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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
外伝、その2「理想の国」

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第39話「2面作戦」

日本、大阪府池田市、とある生肉店。


「え!冷蔵在庫を全部ですか?」

「はい、実はウチの学校で4校の交流試合の後、外注でバーベキューを企画・外注していたのですが……」


訝しむ店主に、言いにくそうな演技でユーリが伝える。日本人のいいところはそれだけで察してくれるところだ。


「トラブルでもあったんだろ?で、何人分だ?」

「関東からも参加者がいる大会でして、保護者引率の先生まで入れて、約2000人です」

「2000!1人200gとして、2000人で400kg!

ウチだけじゃ無理だな。卸しを紹介するから、そっちにも行ける?」

「はい、大丈夫です。こちらは代金の前払いです」


100万円の帯封を3つ置く。

店主はポカンと口を開けて見ていた。


「……おい!多すぎる!」

「卸しの紹介料も含んでいます。急なお願いですから」

「1時間ぐらいで用意する。この冷蔵軽トラも貸すよ」

「ありがとうございます」


ユーリ達は少し離れた場所に移動する。


「よし、食材は何とかなりそうだな」


ユーリがホッとした様子で言った。

その声を聞きながら、ハルがリストを確認して言った。


「となると、バーベキューコンロと炭だね」

「ホームセンターを複数店回るしかないな」

「了解!」

「1時間で120台のバーベキューコンロ、魔法を一般人に見せないって制限付きだぞ」


その頃。


♦︎♦︎♦︎


ルマニア共和国、首都・ルピアール。


大統領官邸から程近い場所に建設途中で放棄されたビルがあった。外観は既に出来上がり足場も外されているが、『人民の国』の不動産投資会社が破産して、そのまま建設が放棄されていた。


「政府の人間か?……ユーリではないのだな?」


クーデターの首謀者、スィープ将軍。彼が梓を見てそう言った。


「はじめまして。ルマニア共和国、大統領補佐官の岸本梓よ」


スィープは梓を観察する。20歳前後の女でなるほど、政府の代表としてここに来るだけの肝の座った目をしている。ここに来るまでに狭い場所もあったはずだが、仕立てのいいスーツには汚れどころか、埃1つついてない。


「どうやって、ここがわかった?」


それを聞いた瞬間、梓の表情が変わる。


浅い。


そう言いたげな顔だった。


「こちらの連携を封じる為に、オレンジ・テレコムの通信を遮断した。つまりは、この辺で通信が使えるのはあなた達だけよ」


なるほど、厄介なお嬢さんだ。

とスィープは思う。

一方で、今度は梓が笑って、口を開いた。


「そうそう、現政権から、スィープ将軍にはお礼を言わなければなりません」


何を言っているのかスィープにはわからない。


「この国の再起動、全国民に同時に平等に行き渡らせる事は不可能でした。同時に『第三国』がそれに付け入る事も。だから、あなたの行動は『必要悪』だったの」


スィープは50年以上の人生で、それなりに女という生き物を見てきたつもりだった。

だが、目の前の女はそのどれにも該当しない。


「あなたと『自由の国』は本当に優秀だった。予定通りのクーデターだったのに、苦戦を強いられた。いや、現在も苦戦を強いられてる」


見透かされている。

即座にそう思う。


「少年・少女兵の休憩所として機能している120台のトラック。あれ、全て爆弾付きでしょ?」


そこまでわかっていれば、追い詰められているはず。


だが、目の前の女は笑っていた。


♦︎♦︎♦︎


同時刻、大統領官邸。


「バーベキューコンロ、あと30台来るからな。組み立て終わったものから順次、火おこしだ!」


ユーリ大統領の指示が飛ぶ。


「ドリンクは玄関にあった水槽に氷を浮かべて冷やそうか。あ、そのままだと高いから低い位置に下げよう」


沙織も細々と指示を出していく。

実際に動くのは警備兵30人だった。


「それじゃ、バーベキューコンロの調達4回目、行ってくる」


ユーリが沙織に言う。


「紙皿と箸も欲しいかも」

「オッケー。ホームセンターで見ておく。塩と胡椒はさっき搬入しておいた。それじゃ、ハル、行こうか?」

「了解。『転移』!」


♦︎♦︎♦︎


同時刻、建設放棄されたビル。


「よくわかったな。このボタンを押した瞬間、120台のトラックが大統領官邸を巻き込むように吹っ飛ぶ」


一瞬の沈黙。


「……ふふ」


その女は確かに笑っている。


「そこに大統領がいなくても、ね」

「そんな事はありえない!今日、ユーリは官邸から出ていない!」


若い女にこんなに腹がたったのは初めてだった。昨晩から見張りをたて、ずっと監視してきたのだ。

だが、目の前の女は可哀想なものを見るようにこちらを見て、スマホを操作する。


「ユーリ大統領、今どこ?」

『バーベキューコンロが売り切れでな、神戸に足を伸ばしたところだ』

「良いわね。それで、フルーツも準備したらどうか?って話になってね」

『……それはいいな。神戸は初めてで、沙織もいないから、どこかおススメはあるか?』

「JR駅前なら、元町商店街にあるわ。ハルちゃんが一緒なら、ミックスジュースが美味しいわよ」

『サンキュー。行ってみる』


そこで女は通話を切った。

世間話のような通話を聞かされる。


だが、本当に日本にいる。


「なぜだ?どこで間違えた?」


背中に嫌な汗が伝う。

それを見ても目の前の女は笑っていた。


そして。


「教えてあげる。魔法よ。『ワープ』!」


瞬間、眩しい光に襲われる。

いや、電気の通っていない屋内から、急に屋外に出されたせいだった。


ここはどこだ?


360度水面が広がっている。


「これが魔法よ」


その瞬間、海の中に落とされた。

いや、空中に浮いていたのが、当然のように重力が効いて、落下しただけだ。


「運が良ければ助かるわ。ダメならそこまでよ。私も帰ってバーベキューの手伝いがあるの。じゃあね」


そう言って女は消えた。


立ち泳ぎを続ける。

爆破スイッチも、銃も、全て捨て身軽になる。


時間の感覚がマヒする。どのくらいたったのかわからない。


運良く、漂流するブイを見つけてしがみつく。


一晩が過ぎて、太陽が昇る頃ーー


島だ!


水平線の一部だけが、形を変えていた。


どうやら海流に流されていたらしい。

残った体力をかき集めて必死に泳ぐ。


(「運が良ければ助かるわ。ダメならそこまでよ」)


あの女はそう言った。

だが、助かった。運じゃない。体力だ。つまりは俺の実力だ。


砂浜でしばらく仮眠をとる。


喉の渇きで目が覚める。


水が必要だ。

島を捜索する事にする。

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