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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
外伝、その2「理想の国」

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第36話「クロエ=ルマニエル(前編)」

4ヶ月前。

ルマニア共和国、首都ルピアールから東へ75キロ。ラシフォン州ベイボン市。


「ドルじゃなければ取引しないって言ってるだろ!」


父さんが取引先と揉めている。

正直、『ネオ・ルピア』でも取引はするべきだと思う。


「もう時代が変わってきてるんだ、この国は持ち直すよ、ルマニエルさん」


私の一家は家族で牧場をやっている。この辺は酪農地帯でどこもこんな感じだ。


「今日も停電で搾乳機が使えなかったんだ。まともな国なら、そんな事にはならんよ」

「LNGで動く発電所がネオポルドー州に建設されるらしいぞ。『北の大国』の支援で」

「知ってるか?それを『売国』って言うんだ。この国はもうすぐ滅びる。その時は『ネオ・ルピア』など紙クズだ。だからウチはドルでしか取引しない。以上だ。帰るぞクロエ!」


そう言われて、父さんと乗って来たトラックを引き返す。


「クロエ、帰ったら母さんを手伝え」


トラックの後ろに乗った生乳は、またチーズに変わるのだろう。


どうせ、学校に行っても先生もいない。担任だったファールド先生は給料が安くて、犯罪に手を出して軍に捕まったと聞いた。他の先生も次々と辞めていった。


「わかった」


それだけ言った。ここで大事なのは逆らわない事。そうしないと食事にありつけない。


♦︎♦︎♦︎


「私が軍に入るの?」


母さんが大鍋で生乳を温めながら軍に入るよう言った。


「ごめんね。父さんがあの調子でもう1ヶ月収入がないの。このままだと、あと2ヶ月もすれば牛を売る事になる」


牛乳から出る湯気で母さんの表情が見えない。

いや、見なくて済んだのかもしれない。


それがどういう事か、私にもわかったのだから。


「父さんならもっとヒドイ仕事をしろと言い出しかねない。そうなる前に女の子のクロエには家を出ていて欲しいの」


簡単な話だ。牛の次は『私』が『売られる』事になる。だから母さんはこの話をしたのだろう。


こうして私は軍に入る事になった。


♦︎♦︎♦︎


トラックの荷台に乗って走る事、3時間。南部のサウスラシフォン州に入った。荷台に一緒に乗った15人と共に、トラックは基地へと入っていく。


「ようこそ!兵士候補生の諸君!」


その人はロードマン中尉と名乗った。


「諸君らを歓迎する!まずは食ってくれ!生活や訓練はその後だ」


シンプルに塩胡椒で焼かれた肉や湯気の立つパンやスープ。


脂の匂いが、鼻に刺さる。


私も含めた全員がガツガツと喰らいつく。

簡単で単純な幸せに私達は酔いしれた。


男女別に階が分けられた寮はほとんど空っぽだった。でも、誰かが使った形跡がある。ここで訓練していた兵士達はどこへいったのだろう?でも空調の効いた部屋は実家の寝苦しさとは無縁で、すぐに睡魔が襲ってきた。


翌日から訓練は始まった。まずはランニング。学校があった頃、長距離走は得意だったので何とかなった。


「これが君らの銃だ」


そう言って渡された銃は思ったより軽い。でも、じわじわと腕にくる。安全装置の外し方、フルオート・マニュアルの切り替え……まるで授業のように教わった。


「では、実際に撃ってみよう」


ーーパンッ


乾いた音とともに肩に反動が伝わる。的には当たっていなかった。

結局、その日は1度も的に当たる事はなかった。


「難しいよね」


寮で同室のララが言った。「明日は当てよう」と言い合って眠った。


さらに翌日。

新しい子達が入ってきた。

昨日は少し質素だった食事が、初日と同じように豪華になる。


そうして1ヶ月程かけて、寮は廊下で寝る子が出る程のパンパンになっていった。


♦︎♦︎♦︎


2ヶ月目のある日、その人がやってきた。


「全員、傾聴!本日は南部方面軍総司令のスィープ=ルマニエル将軍がお見えになった!」


1000人以上に膨らんだ兵士候補生の前に現れたのはがっしりとした体格の男性だった。『ルマニエル』というから多分、東部ラシフォン出身だろう。クラスの1/3が『ルマニエル』だったのを思い出す。


「兵士候補生諸君!君達に願いがあってきた。既に違和感を感じる者もいただろう。この基地に大人は20名しかいない。他の者はどこへいったのか?そう思った者も多いだろう」


そこでスィープ将軍は私達を見渡す。


「安心してくれ!別に戦闘が起こった訳ではない。ただ兵士の給料では家庭が守れずみんな去っていったのだ。それはしょうがない。だが、その事態を招いたユーリ大統領だけは私は許せない!ここにいる少年・少女達も『まともな政権』であれば、家で勉強に、スポーツに励めたはずである!違うか?」


私はハッとする。スィープ将軍の言う通り、2年前にユーリ大統領になってから、この国は急速に悪くなった。


「給料は払えない。だがここにいれば食う事には困らないようにはする!だから安心して、訓練に励んで欲しい。近い将来、ユーリ大統領から、この国を取り返す戦力として!」


その日から、スィープ将軍も訓練に参加するようになった。一緒に走り、射撃の指導もしてくれる。


だが。


「どういう事だ?ここに来て、1000人近い退職者だと?」

『ユーリ大統領です。南部で豆類の作付けをした者に先払いで上限3億ドル相当の支払う用意があると表明しています。南部農家出身の者が軒並み退職しました』


翌日には、私達を最初に訓練していたロードマン中尉もいなくなった。


それだけではなかった。

更に2ヶ月が過ぎた頃。


「すまない!もう少々の食糧支援をお願いしたい」


『将軍』の威厳はどこにもない。電話の相手は言った。


『来月には「こと」を起こして貰いますよ?食糧の件は1週間で追加物資が届くでしょう……』


最近ではパンとスープだけの日もあるぐらいだった。それでも家にいるよりはマシと思えた。


訓練はより実践的になり、年長者はトラックの運転なども教わるようになった。かくいう私も農場で運転していたのでそれに加わった。


そして、今日。スィープ将軍は宣言した。


「我々、南部ルマニア共和国軍はユーリ=シトロエン大統領の即時退陣を求める。既に北部資源は『人民の国』に、鉄道は『日本』に、通信は『欧州』に奪われた!これ以上の『売国』は私は断じて許せない!諸君!共に戦おう!」


そう言って、スィープ将軍はクーデターを宣言した。彼の数ヶ月を見てきた私達は何も言えなかった。


私は後ろに兵士候補生を乗せて、首都ルピアールまでトラックを走らせた。


それが何を意味するか、私は考えないようにした。

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