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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
外伝、その2「理想の国」

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第4話「梓、国を買う」

「ユーリ大統領。あなた、味方いないわね」


梓が机越しに言う。ユーリは苦笑する。


「突然だな」

「人民の国は北のレアメタルを欲しがってる。自由の国は南部。軍は甘い汁を吸ってる。国民は通貨を信用してない」


淡々としている。


「四面楚歌ってやつ?」


ユーリは椅子にもたれた。


「……否定はしない」

「諦めてる?」


一拍。


「少しな」

「辞任は?」

「しない。来月末、この国が終わるなら。国を終わらせた大統領の名前は『ユーリ=シトロエン』であるべきだ」


梓は少しだけ笑った。


「律儀ね」

「逃げる気はない」

「じゃあ、逃げなくていい方法を教えてあげる」


ユーリは黙る。

梓は机の上の返済予定表を指で押さえた。


「3000万ドル。払う。私が」


空気が止まる。

沙織は横で何も言わない。

ユーリの目がわずかに動く。


「条件は?」


即答だった。

梓は頷く。


「さすが」


一歩、机に近づく。


「大統領権限を使わせて」

「具体的に」

「財務・軍・資源関連の特命権限。期間は1年」


ユーリの眉が動く。


「国家運営に介入する気か」

「違う。1年だけあなたには傀儡になってもらう」

「保証は?」

「ない」


即答。


「失敗したら?」

「その時はあなたが責任を取る」


ユーリは笑う。


「ずいぶんだな」

「3000万ドルは安くないの」


沈黙。


「どうやって用意する」


梓はスマホを見せる。梓のスイスの銀行の口座残高である。


預金残高:1億ドル。


「なぜそこまでする」


梓は肩をすくめる。


「今が一番安いから」

「何がだ」

「この国」


ユーリは静かに笑って手を出した。


「契約書を作る訳にはいかないからな」

「そうね」


それだけ言って、梓もその手を握る。


交渉成立だった。


♦︎♦︎♦︎


「それでまずは何をする?補佐官殿?」


『大統領補佐官』それが梓に与えられた立場だった。


「まずは『国民』から。沙織ちゃん、予算・決算書類から不正を洗い出して、できれば裏取りも」

「はい。補佐官殿」


茶化して沙織が答える。


「私がその中から、選んで『見せしめ』で何人か逮捕させる。それだけで国民はルピアは信用できなくても、あなたの支持率は上がる」


ユーリが不思議そうに言う。


「支持率なんて、ただの数字だろう?何の意味がある?」


それに対して、梓は辛辣だった。


「国内外に政権は『安定してる』と思われるだけで、為替は反応するわ」


さらに続ける。


「今はあなたも含めて誰も『再選する』と思ってない。それが『あと6年、この体制が維持される』と思われたら、少しは安心して投資対象として見てくれる」


沙織が口を開く。


「あずちゃんは?何するの?」

「決まっているじゃない、『外貨獲得』よ」


♦︎♦︎♦︎


3日後。


美の国、首都・セーヌ市。「オレンジ・テレコム」本社。


梓は大統領補佐官として、応接室に通される。


「この度、ルマニア共和国大統領補佐官を拝命しました、岸本梓です」


握手に応じるのはCOO(最高執行責任者) マチュー=ブラン。しかし、席に座った瞬間、彼の言葉は厳しかった。


「電波使用免許料が年間3000万ユーロ。あなた方の国にそれだけの価値があるとお思いで?」

「では、今月末で電波使用は許可しません。基地局は軍と併用でしたね。つまりは我が国の持ち物です」

「それでは貴国の通信は?」

「入札を行います。貴社ともう1社の予定でしたが高い金額の2社としましょう。連合王国の『アンダーフォン』社は『前向きに検討する』と回答してきていますし、国民が困る事はありません」

「弊社を切って、『アンダーフォン』社に?」

「それを決めるのはあなた方です。こちらとしては、旧宗主国の企業である貴社に1番いい条件を提示したつもりですが?

『アンダーフォン社』だけでなく、人民の国『革新通信』や地理的に近い『スパイスの国』の『デリーウェイ』も参加を表明しています」


マチュー=ブランは国の代表として、単身で乗り込んできた少女を見る。恐ろしく若いが、それ以上に場慣れしていた。ここが勝負所とわかっている者の迫力があった。


「……降参だ。契約しましょう」

「ありがとうございます。法務担当部署にはもう問題なしとの回答をいただきました。こちらは本日夕方、プレスリリースします」


一気にまとめられた。


「3000万ユーロ。決して損はさせません。最初の半年はどこが落札しようとオレンジ・テレコムの独占ですし、貴社には『オレンジ・ペイ』もある。アフリカでの実績もありますし、我が国でも導入してみませんか?」

「それを先に言ってくれれば、もっと早く決断しましたよ」


そう言って、マチュー=ブランは笑った。


翌日、ルマニア国外貨準備口座に3000万ユーロが入金された。


結局、梓は自己資金を1セントも使わず、『人民の国』への返済資金を獲得した。

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