第23話「沙織の決断」
「これは我が国の最新鋭戦車101式ではないか!」
張が声が裏返る程に驚く。
「そ。あの戦闘に参加した56両。全てルマニア国軍が鹵獲したわ」
「魔女め!」
「ふふ、なんとでも言ってちょうだい」
そう梓が笑う。
「『ルマニアの聖女』に敬礼!」
(あの戦果だ。神格化してもおかしくない)
「おや、岸川大統領補佐官。どうされました?」
軟弱そうな軍服の男がそう言った。階級は中将。そうか元は文民かもしれない。
「ピエール中将、こんにちは。鉄道敷設計画の下見です。こちらは新任の張リャンシャン交通大臣です。張大臣、こちらは北部方面軍司令官のピエール中将です」
互いに握手する。
♦︎♦︎♦︎
同じ頃、首都ルピアール。大統領執務室。
「……あれから、北部では不正がゼロになっているね」
沙織がつぶやくように言った。梓と張が現地視察中なので、この部屋には沙織とユーリ大統領の2人だけだった。
「『聖女』化してるからな、アズサは北部で」
来週に控えた初めての外遊に備えて、資料に目を通すユーリがそれに答えた。
「……だね」
ため息と共に沙織は同意する。
その声色にユーリが少しだけ違和感を感じる。沙織と梓がこの国に来て2ヶ月、それがわかる程度には信頼も信用もしてきたつもりだった。
だから当然、ユーリは尋ねてしまう。
「どうした?」
沙織がためらいがちに言う。
「……今日で終わりにしていい?」
さすがにユーリは資料から沙織へと視線を上げる。沙織は綺麗に笑っていた。
「不正はなくなった訳じゃないけど、減ってきた。もう、わたしじゃなくてもいい」
ユーリは黙って続きを促す。
「もう1点、あずちゃんは魔女になった。同じ魔法を使う者としてわかる」
一瞬のためらい。
言うべきか言わずにおくべきか悩むような。
「多分、見えない壁を越えた。MIFが来れば、世界は『岸川梓』と言う『魔女』を知る。その横で魔女ではない『わたし』がいるのはーー」
沙織の表情は冷たい。
まるで不正を追う時のような、合理性を突き詰めたような顔をしていた。
「ーー邪魔だと思う」
ユーリは少しだけ考える。
(ここでアズサにの名前を出すのはフェアじゃない)
それだけは決める。
「俺は困る。少なくとも」
その返答に沙織はまた笑った。
「ズルい」
そして。もう一言。
「でも、決めたんだ」
ユーリも短く返す。
「……そうか。君の答えはわかった」
少しの沈黙。
「ごめん、あずちゃんが帰ってくる前にいなくなるね。決断が鈍るから」
「……そうだな。アズサはこっちで何とかする。君は大丈夫か?」
「大丈夫。ずっと1人だったから」
ユーリは資料に視線を戻す。
文字を目で追う。
ユーリが次に顔を上げた時、
大統領執務室はもう誰もいなかった。




