第18話「魔女の条件」
「ロルフ=スキャットマンが、ルマニア共和国北東部スマーノゥ州からお届けします。現地ではハイパーインフレによる市民の生活苦に加え、軍がルンダオ鉱山で産出される鉱石を横流ししているとの情報から、鉱山の労働争議が暴動に発展しています。ここから北東に50マイル先に『人民の国』との国境もあり、国境警備の名目で『人民改革軍』が展開中との情報もあり、ルマニア国軍は暴動と『人民改革軍』の両方に対処しなくてはならず、非常に緊迫した状態です」
放送を終えたロルフがマイクとインカムを外す。
そこへ
「『催眠解除』!」
三月沙織が催眠を解いた。
「みなさーん!おつかれ様でした〜!ワインが2樽あるから、楽しんでください!」
岸本梓が大きな声でエキストラをしてくれた坑夫達を労う。
「「「おー!」」」
坑夫達は喜びの歓声をあげる。
「これで国際プロパガンダ完成ね。元工作員の皆さんも偽情報をありがとうね」
「捕まっていた間は停電だったとしてる。これで第3国に逃してくれるんだろ?」
「ええ。はい。預かっていたパスポートよ。それから、これ。先立つものも必要でしょ?」
「ありがてぇ!早速、逃げるよ。明日にでも『人民の国』が来るんだろ?」
そう言って『人民の国』の元工作員達は逃げていく。
「まさかBCCニュースがフェイクニュースを流す日が来るとはな」
ユーリ大統領は呆れたように苦笑する。
「一度、官邸に戻るわよ。『ワープ』!」
坑夫達の喧騒をよそに、3人は首都へと戻った。
♦︎♦︎♦︎
「本当に1人でいいのか?」
ユーリが心配そうに聞く。
「何度も言ったはずよ。現状、『人民の国』に対抗できる戦力は私しかいない」
梓はまっすぐにユーリを見つめて続ける。
「敵は多分1個旅団。歩兵だけで6000人以上。対してこちらは国内総数で2万弱。北部だけだと3000人、戦車が旧ソ連製の中古車15台。どうしようもないわ」
一瞬、執務室を静寂が支配する。
「……にしても、もっと別の服はなかったのか?」
梓の今の格好はワンピースタイプの喪服にいつもはおろしているセミロングの髪を1つにまとめて、黒いカチューシャからレースのベールで目元を覆っている。まるでというか葬儀の帰りそのものの姿だった。
「夜間迷彩よ」
クスクスと梓は笑う。
その梓の姿がユーリには死装束に見えて、心が粟立つ。
「大丈夫。勝算しかないから」
ユーリの心配を汲み取って、梓が言葉を重ねた。
「あずちゃん、それ死亡フラグ……」
「マジでやめて」
そう言って沙織が茶化し、梓が笑う。
そして。
「行ってくるわ。『ワープ』!」
ベールがふわりと揺れる。
次の瞬間、梓の姿は消えていた。
戦場に梓は行ってしまう。
♦︎♦︎♦︎
ルンダオ鉱山から国境へ40km。迎撃予定地点。
「ピエールさんだったかしら?どうしているの?」
相変わらず軍服の似合わないヒョロリとした男、北部方面司令官のピエール中将がそこにいた。
「我々北部方面軍2000名。大統領補佐官とお供します!」
ピエールが全員を代表したように言う。
「邪魔よ。でも来てしまったならしょうがない、あと500だけ後退して」
「サー!イエッサ!」
流石に訓練された軍隊、その命令には従う。
「大統領補佐官として、この場にいる全員に通達する!手出し無用!これは私が魔女になる条件。これからやってくるのはそのための贄よ!」
黒い魔女がそこにいた。




