第27話「若者の特権 その2」
4年前、明王義塾学園理事長室。
理事長室に案内され、広井ゆりあと対峙する。
「本日はお時間をいただきまして、ありがとうございます。わたくし朝売新聞・政治部の角田慎二と申します」
丁寧に礼をする。まだ序盤だ、ここで追い返されてはたまらない。
その女は幼女のようだった。いや、見た目だけなら幼女そのもの。紺のスーツを着ているが、逆にそれが名門校の制服のようで幼女に見せている。肩の高さで切り揃えられた髪に、アーモンドのような形の大きな目が俺を見た瞬間、糸のように細くなる。
「ユーリ=シトロエンさんではなくて?」
いきなりの右ストレート。本当に膝から崩れそうになる。
(バレてはしょうがない。せめて、疑問をぶつけよう)
「素直でいいわね。若者の特権よ。それでゴンザレス=カールの何が聞きたいの?」
勘違いしていた。
広井ゆりあは魔法少女の元締めというだけでなく、魔法少女そのものなのだ。いや、まさに『魔女』。そんな女を前に俺は何も言えなくなる。
「こちらもあなたに1点だけ、確認しなければならない事があるの」
幼女の見た目に相応しくない理知的な声が俺をとらえた。
「なぜ、ゴンザレス=カールの逃亡事件が『魔法少女』の犯行だと、確信できたか?よ」
かつてこの国の政治家は『人の命は地球より重たい』と言った。だが俺は人の命に何の価値などないと思う。まさに今がそうだ。1つの疑問だけで俺は生かされている。
「まず前提として、人は一定の環境でなければ生きられない。つまりは世間に公開されているような機材ケースでの密航は不可能。これに尽きる」
結果から伝える。
普通の人間なら生きるために長々と説明したがる。だが、生が無価値だとすれば、これだけ言えればいい。
「そう。具体的には?」
魔女が乗って来た。
「チャーターされた機体は、当日朝の点検でハッチに亀裂が見つかり、予備機で運行しています。同型機ですが、貨物室から客室スペースへの移動が不可能です」
「へぇ〜。でも機材ケースに生命維持装置みたいなものが取り付けられていたかもよ?」
「それは可能性が低いでしょう。関空の出入国は6グループがローテしてターミナルとプライベートエリアの出入国審査を担当、不正を防ぐために前日まで本人達さえ、どこの担当か勤務時間さえ読めない。
全グループを買収は現実的ではない、更に経由地のシンガポールも同じような警備体制でこっちは4グループ。仮に1グループづつ買収して成功率は1/24しかない」
ここまで一気に説明する。昨日1日で調べ尽くした内容だった。
「よって、物理的に世間に公表されている内容では不可能。だが、現にゴンザレス=カールはノンレバ国に逃亡している。そしてそれがこの国でできるのはあなた方しかいない」
俺の答案に広井ゆりあは笑った。
幼女の見た目なのに年齢相応の色気がある。
「ふふん……及第点よ。マリちゃんバレちゃったよ?」
いつのまにか俺の背後に女の子が立ていた。
こちらも幼いが広井ゆりあよりは大きい。日本の魔法少女はみんな幼女なのかと思う。
「……失礼します」
そう言ってその幼女は俺に近づく。
胸ポケットに忍ばせていた、ボイスレコーダーが抜き取られる。
更にブレザーの袖ボタンを千切る。いや、ボタンに偽装した盗聴機だった。
(こんなもの俺はつけてないぞ?)
「本当に日本はスパイ天国よね?」
広井ゆりあはその様子に笑った。
そして認めた。
「自由の国の『CIF』や『7MI』はみんな騙された。あなたの想像通り、私達がゴンザレス=カールを逃した。偽装工作はそこにいる水田マリが担当して、大阪の魔法少女が逃亡を手助けした」
広井ゆりあは笑みを深める。
「さて、どうして私達は、ゴンザレス=カールを逃したでしょう?」
自分のボタンのかけ違いに気づく。
初日に藤井先輩から聞いたのは『トヨサン自動車』の動機であって、『魔法少女』の動機にはなり得ない。
しかし、この時の俺は冴えていた。
いや、自分がいつ死んでもおかしくない状況に脳が限界を超えて応えてくれた。
「ヒントは先程の言葉ですね。『CIF』や『7MI』が動いている。つまりは『自由の国』や『連合王国』!」
これにはさすがの広井ゆりあも驚いたようだ。
「……予想以上ね。そうよ」
そして、テーブルに置かれたボタン型の盗聴を見る。
(つまりは第三者がいる……)
なぜか、初日の藤井先輩の言葉が浮かぶ。
(「あの頃、足賀副社長と相当やり合ってたと聞いたね」)
(違う、合併を嫌がる人間は『社内』だけじゃない!)
「『シャンゼリゼ自動車』と『トヨサン自動車』が合併した時、自動車産業の業界順位が変わる」
広井ゆりあが黙る。どうやら当たりを引いたらしい。続けていく。
「『自由の国』の『セントラル・モーター』は嫌がるだろう、もっと言えば『ステラ自動車』も。『連合王国』だって自動車産業の大手を抱えている、だから『世界』はこの合併を嫌がった」
そこで一拍置く。
水田マリがうなづいている。
「更に国内シェアが圧倒的な日本の『ヨコタ自動車』も国内のシェア争いが激化すれば、そちらに人的リソースを割かなければいけない。だから、『誰か』はゴンザレス=カールを消そうとした。それを逃したのがあなた達、『魔法少女』だ」
パチパチと広井ゆりあが手を叩く。
「よくできました!90点あげるわ。正直なところあなたが出せる解答としては100点に近いわ」
広井ゆりあはそう言って笑う。
「誰かがわかればプラス5点。もう1つ。これが『日本』が決めた事なら私は黙ってた。結果、ゴンザレスは留置場で首でも吊ったって事になったでしょう。外国の命令で日本が人殺しをする。この構造を私は許せないの。だから変える。そのために政治家になるの」
世界は俺の考えている以上に深く暗い。
そう思っていた。
だが、このあとそれだけではない事を知る事になる。




