第107話「決勝戦⑤クィーン・エリザードⅡ橋」
『広井夏樹、藤原さくら、両名、聞こえますか?佐藤ゆりあです。公平を期すために両方に通信します』
2人のテンペストが同時に発光し通信が入った。戦場にゆりあの声が響く。
『まずはさくらちゃんへ。戦闘前の命令は現時刻をもって破棄します。夏樹ちゃんの使ってるロボットは防衛装備品として輸出可能。ここでの破壊は日本の国益を損なうおそれがあるわ』
それに答えたのは夏樹の方だった。
「ロボットじゃないし!『ヒューマンインターフェース』と『アニマルインターフェース』だし!そうしないと人間を相手にできないし!」
さらにさくらも言う。
「その命令は承服できません。この大会の意義は『魔法少女・魔女の戦争利用の拒否』であり、あの兵器は戦争参加を助長すると考えます」
戦場はさくらが下流へと誘導した結果、クィーン・エリザードⅡ橋まで移動していた。巨大な吊り橋がタイムズ川を跨ぎ、水面と空を分ける。海まで数キロ離れているはずだが、北海の潮風が香る。
ここなら歴史的建造物や市民に危害が及ぶ事もない。そもそもの川幅も500mをゆうに超える。
ゆりあの通信を軽く流した2人は戦闘を継続する。
「『ボイドニウム・ストリーム』!」
黒い未知元素による砂嵐。コピー元であるユウが見ている事も知らずに、さくらが呪文を唱えた。
「甘いよ」
『モノノフ・タイプ=アズサ』が瞬間転移で『ハウンド・ドック』の隊列を整える。その瞬間、4匹の『ハウンド・ドック』の口から火炎が放射される。青白い炎がクイーン・エリザードⅡ橋にさくらの影を映す。
「地球上に存在しないって事は、大気に適合していない。つまりは酸化に弱いって事だよ。燃焼は最も激しい酸化だからね」
タイムズ川に広がるはずだったボイドニウム粒子は消えてなくなった。
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火炎放射を遠目に見ながら、ゆりあが口を開く。
「お聞きの通りです。私としては先程の藤原さくらの主張は、一考に値すると評価しますが?」
「そうだな。仮に藤原さくら女史が長田洋子のクローンであったとしても、『思想』は全くの別物だ。為政者として、『そこ』での差別はいかんな」
女王エリザードがそう結論づけた。
「そうですね。『DNAが同じ』ってだけですから」
ゆりあもそれに同意する。
その会話には加わらず、戦闘の様子をじっと見ていたユウがつぶやいた。
「さくら、何か狙ってる。いや、違う……測ってるんだ」
その言葉にマリア=ティモシェンコが反応する。
「私には普通に戦ってるようにしか見えないけど、どういうところが?」
ひとりごとのつもりが、誰かに聞かれていた事にユウは萎縮する。まして、相手は国家元首に手が届く大物であり、中学生のユウには当然でもあった。
「あの、えっと……」
言葉を選んでいる間も戦闘は続いていく。
「あ、もうすぐ、ボクのコピー魔法がでます。ほら」
その言葉通りに黒い霧(のようにここからだと見える)が発生する。対して、夏樹側が火炎放射で無効化する。
「このやりとり、4回目です。多分、何か狙いがあるんだと思います。これは半ばカンですけど、転移させるタイミングで何かするんだろうなって」
その言葉を傍らの水田マリが補足する。
「この子、椎葉ユウはさくらちゃんと2日違いで同じ病院で生まれて、保育所から中学まで一緒。実家も150mしか離れていないから、ある意味、『藤原さくらのエキスパート』なの」
その言葉を補強するように戦闘が動いた。
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さくらはワープして『ハウンド・ドック』の爪を避けて、氷魔法を撃つ。
『ハウンド・ドック』はそれを避け、そのあいたスペースから『モノノフ・タイプ=ワカバ』の氷弾が飛んでくる。
それを後方に宙返りのように避けたさくらが呪文を唱える。
「『ボイドニウム・ストリーム』!」
「何度やっても同じだよ」
再び整列した『ハウンド・ドック』から火炎が放射される。
刹那。
「『ユニオン・ジャック』!」
火炎よりも明るい収束した光が一閃。
司令塔の役割を果たす『タイプ=アヤメ』を貫いた。
重力に従って、タイムズ川に『タイプ=アヤメ』が墜落した。
「司令機は落とした。これで他はただの攻撃メカになった」
にやりとさくらが笑った。




