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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
外伝、その2「理想の国」

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第29話「佐藤ゆりあの思惑」

現在。ルマニア共和国・首都ルピアール。中心部の教会。



「ーーこうして、今に至るわけだ」


ユーリ大統領の昔話が終わる。

その横顔には、どこか静かな覚悟があった。


いつの間にか雲が切れ、ステンドグラスの光が教会の床をカラフルに染めている。


対して、梓はすぐに言葉を返せなかった。


珍しく、混乱していた。

いや、違う。


先に胸が理解してしまったのだ。


——これは、別れの前に渡される話だ。


そんなはずはない、と理性が否定する。

だが、否定するほど、その直感は輪郭を持っていく。


『なぜ私にこの話をしたの?』


これを聞けば何かが終わってしまう。

沙織なら、一瞬の躊躇なくそれを聞いただろう。だから、梓は周り道をする。


「私は魔女になった。だからさっきの話の補足をするわ」


梓は今、自分がどんな顔をしているか自信がない。


「魔女になるには条件が必要。それが『贄』」


ユーリは祭壇を向きその顔を『見ないで』いてくれる。


「通貨も人命も権力も関係ないーー」


それに梓は甘える。


「『守りたいもの』を見つける事よ。それが魔力を濃くする。魔法少女以上の奇跡を起こせる」

「ただし、『一度決めたら、もう元には戻れない』だろう?山岡のじいさんが言っていた」


まさかのユーリの言葉。


「バカっ!知ってたらなんであんな話するのよ!」


言えた!

そんな高揚感に、冷水がかかる。


「この国は俺の大統領就任から2年、どうして『保った』と思う?佐藤ゆりあのおかげだ」


そうだと梓は思う。就任から1ヶ月でこの国は破滅してもおかしくなかった。


「あの魔女が『日本』や『佐藤ゆりあ』だとわからないようにうまく援助してくれた。そして、佐藤ゆりあの命令でアズサはこの国に来た。まだ不安定なところはあるが彼女の元へ返すならいいタイミングだと思ったんだ」


佐藤ゆりあ。『永田町の魔女』。梓の師匠とも呼べる、日本の魔法少女を統べる者。いや、日本そのものか。


だからユーリは梓を日本へ帰そうとした。


梓はユーリの腕を掴む。

強く、逃がさないように。


「勝手に決めないでよ……」


腕を掴んだ距離でも、聞こえるか微妙な小さな声。そして。


「『ワープ』!」


♦︎♦︎♦︎


日本。東京都千代田区霞ヶ関、文部科学大臣室。


「……クルド人がどうのではないの。日本で税金を納めていないものが、当然の権利のように日本で義務教育ーー」


空間が歪み、梓とユーリがあらわれる。


「ひぃ!」


官僚であろうスーツ姿の男性が驚く。


その一方で、若い女の子は現れるのが日常茶飯事のように言う。


「だから、事前に電話ぐらいしなさいっていつも言ってるでしょう?」


若い女の子というか幼女。小学校低学年ぐらいに見える子がスーツ姿で更に続けた。


「梓ちゃん。その顔つきは魔女になったのね。おめでとう」


ユーリは児童劇でも見ている気分になる。

年相応の梓に対して、佐藤ゆりあが幼い見た目で母親のような事を言っている。


「正念場が続くけれど、大丈夫?」


官僚風の男性は何か言いかけてやめた。

そしてそのまま、静かに部屋から出ていった。


それを横目に見たゆりあが切り出す。


「……それで、要件は?」


梓はそれを聞いてポケットからハンカチを取り出す。それを開くと、アーモンドの様な石が3つ出てくる。

それを見てゆりあが目を細めて笑う。


「1つ12億。合計36億でどう?」

「……冗談でしょ?合計120億!」


この2人は本当に親子のような関係なのだなとユーリは思う。同じような顔で笑っている。


そして、もう1つ。

4年前から相変わらず、気配を感じられないまま、いつのまにかお茶が用意されて、水田マリが応接テーブルに置いていく。


「どうも」


ユーリが短く言った、その一言に軽く会釈して下がって行く。どうやら、感情がないのではなく薄いらしい。


応接テーブル上では、梓とゆりあの価格交渉が続いている。


「もういい!『連合王国』に持ち込むわ!」

「はいはい、降参。でも、100億にまけて!」

「しょうがないな……

教育・医療制度・交通インフラ・エネルギー……いくらあっても足りないのに」


どうやらケリがついたようでスマホで決済している。軽い、まるでおこづかいをせびる娘のように目を剥く金額が決まった。


「……それであの石は何なんだ?」


ユーリの軽い一言に、二人してユーリを見て驚く。


「『魔石』、あるいは『魔導石』と呼ばれるもので、更にあれは『古代魔石』と呼ばれるものよ」


ゆりあの説明を更に梓が補足する。


「ネオジムの精錬過程で、ルマニアは第一工程だけやってる。その最初の粉砕時に弾かれたものの中に混じってた」

「つまりは我が国の『資源』か?」

「そう。これがゆりあさんがルマニア共和国を影ながら援助していた理由」


だからユーリはここに連れて来られた。


「佐藤大臣、せっかく日本まで来たのだし、教えていただきたい」


ユーリが笑って言った。

無言でゆりあが続きを促す。


「いいテーラーを知りませんか?4年前、あそこにいるマリさんに一張羅のボタンをちぎられたもので」


ゆりあが笑って答えた。


「それなら、麻布がいいわね。『テーラーしらいし』で修業したお弟子さんの店よ。4年で少しはまともになったわね、ユーリ大統領」

「まだまだ青いつもりです」

「……『若者の特権』に振り回されるのは年長者の勤めよ。がんばりなさい」

「佐藤大臣、私は38で、あなたは32歳。つまりは私の方が年長者なんですが?」

「じゃ、存分に振り回してあげるわ!」


その場にいる全員が笑った。

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