第8話「労働争議」
ルマニア共和国、北東部・スマーノゥ州。国境付近、ルンダオタウン・ルンダオ鉱山。
「見えたぞ。あれがルンダオ鉱山だ」
梓のホウキの後ろに乗った、ユーリが言った。
山が扇型に削られ、階段状になっている。それがまだ距離のある段階ではっきりと見える。
「ところで鉱石ってどうしてるの?」
「少し砕いて、洗って出荷している。我が国では『精錬』は難しい。港まで運んで『砂の国』で『余白の国』と一緒に精錬して、欧州で強力な磁石に加工される」
ユーリは大統領であるが、大学では資源工学部を卒業していた。
「『精錬』って?」
レアアースの知識のない梓が聞く。
「採取された鉱石を砕いて、水と混ぜて泥状にする。ここでバブルで撹拌すると不純物は浮く。まずはこれが第1工程だ。ここまでは国内でやってる」
「うん」
ユーリは得意分野とあって、ことさら饒舌になる。
「ーーと。まあ、7工程ほどを経て、インゴット状態になる。問題は酸性廃液や有機溶剤、1番厄介なのが、微量ながら放射性物質だ。これらを廃棄物として処理する必要がある」
「……なるほど、厄介ね。それと、さすが小倉高専から早応大学に行った人間ね」
「ああ、『国の資源』だからそれを『利用』できる国を創る。それが父さんの『理想の国』だった。それとこの国は独立戦争の時に旧日本兵が義勇兵として参戦したから親日国家でもある。まあ、それで日本に留学していた」
「『理想の国』……!」
梓がつぶやいた時だった。
「ん!下の方、鉱山の事務所かな?何か騒ぎが起こっているね」
横を飛んでいた沙織が言った。
「直接乗り込むのは魔法がバレて不味い。あそこの駐車場の裏手に降りよう」
ユーリが指示した。
♦︎♦︎♦︎
「賃金を上げろ!」
「搾取するのは、止めろ!」
「軍は横流しをやめろ!」
坑夫の声が響く。だいたい1000人前後だろうか。
対して、事務所側には迷彩服の兵隊が50名程度。
一触即発の状態だった。
「双方!引け!」
ユーリが今までで1番大きな声を出す。
梓も沙織もその迫力に気圧される。
3人は2つのグループの間に割って入る。
「え?だ、大統領?」
誰かの声が聞こえる。
毅然としていた兵士にも、動揺が広がる。
「大統領の私が命じる。銃を下ろせ!」
「お言葉ですが大統領、これは暴動です。鎮圧も軍の仕事です!」
「相手は非武装だ。悪戯に刺激するな!もう一度言う。銃を下ろせ」
兵士は銃を降ろし、「休め」の体勢をとる。
ユーリは振り返るとリーダーらしき人間に声をかける。
「この場はこのユーリ=シトロエンが預かる。君らの意見はこのユーリがしかと聞いた。今日のところは引いてもらえないだろうか?」
リーダー格の男はゆっくりうなづく。
「ありがとう、今日は俺の奢りだ。サオリ、頼めるか?」
そう言って沙織の方を向く。
「……仕方ないな」
ここで大統領から現金を手渡すと収賄になる。大統領補佐官である梓も同様だ。
リーダー格の男に人民元の赤い札束を6つ手渡す。
その光景に全員が目を剥いて驚く。
「あ!あずちゃん。水色のプラカードの人、捕まえて」
「ん。『ワープ』!」
言われた男性が兵士の真ん中に転移される。
「それと、灰色のタオルを頭に巻いた人、ヘルメットにサングラスの人、横断幕の右から3番目の人。あとは後ろの方で腕組んで見てる人」
総勢5人が転移させられた。
「この人たちは『詳しく』お話しを聞いた方がいいね」
沙織が静かに告げた。




