第25話「4年前」
ルマニア共和国・首都ルピアール。中心部の教会。
ユーリ大統領が祭壇に向かって祈っている。
「ユーリ大統領、また護衛もつけないで……」
呆れたように梓が言った。
「いや、今日はアズサに話があって、彼らにはメシに行ってもらった」
いつもは見ない鋭い視線に梓は気圧される。
「………何?」
やっと返した返答に、ユーリが更に言葉を重ねる。
「アズサ、出会った頃に見せてくれた、スイスの銀行の1億ドル。あれはどうやって手に入れた?普通の18歳が手にできる金額じゃないだろ?」
その質問に少しだけ梓は緊張を解く。
「4年前の話よ。不愉快だろうけど聞く?」
少しの間、だがユーリは選択した。
「ーー聞かせてくれ」
「『ゴンザレス=カール』って知ってる?」
「……『トヨサン自動車』元CEO」
「そう。あの人を日本からノンレバ国に逃したのが、私。……1億ドルはその報酬よ」
その告白に、ユーリがため息を吐く。
「ーーやっぱりか。今度は俺の話だ」
祈りの場に静かに影が落ちた。
♦︎♦︎♦︎
4年前。軍政時代のルマニア国、首都ルピアール。
「先輩!今晩、1杯どうですか?」
後輩のピエールが俺に言ってくる。
「待て、少将に呼ばれているんだ。それの内容次第だな」
そう言って廊下ですれ違ったピエールと別れる。
呼び出されたのはスィープ=フォーリオ少将。入隊したての頃、散々しごかれた記憶が蘇る。
「すまないな。この人達は、シャンゼリゼ自動車の役員ともう1人は……」
「ノートルダムの人ですね。元宗主国のエージェント」
匂いが同じだ。つまりは『美の国』のエージェント。
「ご理解が早く助かります」
「『ゴンザレス=カール』、ご存知ですか?」
ひょろりとしたシャンゼリゼ自動車の役員が言う。この人にメガネをかけたら、ピエールにそっくりだと思う。
「貴社のCEOで日本の『トヨサン自動車』の元CEOでもある人ですよね。ノンレバ国に逃亡した」
「ご存知でしたか!ならば話が早い」
「これでもテレビぐらいは見ます」
「あの逃亡事件、『日本側に都合が良すぎる』と思いませんか?」
悲痛な願いが室内に響く。もう1人のエージェントさえ、しかめ面をしている。
「それなら、お隣のエージェントに頼めばいい」
(この流れは面倒になりそうだ)
そう直感で思う。
「できるなら、そうしていました。ですが我々では日本に溶け込めない。あなたは日本の小倉高専から早応大学に留学経験があり、日本語も堪能。しかも同じアジア系で日本に溶け込める。だからこうしてお願いに来たのです」
(困った。俺しかいない)
「ユーリ!こちらのシトロエン自動車は我が軍に2000万ユーロの資金提供を約束してくれた。存分にやってくれ!」
上官に言われてはしょうがない。
こうして俺は日本へ旅立った。
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