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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
外伝、その2「理想の国」

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第35話「主演女優」

日本・東京都千代田区霞ヶ関、文部科学大臣室。


「いやー、この『ミラーリンク・エシュロン』は良いわね。開発した甲斐があったわ」


佐藤ゆりあが、さも自分で開発したように言う。彼女はスポンサーであり、実際には広井夏樹が開発、発注。山陰某所にその施設があった。


「開発費1500億、運用に年間25億……我ながら、よくも税務署の目を誤魔化せたものね」


呆れたように水田マリが言う。彼女の方は実際にその金額を動かしている。


「さて、ここからが見ものよ。梓ちゃんは相変わらずトリッキーな策を使うわね」


楽しむようにモニターを見つめながらゆりあが言う。


「梓ちゃんは『自信のない天才』だからね。佐藤ゆりあ、広井夏樹を見て、更に一瞬で藤原さくらちゃんに追い越され、その後ろに西田真琴ちゃんが控えてる……更には沙織ちゃんのすぐそばにいたんだし、しょうがないよ」


マリがそうまとめた。


♦︎♦︎♦︎


「自由の国」、首都・マシントンDC、大統領官邸・通称『白い家』。大統領執務室。


「大統領、『人民の国』周コンペイ書記長から、ホットラインです」


大統領補佐官が告げた。すぐにプラント=マクドナル大統領は受話器を取る。

この場にいる全員がスピーカーから聞こえる情報に耳を澄ます。


「プラントだ。周書記長、どうした?」

『プラント大統領、そちらの国が現在進めている「クーデター」についてだ』


ルイス=ジョンソン国防長官は「やはりか」と思う。この局面でホットラインを繋いだのだ、それ以外は考えられなかった。


『クーデター部隊はそちらの国から供与された兵器を使用している事から、『自由の国』の関与は明らかだ』

「自由と民主主義を守るためなら、我が『自由の国』はクーデターでも支援するさ」


プラント大統領が言い返す。この時ばかりは、プラント大統領が頼もしく見える。


『ほう、少年・少女を使って行なっているクーデターをか?』


プラント大統領がこちらを見る。大統領補佐官のエマや報道官リスナーは首を横に振る。


「こちらのスタッフは、知らないとみんな言っているぞ。クーデターを起こした何とか将軍の策略だろ?」


そう返したプラント大統領に、周書記長は意外な言葉を返す。


『シルビア・ルート29・ダイナー、Tボーンステーキが美味いらしいな。今度のサミットの後にでも、訪問してみたいものだ』


その言葉にルイスは下を向く。いや、向いてしまった。即座にプラント大統領に睨まれる。いや、まだマシかもしれない。CIF長官のルーザーなどは、コーヒーを飲んでいて盛大に咽せた。その音はプラント大統領の持つ受話器から、『人民の国』まで伝わっただろう。


『ふふ、心当たりがある者がいるようだな。先に言っておく、アルバイトの19歳のウェイトレスは僅か100ドルでカトラリーのカゴの下にICレコーダーを入れたよ。では、聞いてもらおう』


ーーー


「やっぱり、教えてくれルーザー。国防長官として、兵力の有無は作戦の精度に関わる」

「あまり大声では言えないが、あの魔女だってまだルマニア共和国の全てに利益を配れていない。東部のラシフォン州や南部の農民以外。ここにはまだ貧しい者が多い。そこから子どもを徴発する。スィープ将軍には食糧支援をしてる。そうすれば、1000名程の少年・少女兵が確保できるさ」


ーーー


ルイスは『終わった』確信する。

だが、プラント大統領は違った。6年前の大統領選で敗れた後、その2日後にはテレビのバラエティーに出演する強心臓ぶりをここで遺憾無く発揮する。


「それがどうした?現に報道官も補佐官もそして大統領である私も知らなかったのだ。2人を切って『終わり』だ」


ルイスの腹は決まる。それでいい。この国は力で圧倒し、時間をかけてそれを正当化してきたのだ。散々、胃痛の原因だった大統領を初めて正しいと思えた。


『では『世論』はどうかな?『マシントンタイムズ』か『ニューアーク・ポスト』でもいい。なんなら『ABCテレビ』でも面白いかもしれん。2ヶ月後の中間選挙が楽しみになるな』


周書記長のこの言葉で完全に勝敗は決定した。


「……何が望みだ?『追加関税の撤廃』か?」


プラント大統領はあくまで勝敗は濁し、条件の交渉に移った。このあたりがニューアークのファイブアベニューにビルを持てるビジネスマンたる所以である。


「何を言っている?今回の主演は私ではない。先程の音声データもコピーだ。『オリジナル』は『主演女優』が握っているよ。信じないかもしれないと、こんなものが用意されている。アルバイトの説得シーンだ」


ーーー


「……お願い!あの2人のうち、どちらかがわたしの本当のパパかもしれないの!」

「アンタには負けたわ。いいよ、やってあげる」

「ありがとう!これはお礼。ベビーシッターのバイトで貯めたの」

「半分の100ドルでいいよ、アズサ。何かわかればいいね」


ーーー


『なかなかの名演技だっただろう?』


プラント大統領もさすがに黙っている。


『そして、ワシすら出演者にすぎない。もっと言えば、脚本・監督・主演全てをあの『魔女』が行ったのだ』


背筋が凍る。たった1人で『自由の国』に勝利したのだ。もう1つの大国の指導者すら駒にして。そしてその魔女は19歳。しばらくルマニアは優秀な指導者がいる事になる。


「……あの『魔女』は何が望みなのだ?」


相手が変わったとて、窓口は周書記長である事に変わりはない。


『まず1つ目。追加の軍事派遣の中止だ。すでにインド洋に不愉快なクルーザーが多数配備済みだろう?このままでは『ルマニアの少年・少女を救う』というお題目で増援されてはたまらない。との事だ。もっとも、『第2艦隊』のように殲滅してもいいとも言っているぞ』


今年2月、藤原さくらによって旗艦『ウイリアム・クリントン』をはじめ、原潜・戦闘艦が多数撃沈されたのを全員が思い出す。


「了承した。即時撤退させる」


苦々しく、と言った表情でプラント大統領が決断する。


『もう1つは、ルマニア共和国への5億ドルの支援だ。形はどうでもいい。日本にやらせているような、民間投資などを含んでもいいそうだ。あの国の国債残高が約30億ドル、それだけあれば一息つけよう』


世界1位の経済大国をもってすれば、その程度は容易い。何より中間選挙を人質に取られている。


「こちらも了承だ。5億ドル。政権の値段と考えれば安いものだ」


梓のシナリオ通りにプラント大統領は答えた。

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