第109話「決勝戦⑦キムベリー・ドックス2」
「『ジャパニーズ・ドリーム』!」
さくらが呪文を口にした瞬間、それは起こった。
砂のような光る物体が至るところに現れる。
まるで長年放置していた部屋に突然空気の流れが起こったように。
「光の粒子?」
「違うわ。わかるでしょ?」
「……『魔力』そのものだね」
ここにいるのは魔法少女と魔女だけ。
だから審判としている『欧州3大魔女』もゆりあをはじめとした日本の魔法少女や魔女にも理解できた。自分達が普段使っている魔力が、もし可視化されたらこうなるのだと。
さくらに迫っていた氷弾も魔力に分解され、拡散していく。
そして、その中心にいるさくらだけが、その現象を操作できた。
「汎用人型魔法人形、リフトオフ!」
光の粒子がタイムズ川に吸い込まれる。
まるでドンロン中の魔力がそこに集まったように。
そして、変化は誰の目にも明らかだった。
タイムズ川の水面が盛り上がり、次の瞬間2つに割れた。
中からDXモノノフと同じようなサイズの人型マシンがゆっくりと上昇していく。
「なるほど、さくらの初めての『オリジナル』魔法か。ボクの『ボイドニウム』のような」
ユウがつぶやく。
「そうね。物理学上、あの形状で全身を支えるのはありえない。広井夏樹のように脚が太くないと股関節に負荷がかかり過ぎる」
ユウの言葉に同意しているのか、よくわからない言葉をメルケンが重ねる。それはこの現象を理解しようとしているからに違いなかった。
最後にあたりまえのように頭部のコックピットにさくらが吸い込まれる。
「汎用人型魔法人形、『ルシフェル』。出動!」
どこからか聞こえるさくらの声。
「合体時に待ってくれたからね。こちらも配慮はすべきだろう?」
DXモノノフの中の夏樹がそう返した。
2体のマシンが格闘戦となる。
レスリングのような両腕をがっちりと組み合っての力比べから、足技を使う柔道っぽいスタイルに変化する。
誰もが2体のロボット対決に注目する中、沙織だけがユウの肩を叩く。
「藤原さくらちゃんってエヴァ好きだった?」
「多分、ボクの影響じゃないかな?ゲームでスーパーなロボットが作品を超えて結集、大戦するシュミレーションゲームを横で見てたので」
「なるほど、だからカラーリングはガンダムっぽくもあり、70年代アニメのスーパーロボット感もあるんだ」
「沙織ちゃん、さすがに今は空気読もう?」
梓がたしなめるように割り込んだ。
「あずちゃん、見てて違和感ない?」
「え?普通に戦ってるな。って思うけど?」
その答えにユウが口を出す。
「沙織先輩の言う通り、普通に戦っているのがおかしいんですよ」
「どういう事?」
梓が何の事かわからず聞いた。
ここにいる全員が戦闘に目を向けつつも、ユウの言葉を待っているようでもあった。エリザード女王など、明らかにこちらをチラリと見ている。
「多分、さくらはあのマシンで圧倒できる。でもしてない」
「わたしの違和感はそれなんだけど、椎葉ユウちゃんは違うところに違和感があるみたいだね」
沙織の言葉にユウが答える。
「さっきゆりあ大臣の通信に、さくらは『あの兵器は(魔法少女の)戦闘参加を助長する』と言っていました」
「言ってたね」
「で、あるならば。さくらの勝利は『再現性』のあるものでなければならない。と考えているんだと思います」
DXモノノフの蹴りをバックステップでかわす。身代わりのように、資材倉庫のレンガの壁が吹き飛んだ。
その崩れる轟音よりも、沙織の声が全員に届く。
「つまり、藤原さくらちゃんは広井夏樹に何手か先に王手がかかる『詰み』の状態に持ち込んでる。広井夏樹はそれに気づかず戦闘を続けるおバカさんって事でいい?」
「よくはないです。沙織先輩、たしかにさくらは20手先で王手をかけて『詰み』の状態になるかもしれない。でも先に『詰んだ』のはさくらの方です。だから、あの魔法ができた。そして、現在の戦闘は夏樹先輩にとっての想定外。沙織先輩にとっての違和感だったんですよ」
気がつけば全員がユウの言葉に耳を傾けていた。




