第13話「過去と将来(前編)」
ルマニア国・首都ルピアール。大統領官邸。
「アズサの酔った姿に興味がない訳ではないが……」
この館の主、ユーリ大統領がそう言って笑う。
「もう!馬鹿!……行ってくるわ。『ワープ』!」
梓は自分の赤くなった顔を隠すように転移した。
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ルマニア共和国、ネオ・ポルドー州、州都ネオポルドー市近郊。ハルの家。
「ただいま」
短く、梓が言った。
大統領官邸とは匂いが違う。樽の木の香りなのか、どこか腐葉土のような匂いだった。
「おかえり。ハルちゃんはお酒のアテを作ってる」
出迎えた沙織が言った。
そこへ、ハルが料理を持ってくる。
「はい、チーズを溶かしたのとパン。それとオイルサーディンのニンニク・唐辛子ソテー。グラスも持ってきた」
「お!ありがとう!」
空の樽をテーブル代わりに、瓶のケースをスツールのように座る。
「あれ?瓶詰めしたんだ」
梓が不思議そうに言った。
「うん。澱引きしてないからね。ボトルの肩に引っかかるかな?って思って」
「なるほどね。でも魔法で上澄みだけ取るのもアリじゃない?」
2人のワイン談議が長くなりそうで、沙織が急かす。
「いいから乾杯しようよ!」
その声に2人は笑って「そうだね」と答えた。
「3人の成人に」
「2人の『アズサ』に!」
「3人の出会いに」
「「「乾杯」」」
それぞれが一言づつ、そして全員でグラスを傾けた。
「おやすみなさい。あずちゃん、ハルちゃん……」
沙織が脇にあったソファーで横になる。
料理からはまだ湯気が立っている。
「1杯で?」
「……好意的に言って、2口。まぁ、しょうがないよ。初めてのお酒だし」
そう言って残った2人は目を合わせて苦笑する。
「これ樽に『カベルネ・ソーヴィニヨン』って書いてあったけど、ブレンドするの?」
「そうだよ。このワインを中心にメルローとかを混ぜる」
「へぇー、ポルドーの工程と同じなんだ!」
「まあ、『美の国』の植民地時代に気候が似てるからっていうのが始まりらしいし……そういえば疑問なんだけど、ワインに詳しいよね。澱引きの事も知ってたし」
喋りながらグラスは空になり、次のワインが注がれる。
「ん、こっちは香りが凄い。ぶどうは一緒でも、皮の薄いものにあえて古い樽を使って香りの強いものを作ったんだね。日本でカベルネを育てると皮が薄いからいいアイデアかも!」
ハルの質問を誤魔化すように、わざとらしくグラスを回す。新しいワインの感想を梓は言った。
「日本だと気候が違うから?」
「うん。湿度が高いせいって言われてる。私が魔法少女になる前、ぶどう農家の子どもだったの」
梓が自分の過去をポツリと話す。
先程と違うのはアルコールのせいかもしれないし、ハルと打ち解けたと思えたからかもしれなかった。
「だから、ワインに詳しいんだね。私もいつかこのワイナリーを復活させたいな……」
「素敵な将来ね。でも、ハルちゃんは勉強した方がいい。ワイン作りはその後でも復活できるでしょ?」
多分、梓は酔っている。普段の梓ならこんなに強い口調にはならなかっただろう。それを自覚しながらも、言葉を重ねるのは酔いのせいだろう。
「沙織ちゃんが『精神感応』でハルちゃんの年齢を見抜けなかった。それはハルちゃんの思考が幼かったから。9歳でも違和感がない程に」
一方でハルは冷静に話を聞いている。
ワイングラスを揺らして、その様子を見つめながら反論した。
「でも、わたし19歳だよ?それに勉強なんかしなくてもワインは作れるし」
外は暗く、ワイナリーの明かりは充分とは言えない。何だか常夜灯の中でワインを飲んでいるようだった。
「……私、魔法少女になる前は『軽部寧々』って名前だった。長野県のワインも作っているぶどう農家の娘だった……」
静かにポツポツと梓が語り始めた。




