第17話「開戦前夜」
『BCC、イブニング・ニュースの時間です。東南アジア、ルマニア共和国北東部の鉱山都市で大規模な暴動が起こりました。現地からのリポートです』
『ロルフ=スキャットマンが、ルマニア共和国北東部スマーノゥ州からお届けします。現地ではハイパーインフレによる市民の生活苦に加え、軍がルンダオ鉱山で産出される鉱石を横流ししているとの情報から、鉱山の労働争議が暴動に発展しています。ここから北東に50マイル先に『人民の国』との国境もあり、国境警備の名目で『人民改革軍』が展開中との情報もあり、ルマニア国軍は暴動と『人民改革軍』の両方に対処しなくてはならず、非常に緊迫した状態です』
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人民の国・南西部、雲海省孔明市。方面軍司令部。
「工作員との定時連絡、問題ありません」
「通信は回復したのだな?」
「はい。どうやら一時的な停電により、電波が拾えなかったようです」
「これだから途上国は……」
張リャンシャンは吐き捨てるように言った。
「それで国境部隊は?」
「はい、第17機械化旅団が展開中。戦車56両、歩兵戦闘車130両、装甲車95両、自走砲25門、総戦闘員数6200名です」
副官である民タオリュは暗記しているのか、澱みなく答えた。
「それでタイムスケジュールは?」
「3:00時行動開始。そこから国境まで1時間、国境から2時間でルンダオタウンに到達、順次制圧予定です。その後、さらに西へ進軍。あわよくば『スルード』と『モーム』の2鉱山も狙います」
「向こうは全部合わせて2万弱。北部鉱山都市はどこも暴動、軍はまともに動けないだろう」
まだ開戦前だというのに、張リャンシャンに余裕の笑みがこぼれる。
「48時間だ」
「は?」
「48時間で3つ全ていただく!国際社会とやらが介入する前にだ!」
だが、民タオリュは冷静な副官である。
「1つだけ、懸念事項があります」
「『桶狭間』だな」
「はい。300キロに及ぶ広大な国境線ですが、殆どが山地で我が最新鋭戦車101式でも国境付近では15キロ程の幅しかありません。ここで挟撃された場合、苦戦を強いられます」
「しかも、相手には日本人がいる。『桶狭間の戦い』を知っている可能性が高い。そうだろう?」
張は油断はしても手は抜かない。装備に関しても最新鋭機で揃えた。
「安心しろ。偵察ドローン15機と攻撃用ドローン35機を香江の電子部隊から徴発した」
ようやく副官の民にも安堵の表情が浮かぶ。
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翌日、3:00。
人民の国・ルマニア共和国、国境地帯
闇の中でエンジン音が唸る。
戦車の列がゆっくりと動き始めた。
4:00
最前列の戦車が、国境ゲートの前で止まった。
張リャンシャンの声が無線に響く。
『前進』
戦車が加速する。
鋼鉄の塊がゲートを押し潰した。
ルマニア共和国との戦争は、こうして静かに始まった。




