第30話「シルビア・ルート29・ダイナー」
自由の国、アーリントン州バージニア郊外。
ルート29のロードサイドに、『シルビア・ルート29』という50年前からありそうな古き良きダイナーがあった。
「ルーザーさん、お待ちどうさま。Tボーンステーキ、ウェルダンよ」
バイトらしきティーンエイジャーがフレンドリーに言う。
「ありがとう、ウェルダンと言い忘れたのによくわかったね」
「オーナーが『ルーザーさんはウェルダン』って言ってた。ついでに『サラダも捨てるのがもったいないから食え』ってさ!」
「では、手づかみでいただこう。ナイフもフォークもないようだから」
「あ!ごめんなさい!すぐに持ってきます」
慌ててバイトの少女はカトラリーの入った小さなカゴを持ってくる。
「ごめんなさい。ごゆっくり」
そう言って別の仕事へ、女の子はテーブルを離れていく。入れ替わるようにテーブルの向かいに座る人物がいる。
「すまない、遅れた」
黒人の筋肉質な男性がそう言って同じテーブルにつく。ルイス=ジョンソン国防長官だった。
「気にするな。呼んだのはこちらだし、忙しいのはお互い様だ」
Tボーンステーキにナイフを入れつつ、軽く言うのはルーザー=ブライトンCIF長官。ロビイストやジャーナリスト巣食うマシントンDCを避けて、ここで会合するのが習慣だった。
「プラント大統領に話す前に耳に入れておこうと思ってね」
「と、言うことはバッドニュースだな」
そう言いながら、ルイスは先程のバイトを見つけてコーヒーを頼む。
「ルマニア共和国の『聖女』が南部に進出した。具体的には3億ドル、先渡しで小麦から大豆へ作物変換を南部の農民たちへ要請した」
「おい、『人民の国』に我が国が売り渋った作物じゃないか?」
「そうだ。しかもその50%をカバーできる。しかも、それだけじゃない、南部の兵士が次々と退職している。現在、クーデター必要兵力を下回った。原因はさっきの3億ドルだ。兵士が農家へ転職している」
「どうするのだ?」
「対策はしてる。だが知らない方がいい」
「まさに魔女だな、アズサ=キシカワは」
ルイスが胸を抑える。きっといつもの胃痛だろう。ルーザーは気にせず、次の話題に移る。
「『ヒロイ型AMFG』の進捗は?」
「あまり、良くない。試作機は完成したが、予定出力が出ない。原因はコアパーツ、『魔導石』の容量不足だ。それでさっきまで技術系の識者をあたっていた。完成しないとクーデターは一瞬で制圧される」
ルーザーはサラダに目を移す。
この店はドレッシングが良くないと思う。
「ところでAMFGとは何なのだ?」
「アンチマジックフィールドジェネレーターの頭文字をとってAMFGだ。従来型はあくまで規模縮小、精度低下に留まる。ところが日本のナツキ=ヒロイが考案したものは、飛行と身体強化以外の魔法を無効化する」
そこまでは資料で読んだ通りで、問題はその先だ。
「まずは、なぜその『現象』が起こるのか?は理解できたのか?」
「当然だ。魔石とは水晶の一部だ。格子状の分子内部に地球上には存在できない原子を留めたものだ。これは魔力中毒者がビースト化した後に死ぬと結晶化する」
そこでコーヒーをバイトが運んでくる。
聞かれないように、一旦ルイスが話を切る。
「……水晶だから、電荷すると振動する。いわゆる『クォーツ』だ。これがなぜか魔石同士は共振現象を起こす。魔石は魔法少女及び魔女が魔法の媒介に使う。共振が起こると、魔力が半減する。それに気づけないから威力半減や精度低下が起こるわけだ」
サラダはやはり避け、ステーキに集中する。
「従来型とヒロイ型、何が違う?」
「全てさ、設計思想がまず違う。従来型は誰でも等しく威力低下する。例えばAとBが戦っている場合、両方に作用する。ヒロイ型はAのみあるいはBのみに作用する。
原理も違う。ヘッドホンのノイズキャンセラーに近い、魔力を行使する時の固有振動をキャッチして、魔石を振動させないように逆位相の振動を起こす。それがヒロイ型AMFGだ」
(まさに『魔女殺し』だな)
2人は既に同じ結論を見ていた。
「だが、試作機は有効範囲が30度。これは設計通りだが、10mまで近づかないと作動しない。設計スペックでは100mだった」
ルイスが問題をあげた。
「いっそ日本に頼んでみるか?」
ルーザーが静かに言う。
「だが、アズサは日本人だぞ?」
「ああ、だが今はルマニア共和国の大統領補佐官だ」
「『永田町の魔女』は商談なら乗ってくるかもしれん……」
皮肉にも、梓の手によって日本に古代魔石が3つ存在していた。




