第12話「生まれ年ワイン」
「ハルさん、少なくともあなたは9歳じゃない。お父様の墓石には『軍と王族親衛隊の戦闘に巻き込まれて死亡』と書いてあるわ。クーデターは15年前。9歳のあなたが生まれるのはおかしいでしょう?」
その場を一瞬の沈黙が支配する。
「……バレちゃった」
観念したように溜息混じりにハルが言った。
「ワイナリーも15年前で製造が止まってた。多分、ハルのお父さんの家系は30年ぐらい、ワインを作っていた」
ワイナリーでワイン樽を食い入るように見ていた沙織も補足するように言った。
「多分、ハルさんは私達と同じく、今年で19歳。この国だと、ワインを飲んでいい年齢のはず」
梓はハルの方をまっすぐに見て言う。
「待ってくれ、この子が18歳だって?とても信じられない!」
ユーリが信じられないと目を見開く。
「沙織ちゃんも18歳よ?」
「嘘だろう……?」
「そういえばサオリの年齢を聞いていなかった」とつぶやくユーリに梓が答える。
「『ユリア・シンドローム』って日本では言われてる。幼少期に魔法に目覚めると成長期が来ない場合がある。佐藤ゆりあ、水田マリ、広井夏樹、三月沙織。知ってるだけでも4人もいるわ」
その言葉を整理するように、ユーリはゆっくりと言う。
「つまり……ハルもその『ユリア・シンドローム』だと?」
「『ユリア・シンドローム』なのか、わからない。けれど私はもうすぐ19歳。これは事実よ」
もう演技の必要がないせいか、ハルがはっきりと断定した。
「なぜ9歳の振りを?」
「お母さんの『予知』よ。こうでもしないとあの町の町長は『人民の国』側に寝返っていた。インフレに耐えきれずにね…。
それにあなた達に私を『気づかせる』って目的もある。小さな女の子なら、『保護しなきゃ!』って思ったでしょ?」
そこまで言って、一拍。ハルの声色が変わる。
「でも、さすがお母さんが信頼するだけある。お母さんの予知でも、ここで私の年齢がバレちゃう展開は聞いてない」
おそらくそれは事実なのだろう。
「だから、あの手紙も『情緒に訴える』ような書き方だった」
梓が言う。沙織は梓よりも魔法少女としての活動が長い、だから梓とは少し意見が違った。
「んー、『未来視』と『瞬間転移』って言うレアなスキルの二刀流なら、それぞれのレベルは低くなって当然じゃない?」
「あー、そうだわ。日本では『チート主人公』みたいな、藤原さくらしか見た事なかったから感覚がおかしかったわ」
沙織の仮定に梓が同意する。
「……全部お見通しなのね。私の母、辻村あずさは『異能少女』としては二流だった。だからトライ・アンド・エラーを繰り返して、今がある」
ハルは自嘲するように母親の事を言う。
そしてさらに言葉を重ねる。
「馬鹿な人。私を諦めるか、この国を捨てるかすれば良かったのに……」
「あなたも同じじゃない?」
梓の言葉にハルはうつむく。
「そこでストップだ」
口を挟んだのはユーリだ。
「アズサ。すまないが俺を大統領官邸まで送ってくれ。そのあと、3人で話せばいい」
「送るのはいいけどどうしたの?」
梓が不思議そうに尋ねる。
「この国の成人は18歳だ。つまり大人だ。大人はこういう時、酒を飲む。
ここはワイナリーで酒も残っていた。
しかもそこの樽、君ら3人が生まれた年に収穫されたものだ。そうなると俺はいない方がいい」
3人の目の前には
『Cabernet Sauvignon 200X』
と書かれた樽が静かに置かれていた。




