第11話「魔法少女と異能少女②」
ルマニア共和国、首都ルピアールから西へ100キロ。ネオ・ポルドー州、州都ネオポルドー市近郊。ハルの家。
「見つけたわ。ここね」
梓がスマホの地図を確認しながら呟いた。
「まさか、北東部スマーノゥから300キロも離れたところに住んでるなんてね」
沙織も驚いたように言った。
その時。
「お姉ちゃん達、だぁれ?」
背後から幼い声がした。
(しまった。防犯カメラ!)
不覚にも背後を取られて、梓は焦る。
「私は岸本梓」
その名前にハルは驚く。
「本当に来た!お母さんの言った通り!」
そう言って一目散に、家の中に入っていく。
数秒、今度は瞬間移動で梓の目の前に現れる。
「手紙。お母さんから!」
そう言って、渡された便箋には『岸本梓様』と書かれている。
『岸本梓様
突然の手紙をお許しください。
あなたがこの国に来る未来を、私は何度も見ました。
私は辻村ハルの母、辻村あずさです。
私は未来を見る力を持っていました。
けれど未来は一つではありませんでした。
私が長く生きる未来もありました。
ハルと穏やかに暮らす未来も。
ですがその未来では、この国は早く侵攻を受け、ハルは見つかってしまいます。
私は侵攻を遅らせました。
命を削りながら。
あなたが間に合う未来を残すために。
私はあなたを信じています。
それは未来を見たからではありません。
未来の中で、あなたの選択を見たからです。
どうかハルを、あなたのそばに。
国家のためではなく、あなたが守ると決めたもののために。
辻村あずさ
PS.ワイナリーの貯蔵庫の中のものはあなたの「理想の国」のために使ってください』
♦︎♦︎♦︎
ワイナリー貯蔵庫。
「凄い量ね……」
埃をかぶった圧搾機やワインを入れる前の空びん。
まだ中身の入っている樽が並んでいる。
その一角、本来なら樽が並ぶはずだった棚に灰色の金属が静かに並んでいる。
「だいたい500グラムのインゴットってところか?そう仮定するとこの棚で500キロ、4つあるから2トンだな」
ユーリが言った。
「お母さんが梓さんと一緒に来る人に渡しなさい。って言ってたー!」
無邪気にハルが言う。
一方で、沙織は本来なら見る必要もない圧搾機やステンレスのタンク。ビンに貼る前のラベルを興味深そうに見ている。
「やっぱり沙織ちゃんも気づいた?」
「あずちゃんは最初から疑っていたよね?」
「うん」
2人だけでそんな会話をする。
そして、2人でうなづくと、梓が言う。
「ハル=ツジムラさん。あなた、今、いくつ?」
「9歳!」
ハルは元気良く答える。
「こんなにネオジムをいただくから、お母様にお礼を言いたいの。お墓は近く?」
「うん。お庭!こっち!」
勝手口のようなドアを開けると、ぶどう畑が広がる。
どうやら家は3階建てで2階に玄関があり、崖地に建てられていたのだろう。地下だと思っていたワイナリー貯蔵庫は1階だった。シャッターを開けば畑からワイナリーまで動線が短くて済むように設計されていた。
「ここ!」
『Azusa・Tsujimura』と半年前だからか真新しい墓石がある。『多臓器不全により死去』と簡単に説明されている。
梓は手を合わせ、ユーリは十字を切る。
「横はお父様?」
「そうだよ」
横の母親の墓とは違い、年季を感じる。縁が少しだけ欠けていた。それを見て、梓はにこりと笑った。
「やっぱりね。ハルさん、少なくともあなたは9歳じゃない。お父様の墓石には『軍と王族親衛隊の戦闘に巻き込まれて死亡』と書いてあるわ。クーデターは15年前。9歳のあなたが生まれるのはおかしいでしょう?」




