第32話「ミーチェ港防衛戦」
ルマニア共和国・サウスルピアール州ミーチェ港。
「ここミーチェ港は大きさ4200ヘクタール。水深20m。旅客用パースが2、コンテナパース12、バルクパース12、多目的パースが3の合計31パースのアジアでも有数の港湾です。さらに周辺は未開地ですので将来的な拡張も可能。ここに『人民の国』へ直通する鉄道を作るのが今回の計画です」
張が交通大臣として説明する。自国の利益にもなるので若干熱の入った説明になっていた。
そこへ。
「張大臣、ちょっとよろしいですか?」
梓が音もなく現れて、耳打ちする。
「南部でクーデターよ。通信が遮断されて使えない。ここは後1時間で戦場になる。日本の鉄道関係者をそれとなく逃がせる?」
張が一瞬目を細める。
口の形だけで『任せておけ』と合図する。
「こちらにいる岸川大統領補佐官の計らいで、ヘリの用意ができました。ここから北東部ルンダオ鉱山まで空の旅をお楽しみください」
予定を変更して、日本の関係者をヘリに乗せ飛び立たせる。
「じゃあ、はじめましょうか?」
梓のその言葉で、真夏日だというのに周囲の気温が下がった。
「まずは敵を上空から確認しよう。部隊編成で破壊か占領か目的がわかるはずだ」
張は2ヶ月前まで軍人だったので、冷静に言った。
「了解」
だが、ここで2人は全く別の動きをする。
張は港湾のクレーンに登ろうとし、梓はホウキを手に持つ。お互いの行動を理解して、苦笑する。
「では梓補佐官のホウキに乗せてもらおう」
2人で上空へと飛び立った。
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ミーチェ港から南へ5キロ地点。
「戦車30。あとは戦闘指揮車と見られる車両が1台だけだな」
「おかしいわね。会計資料だと南部方面軍全軍で15両のはず。それに一部車両が違うわね」
「おい!ドローンがいるぞ?この国はまだ未装備のはずだ」
その時だった。梓達は発見され、戦車の砲塔がこちらを向く。
「とりあえず距離を取るわ。ワープ……ワープ……あれ?魔法が発動しない?!」
低い発射音からこちらに向けて発泡してきた。幸い、的が小さいので当たりはしない。だが、数発、風を切る音と共に砲弾が至近を通り過ぎた。
「マズイわね。あのドローン『ヒロイ型AMFG』だわ!」
初めて梓に焦りが浮かぶ。
張も事態の深刻さを受け止める。
「とりあえず逃げる!」
ジグザグに飛行して距離を稼ぎつつ砲弾をかわす。
「こんな状況下ですまないが、『ヒロイ型AMFG』とはなんだ?」
「魔法無効化装置とでも言えばいいかしら?多分アレ、強化タイプね。有効範囲が伸びてる!」
「こちらも悪い知らせがある。戦車のうち15両は『自由の国』製の『エンブレムM1F1』だ。最新型ではないが、旧ソ連製の15両より射撃性能が段違いだ」
「それでさっきから至近弾が多いのね」
そこへ、どこかから声がする。
『お困りのようですな?目標、南部軍戦車隊、撃て!』
火柱が上がる。2両が戦闘不能に陥ったらしい。
「ピエール中将!」
声のする方を見ればドローンが1機飛んでいて、どうやらそのスピーカーから声が出ているようだ。
『我らが「聖女」の敵は、我々が噛み砕きます』
ピエールの声と共に兵士たちの声が混じる。
クーデター軍はこちらからの反撃があると思っていなかったのか、進軍が止まる。
(戦車でもドローンでもない、『魔法が使えない』これが1番マズイわね)
炎上する戦車を見ながら梓は思った。
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「自由の国」、首都・マシントンDC、大統領官邸・通称『白い家』。大統領執務室。
「現地時間12:00、民間通信を遮断、クーデターがスタートしました」
CIF長官のルーザー=ブライトンが報告する。
「現地軍は『エンブレムM1F』を使いこなせるのか?」
大統領である、プラント=マクドナルが聞く。それに答えるのは国防長官のルイス=ジョンソンだった。
「4ヶ月、民間軍事会社のフォローの元で訓練させました。万が一、鹵獲されてもガスタービン車両です、フィルターや弾薬面で敵になる事は少ないかと。それに20年前のモデルです。こちらの技術を吸収される事は少ないでしょう」
「そうか…」と短く相槌を打った後、プラント大統領はさらに確認する。
「それで、『対魔法ドローン』は間に合ったのか?」
「はい、大統領。日本から購入した『魔石』を解析、いわゆる同位体結晶でしたので、工業的に量産できました。さらにスペックの向上にも寄与しました。ただし、コストは跳ね上がります。」
ルイスがそう結んだ。
「いいんだ。勝利が金で買えるなら安いもんだ」
プラント大統領は勝利を確信し、笑った。
「これで『人民の国』の好きにはさせんぞ」




