第34話「反撃開始」
ルマニア共和国・サウスルピアール州ミーチェ港。
梓がヒロイ型AMFG搭載ドローンから逃げ続け、張がそれをAK47落としていく。
「やはり、か」
10機目のドローンを撃墜した張が何かに気づく。
「どうしたの?」
進行方向前方に現れたドローンを回避するために梓のホウキは右に急旋回する。
そのドローンも梓を追跡しようとした瞬間、動きが止まる。
「あれ?」
梓もこれには違和感を覚え、張は引き金を引く。
「おそらくだが…」
言いながら、張はAK47弾倉を交換する。
「飛行用・追跡用のプログラムに癖がある」
端的に結論から言った。
「それでさっきから精度が向上してるの?」
「そうだ。多分だが、量産化の過程で機体バランスが変わっている。それを修正せずにワンオフ機のままのプログラムだから、動き続けたら数分に1回、その場でホバリングする」
その説明で梓は何かを思いつく。
「ホバリング!そうよ!なぜもっと早く思いつかなかったのかしら!」
それからの行動は早かった。
「おい!なぜ距離を取る?」
張の疑問をよそに反転。ピエール率いる戦車隊と合流する。
「ピエール中将。相手の戦車は『使える』?」
指名されたピエールはにこにこと笑って答える。
「厳しいでしょうな。おそらくあれは『エンブレムM1E』か『F型』でしょう。ガスタービンで燃料から特別です。
ところで何か思いついたようですな」
「ええ。巻き込むかもしれないから、港まで後退して。張大臣は討ち漏らしを掃討してほしいわ」
「それは構わんが……何をする気だ?」
言った張がゾクリとする。梓の笑顔に、である。そのまま笑顔のまま梓が答える。
「決まってるじゃない、反撃よ」
ピエールがそこで提案する。
「狙撃戦なら、こいつも連れて行ってください。バーリン軍曹、『聖女』をお守りするのだ」
「は!光栄であります」
バーリン軍曹と呼ばれた兵士は、感激しながらも敬礼した。本来なら戦場で敬礼は厳禁である。相手が上官だと知られるからだ。それすら忘れる程の『信者』という事だろう。
「バーリンはAK47で狙撃戦させたら、北部随一の狙撃の名手です。
では、戦車隊は港の入り口まで後退する!『聖女』に敬礼!」
全員がその場で敬礼して、その後、戦車3両が後退していく。
「さて、『狩り』の時間よ」
それから梓のした事は簡単だった。
「『ワープ』!、『ワープ』!、『ワープ』!、『ワープ』!、『ワープ』!………」
その場で棒立ちになっている張とバーリン軍曹には何が起こっているかわからない。
だが、それは目に見えない形で進行し、魔法のような結果をもたらす。いや、実際に魔法である。
「ドローンが!」
バーリン軍曹が気づく。狙撃の名手とあって視力が良いらしい。AMFGの効果範囲外のため、ドローンとは800m程離れているにも関わらず変化に気づいた。
ドローンが次々と落下していく。
張が何かに気づいた。
「ダウンバーストか!」
「さすが張大臣。空気中から二酸化炭素だけを相手の上空にワープさせたの」
バーリン軍曹にはわからない。
「二酸化炭素?いわゆる炭酸ガスですか?」
戸惑った様子で質問する。
「そうよ。空気より重いの。だから、転移された二酸化炭素は下降気流を作る」
だが、たまたま低空にいたドローンの破壊にまでは至っていない。3機がこちらに向かってくる。
パーン、パーン、ーーと発砲音が3度響く。
張は引き金を引いていない。3機ともバーリン軍曹が撃墜していた。張が驚きの表情でバーリン軍曹を見る。
「素晴らしい腕だな!」
それを見た梓が言う。
「仕上げね。『ワープ』!」
それだけで13両の残っていた戦車が10m程の空中に現れる。
一瞬の静止。
だが、重力はそれを許さない。落下して大破する。履帯が外れるものもあれば、砲塔がグニャリと曲がったもの、弾薬に火がついたのか爆発するものもある。
こうして、戦場は静まり返った。
「残党殲滅はピエール中将に任せましょうか。歩兵がいないところを見ると、港の占拠ではなく、破壊が目的だったのでしょう。つまり、本隊は首都ね」
「そうだな。『クーデター』を名乗る以上、それが必然だな」
梓の言葉に張が同意する。
すると、梓がスマホを取り出した。
「通信は止まっているのだろう?」
「それは国内ね。衛星通信の『スターゲイザー』は使える」
「『自由の国』の『ステラ自動車』などをやってるあの会社か……」
「こんな事もあろうかと、契約しておいたのよ」
そして、どこかに繋がる。
「こんにちは。例の件、そろそろ始めて下さい」
梓の反撃は始まったばかりだった。




