第6話「Holiday in Rupieru」
ルマニア国・首都ルピアール。中心部の教会。
天井のアーチは照明の光で陰影を作り、そこにお香のような香りと美の国統治時代に意匠を凝らした造りの白壁で神聖な雰囲気を醸し出している。
さらに特別なのは祭壇前。上部のステンドグラスから太陽光が入り、カラフルな影を落とす。
ユーリ=シトロエン大統領は祈りを捧げる。
「案外、熱心に祈るのね」
そう言いながら、梓はスマホを構えて写真を撮る。静寂な教会内にカメラのシャッター音だけが響く。
「SNS用。日本だと熱心な信者って引かれるけど、こちらだとプラスの方が大きいもの」
そう言ってまた2・3枚撮影する。
「……おい、今日は休みって伝えたよな?」
ユーリは確認するように梓に言った。
「聞いたし、知ってる。ユーリ大統領こそ、わかっている?」
今度は梓が確認するように聞く。
「何がだ?」
「私がやったことで恐縮なんだけど、多分『人民の国』の虎の尾を確実に踏んだの」
「それで?」
ユーリは笑って続きを聞く。その顔に理由に見当がついていることが浮かぶ。
「もういい!知らない!」
くるりと梓が踵を返す。淡いパステルグリーンのワンピースがひらりと揺れる。
「わかった、わかった。護衛料にモヒンガーかポークヒンでどうだ?」
「乗った!」
ニッコリと梓が笑う。
「……そういえば、不思議ね。この国は仏教の国ってイメージだったけど」
「ああ、独立戦争から60年ほど、植民地・立憲君主制・軍事政権、そして今の共和制とコロコロ制度が変わったからな。だから、キリスト教徒もそれなりの数がいる」
「そうなんだ。毎週、来てるの?」
ユーリの答えは小さくなる。
「いや、時折だ。両親の墓がないからな……」
それでも小さく付け足す。
「知らせを受けた時には、小倉にいた」
梓が止まる。
「おま……いや、アズサと同じ18歳の時だった」
「……聞かせてよ。ランチじゃなくて、甘い紅茶でいいから」
梓が穏やかに言う。
「ラペイエな」
ユーリはそう言って歩き出す。




