第38話「首都突入」
ルマニア共和国・サウスルピアール州ミーチェ港。
戦車部隊もAMFGドローンも殲滅し、静寂そのものとなった。1キロ先で戦車の残骸が煙を上げている。
梓が再合流したピエール中将に声をかける。
「残党は任せるわ。旧ソ連製T-72から弾薬を取れば、その戦車だってまだ戦えるはずよ」
「了解です。それと通信は後1時間程で復旧すると北部軍令部経由で情報が入りました」
「それとバーリン軍曹は借りていくわね。ルピアールに戻るけど、向こうにも『ヒロイ型AMFG』がいる可能性が高いもの」
そう言い残して3人は首都・ルピアールへ転移した。
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首都・ルピアール、ルピアール・ヌーヴォー国際空港。
「なぜ、空港なんだ?」
張が言った。
「『ヒロイ型AMFG』があった場合、大統領官邸から身動きできなくなるわ。ここなら、大統領官邸まで10キロ程、転移可能地点で最適だったの」
張もバーリンも納得した様子で、次の行動を決める。
「まずはドローンの有無の確認ですね」
周囲を確認するが、どうやらミーチェ港に全機投入したようで、ドローンは1機たりとも飛んでいなかった。
「……いないわね。とりあえず大統領官邸へ転移しましょうか。『ワープ』!」
伏兵の可能性もあるが、狙撃可能な人員が2人もいるので転移した。
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大統領官邸・大統領執務室。
「状況は?」
転移するなり、梓はユーリ大統領に聞いた。
「予想より悪いぞ。何と少年・少女兵だけだ。引率兵もいなければ、少年兵達にトラックまで運転させてここまで来た」
本来の計画では、引率する兵士を圧倒的に倒し、少年・少女達を解放する手筈だった。
「さすがスィープ将軍、俺の指導官だっただけある。『こうすれば撃てないだろ?』って言われてるみたいだ」
ユーリが付け加えて言う。
「どうする?殺さない程度に痛めつける?」
梓がさも当然のように言った。
「殺さなければ、政権へのダメージは最小限で済むわ」
そこへ。
「それはあまり『冴えたやり方』とは言えないね」
音もなく、突然2人が現れた。
「沙織ちゃん!それにハルちゃんも!」
「アズサ!久しぶり!」
ハルも元気いっぱいに言った。
張は突然現れた2人を警戒する。
それも当然ではある。少年・少女兵1200人に囲まれた状況で、2人の10歳ぐらいに見える少女が転移して来たのだから。
「それで、この状況打破なんだけどさ、こういうのはどう?」
沙織が軽く指を立てる。
その場の空気が、ほんの一瞬だけ変わった。
数秒。
誰も言葉を発さない。
やがて、梓が小さく息を吐く。
「……なるほどね。準備に時間がかかるわね。でも実行は可能か……ユーリ大統領、あなたが決めて」
梓がそう言って、イニシアティブを譲る。
「……そうだな、沙織の案を採用しよう」
沙織は精神感応系の魔法少女である。この手の作戦はお手のものであった。
「それでは、転移可能なハルちゃんと日本に詳しい沙織ちゃん、それからユーリ大統領が買い出し担当ね」
「俺もか?」
ユーリが短く質問した。
「この2人だけだと、1200人分の食材調達は無理よ。小学生に見えるから」
「……なるほどな。じゃあ、いくか!」
その瞬間、3人は転移して消えた。
張は戦慄する。この国に来て2ヶ月、梓は何食わぬ顔で後進を育てていたのだ。改めて、梓の恐ろしさを実感する。
「張大臣」
梓にいきなり指名され、思わずビクッと反応してしまう。
「ここで戦闘指揮をお願い。バーリン軍曹には守備隊と合流。先程の内容を共有して。守備隊は北部軍令部出身だから、あなたの顔は知ってるはずよ」
「岸本補佐官はどうするのだ?」
「決まっているじゃない」
梓は一歩、外へ向かう。
「『元指導官』を止めに行くのよ」
誰に向けたものでもない笑みだった。
ただ、その場にいた全員が理解する。
——この戦いは、もう終わる。




