第111話「決勝戦⑨決着」
決着30分前。
連合王国、首都・ドンロンシティー。タイムズ川直上、クィーン・エリザードⅡ橋付近。
対戦相手の藤原さくらが呪文を詠唱する。
「『ボイドニウム・ストリーム』!」
(対策済み。問題ない)
AIが全自動でハウンド・ドック4体の位置修正や距離算出をやってくれる。そして何事もなく火炎で魔法は無効化される。
「甘いよ。地球上に存在しないって事は、大気に適合していない。つまりは酸化に弱いって事だよ。燃焼は最も激しい酸化だからね」
言いながら思う。
(風が少しある。だから効かない)
実はモノノフとハウンド・ドックだけではない。
夏樹はさくらに別の攻撃を仕掛けていた。
(オープンな環境だから、酸素を奪うってやり方はやっぱり効率が悪い)
具体的には空気中の酸素を電気で酸素からオゾンに変化させ、酸素濃度を下げている。
夏樹は藤原さくらの『戦闘IQ』ーー
いや、『発想力』を警戒していた。
そのために環境を操作する。
酸素量を下げる。
それは人間の判断力を鈍らせる。
(ん?あそこ……キムベリー・ドックス……造船所か!)
巨大なクレーンに学校の校舎がすっぽりと入る規模のドック。ここでなら酸欠を起こせるかもしれない。
その時だった。
「『ボイドニウム・ストリーム』!」
何度目かの同じ攻撃。だが、今回は違った。
「『ユニオン・ジャック』!」
指揮官機タイプ=アヤメが光の魔法で撃墜される。
(気を取られすぎた…)
やはり、藤原さくらは強いと夏樹は素直に思う。幾重にも張った勝利への布石が全く役に立たない。
「司令機は落とした。これで他はただの攻撃メカになった」
と言って、さくらが笑う。
「ふふ、見事だ。AIっていうのは『最適な答え』は導き出せても、そこにある『悪意』には気付けない」
あくまで余裕を崩せない。
技術・心理・魔法。全て使って勝利しなければならないのだ。
「予備機は何機もあるからね。でも出さない。同じようにやられるだけだからね」
事実、『タイプ=サオリ』『タイプ=イトコ』という2機の予備指揮機が存在する。
「じゃあ、どうするの?現状ジリ貧でしょ?」
「これが本当に最後の奥の手だよ!『超電磁合体』!」
1つの大きな機体となる。
「これが技術の到達点!DXモノノフ、見参!」
元は藤原さくらのような『マルチスキル』を再現するにはどうすればいいか?それを技術的に解決したのが、この機体の開発コンセプトだった。
ただし、合体機能を廃し、指揮官機+モノノフ2体とハウンド・ドック4機という部隊構成で大量生産すれば1部隊=2億円程度のコストで済む。
そういうところも想定していないと『魔法少女をゼロにする』という理想には手が届かない。
異系統魔法の2つ同時はやはり藤原さくらを圧倒する。
それは夏樹の『魔法への理解』を前提としたもので、一般化できるものではない。こういうところも合体機能をオミットしようとする理由でもあった。
(ふふ、酸欠も効いてる!)
夏樹は内心ほくそ笑む。
オゾンは空気より重い。だからドック内に充満していたら、酸欠になる。
「『アイス・ブラスト』!」
夏樹の呪文に何千という氷の礫がさくらに向かう。これでとどめのはずだった。
だが。
「『ジャパニーズ・ドリーム』!」
周囲におびただしい光の粒子が飛ぶ。
(『魔力』だ……!)
意外にも直感でわかる。魔力を可視化すればこうなると。
さくらに向かっていた氷も魔力に分解されていく。そしてそれらは横を流れるタイムズ川の水面に集まっている。
技術者として、科学者として、全力で『観測』してしまう。
気がつけば、タイムズ川が2つに割れ、DXモノノフと同サイズの機体が現れる。
(なるほど、イメージを具現化する魔法か!)
さくらのDXモノノフへの対抗手段としての機体。
「汎用人型魔法人形、『ルシフェル』。出動!」
見るからに高機動、近接戦闘タイプ。
(ホント、物理学を大胆に無視した機体ね。翼やフライトユニットもなしに浮遊している)
いや、遠距離での魔法の撃ち合いになるとシングルスキルの夏樹は、マルチスキルのさくらに勝ち目はない。
だから、レスリングのように両手をがっしり掴んでの力比べ。からの蹴り技・足技を使っての投げ技狙いになる。
(やっぱり急造品!パワーはこちらに分がある!スピードも瞬間転移で対応できる)
拮抗した格闘戦になる。ただし、両者共に有効打が出ない。どちらもここぞという攻撃は転移で避けている。
それは突然起こった。
『right arm:battery error』
(え?)
モニターに赤く表示された文字。
(なるほど、やってくれたね!藤原さくら!)
まだ合体前、『ボイドニウム・ストリーム』に対応するために転移を繰り返した。
あの時、藤原さくらの狙いはボイドニウムによるダメージではない。起こった砂嵐で足元にある海水を空気中に散布させる事だった。
海水が散布された空間にマヌケにも転移してくればリチウム電池に海水をかけたのと同じ事。モバイルバッテリーの発火事故と原理は同じである。
やがて、バッテリーは破裂し、火花と共に右腕が落ちていく。
『Emergency!』
モニターいっぱいの警告が夏樹を照らす。
他のバッテリーも同様だった。
(負ける……!)
夏樹がそう思う。
だが。
『夏樹女史、この状況、開戦時のロクライナに似ているとは思わんか?』
昨日の準決勝戦、女王エリザードの言葉だった。
ドローン300機対1人。
しかも魔法が使えないとわかっての状況で笑って女王は言ってのけた。
『死ぬ事以外はかすり傷。だからね』
沙織の言葉。
(合理性なんて、この瞬間ではクソ喰らえだ!)
「負けてたまるか!せめて、このDXモノノフごと道連れにしてやる!」
そういってさくらの乗るルシフェルにDXモノノフは抱きつく。
おびただしいエラーとアラート。
「強制脱出!」
脇の赤いレバーを引くと火薬式の脱出装置が夏樹をシートごと外へ放り出す。
次の瞬間、爆発音と衝撃波と共にDXモノノフは崩壊した。
「勝者!広井夏樹!」
女王エリザードがはっきりと告げた。




