第7話「異能少女」
ルマニア共和国、北東部・スマーノゥ州。国境付近、ルンダオタウン・ルンダオ鉱山。
半年前にお母さんは死んだ。
悲しいし、今でもさびしい。
けれど、お母さんとの約束は守る。
「町長さん、これ。今週分」
「いつも、ありがとうね、ハルちゃん。はい、今週分の食べ物と現金。今週は電気代。だろ?」
「うん!ありがとう!」
町長さんに渡したのは「ねおじむ」というらしい。何に使うのかは知らない。
今日は「しゅっか」の日でもある。
トラックが鉱山を出て道路を進んでいく。
1時間ほど走ったところにトラックの給油所がある。「じんみんの国」に行くトラックはこの先4時間は給油所がないから、必ずここで止まる。
「『せいれん』!」
トラックの荷台の石が少し揺れる。いつの間にか、私の手に「ねおじむ」があらわれる。
トラック2台で町長に渡したものと同じ「ねおじむ」ができる。時間が経つと灰色にザラッとする。今日は6台いたから3個の「ねおじむ」ができた。
トラックは「じんみんの国」に行く。
でも、山はルマニアの山だ。
だから「少しくらい持ってきてもいい」って、お母さんは言っていた。
私は『いのうしょうじょ』なのだ。
お母さんもそうだったし、おばあちゃんもそうだったらしい。
「『いどう』!」
呪文を唱えると、すぐに家に帰りつく。
もらった食べ物を冷蔵庫にしまって、床の下にある秘密の場所に「ねおじむ」を隠す。
『3つできたら、1つは町長さんに。2つはここに隠す事』
お母さんとの約束。
『ここに来る人がいたら、「ねおじむ」を渡す事』
もう1つの約束。
いったい、いつ、だれが来るんだろう?
わからないけど、私はそれを待っている。
♦︎♦︎♦︎
同じ頃、ルマニア共和国、首都・ルピアール。大統領執務室。
「それで沙織ちゃん、何がおかしいの?」
梓が少しだけ不機嫌そうに言った。無理もない、休みの日に携帯で呼ばれたのだから。
「これ、横領の額と時系列、一般予算と軍予算。ここ5年分、ここ2年以前は軍事政権下で正確とはいえないけど」
ユーリ大統領が遅れて入ってくる。
「すまない、遅くなった」
「一緒にいたなら、一緒に入ってくればいいのに」
沙織が言う。精神感応系魔法少女の沙織には生半可な嘘は通用しない。
「正直に言おう、36歳の大統領が18歳の大統領補佐官に手を出すのは、スキャンダルになる。だから何もない」
「知ってる」
沙織が短く言う。
「あー確かに、これは変ね」
数字を目で追っていた、梓が声を上げる。
「何がだ?」
ユーリが資料を見ずに言う。
「北東部のスマーノゥ州、半年前から急に横領に手を染めてる。軍の北部方面師団は鉱石を横流ししていたはず。だから横領なんてなかった。しなくても十分に潤っていたからよ」
梓が答えて、ユーリが仮説をたてる。
「潤っていないという事は、産出量が減った?」
「違う。昨年9月のハリケーンで設備トラブルがあった時以外は例年通り」
沙織が否定する。
「つまりは、北部方面師団は鉱石を横流ししている。にもかかわらず半年前から横領にも手を染めている。鉱山の産出量には変化なし」
梓がまとめる。
「これ想定を悪い方に上振れしたら、あずちゃんのプランが崩れかねない。だからデート中だろうけど呼んだの」
「デ、デートじゃないし!護衛だもん!」
梓が顔を真っ赤に染めて否定する。
「と、とにかく実際に見に行きましょう。話はそれからよ」
「公務としてか?」
ユーリが問う。
「違うわ。社会勉強よ。せっかくの休みだし」
「デートじゃん」
「沙織ちゃんも行くの!」
心理は読めても空気の読めない沙織であった。




