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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
外伝、その2「理想の国」

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第2話「首都ルピアール」

関西空港からシンガポールで乗り換え、2時間。


ルマニア共和国、ルピアール・ヌーヴォー国際空港。


「旧『美の国』の植民地だっけ?」

「そうだよ。第二次大戦後、元宗主国『美の国』と独立戦争して独立したのが『ルマニア共和国』ってWikipediaで説明されてた」


コンベアからキャリーケースを探しながら梓が答える。


入国審査は驚くほど簡素だった。日本という国はそれだけ『信用』されているという事だろう。


梓は持っていた紙幣を両替しようとしてやめた。


『1ドル=400,000,000ルピア』


しかも横の売店の価格はこの国の通貨であるルピア表記とは別に『ドル』『人民元』の記載があるから、ドルがあれば『使える』という事だろう。


水のペットボトルを2本買う。

0.8ドルを1ドル紙幣で払う。


店員は慣れた手つきでレジを打ち、引き出しを開けた。

戻ってきたのは、分厚い紙の束がふたつ。


「お釣り」


ルピアだ。

梓はそれを受け取る。

軽い。

紙は新品のようにパリパリで、まだインクの匂いがする。


「……これ、いくら分?」

「計算しても意味ないよ」


沙織が言う。


「明日には変わる」


梓は札束をキャリーケースのポケットに押し込む。

財布に入れるという発想は、もうなかった。


タクシーで市内中心部へ。


空港を出た瞬間、熱気がまとわりつく。


道路脇には未完成の高層ビルが並んでいる。

ガラスは入っていない。

骨組みだけが空に突き刺さっている。


側面には巨大な看板。


『人民建設集団』


「……あからさまだね」

「資本は入ってる。でも完成しない」


信号は壊れたまま。

交差点には銃を持った兵士が立っている。


タクシーの運転手がバックミラー越しに言う。


「チップ込みで10ドルでどう?」

「地の果てでも行くよ!」


どうやら、破格の提示だったらしい。

沙織がポツリと言う。


「どうやら3日分の売り上げ額らしいよ」


運転手は笑っていない。


「ドルは、神様だ」


タクシーは中心部へ入る。


通りは妙に整っている。

街路樹は剪定され、歩道は清掃されている。

さっきの未完成ビル群とは明らかに空気が違う。


車は白い外壁のホテル前で止まった。


『HOTEL BEL ÉTOILE(ベル・エトワール)』


『美の国』語だ。


「完全に旧宗主国趣味だね」

「支払いはドルのみ、だって」


フロントは冷房が効きすぎている。

大理石の床。笑顔のスタッフ。

英語は流暢。


「2泊で240ドルです」


高い。

この国の平均月収を考えれば異常だ。


梓はカードで払う。端末は最新型。

Wi-Fiは高速。

エレベーターの中で沙織が言う。


「ここは『別の国』だね」

「うん。通貨も、空気も」


部屋の窓から見えるのは整備された大通り。

しかし一本裏は、暗い。


夜。


ホテルの外に出る。

徒歩15分。


匂いが変わる。


舗装が荒れ、街灯が減る。

発電機の唸る音がする。


市場だ。


屋台が連なる。

肉、魚、野菜。

そして大量の紙幣。


値札はルピアではない。


『人民元のみ』

『ドル紙幣使えます』

『ルピア決済不可』


梓が野菜を指差す。


「これいくら?」

「12元」


市場の奥。


煙が立ち上る簡易食堂。

プラスチック椅子。

鉄板で焼かれる肉。

スープの匂い。


梓が指をさす。


「ここ、安いね」


値段は『15元』


2人は座る。


出てきたのはスパイスの効いた肉と米。

普通に美味しい。


梓がドル札を出す。

店主が首を振る。


「元だけだ」

「カードは?」

「停電中だ」


沙織が小声で言う。


「発電機、動いてるけど?」


店主は決済端末を見せる。


「故障中だ。修理代もない」


梓はキャリーケースから空港でもらったルピア束を出す。


店主はそれを一瞥し、鼻で笑う。


「紙くずだ」


空気が少し張る。

その時。


「彼女たちの分は私が払おう」


低い声。


振り返ると、くたびれたシャツ姿の中年男性。髭は整っている。目は鋭い。

彼はポケットから人民元を出し、無造作に置く。

店主は何も言わず受け取った。

梓が立ち上がる。


「ありがとうございます。後でお返しします」

「ドルなら要らない。ここでは嫌われる」


男は座ったまま言う。


「観光か?」

「実はスーツケースがこちら行きの飛行機に乗ってしまって、取り返しに……」


梓が取り繕った嘘を言う。

この国に観光客など少ないだろう。

まして日本人観光客などは。


沙織がじっと男を見る。

数秒。


梓はその沈黙に気づく。


「……どうしたの?」

「この人、軍人」


男が少し笑う。


「元、だ」


梓が目を細める。


「階級は?」

「大佐」


一瞬、周囲の喧騒が遠のく。

男はスープを一口飲み、淡々と続ける。


「君たち、日本人だな」

「なぜわかるの?」

「目だ」


沙織が言う。


「あなたは軍人だけど、軍だけじゃない」


男は今度ははっきりと笑った。


「よく見ている」


彼は立ち上がる。


「俺はユーリ=シトロエン」


梓の動きが止まる。

資料の最初のページ。

国家元首の名前。


ユーリ=シトロエン。


「……大統領?」


市場の喧騒は何も変わらない。

だが空気だけが変わる。

男は肩をすくめる。


「肩書きは飾りだ。この国ではな」


沙織が言う。


「あなた、ここで何してるの?」

「国を見るには、上からでは見えない」


彼は市場を一瞥する。


「君たちは何を見に来た?」


梓は一瞬迷う。


嘘は通じない。

沙織がいる。


「国を買いに」


ユーリの目が細くなる。


「面白い冗談だ」

「本気です」


沈黙。


発電機の音。

遠くで人民元を数える音。


ユーリは言う。


「ならば明日、官邸に来い」


ポケットから紙切れを出す。

直筆の住所。


「この国を救うと言うなら、まず『敵』を知れ」


男は背を向け、雑踏の中へ消えた。


梓が小さく言う。


「……いきなり最終ボス出てきたね」

「うん」


沙織は静かに呟く。


「この人、悪人じゃない。でも——」

「この国の『原因』の一部」


市場の灯りが瞬く。


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