ハルが並んだ樽を見て言う。
『寧々と20歳を祝うワイン』
樽にマジックで雑に書かれていた。
「これを今度の成人の日に3人で飲もうよ」
そう言ってハルは笑った。
「この1樽のために家まで買ったの?」
そう言って沙織は笑った。
「そうだね」
ハルは得意気に言った。
「じゃあさ、ここの設備でシャンパンを作ってよ。あずちゃんとあのキザな大統領が結婚した時用に」
そう言って沙織はまた笑う。
「それじゃあ、急がないとね」
ハルもまた笑った。
理想を作るには、ワインも国も時間がかかるものだから。
5日より新章スタートします。
よろしくお願いします。




