第106話「決勝戦④タイムズ川上空」
ドンロン・アイ近辺でさくらと夏樹の兵器群が戦っている。戦況は互角。というより、さくらの決定的な魔法の使用ができない状況に追い込まれている。それを打開しようとさくらは戦闘エリアをやや下流、ニレミアム・ブリッジの方に移していく。
それを俯瞰して見ているのが欧州3大魔女の3人である。
「さくら女史、単体でアレとは……」
さくらの戦闘力に絶句するのはエリザード女王。
「本人は『戦闘向きじゃない』と言いながら、地下鉄をジャックしたり、夏樹ちゃんの即応性も恐ろしいものがあるわよ」
マリア=ティモシェンコがそうつぶやく。
「あのロボットは魔法を使っている。つまりは物理的に魔法は再現可能という事。そしてそれは……」
1人『物理学者』としての顔をのぞかせる、ユンゲラ=メルケン。
そこへ。
瞬間移動で割り込んで来た者がいた。
「佐藤ゆりあ女史!観戦に来たか!」
エリザードが興奮気味に迎える。
「予想していた以上に悪い展開ですね」
挨拶も抜きに戦況を見てゆりあが言った。
「梓ちゃん、マリを呼んで。それから沙織ちゃんも」
「りょーかい!『ワープ』!」
ここまでゆりあを送って来たであろう、魔法少女が消える。
「これを見てください」
そう言って、1枚の紙をエリザードに差し出す。
「これは!……」
そう言ってエリザードは絶句する。
その様子を見たマリアがエリザードから紙を引き抜き、盗み見る。
「な!」
さらにはメルケンも同じように見る。
「え、どういう事?」
1枚の紙に書かれた、簡潔な事実。
「長田洋子と藤原さくらのDNAが全く同じ!」
メルケンが言うと同時に、エリザードとマリアは全く違う方向で納得する。
「なるほど、だからゆりあ女史は『長田洋子の再来』としたのだな」
「なるほど、だから先程の戦況分析が恐ろしく的確だったのね」
ゆりあがゆっくりと頷く。
「このような理由で、日本ではあの2人、つまりは『広井夏樹』と『藤原さくら』を会わせないようにしていました。この2人の思想が『ナツキ型AMFG』を生み出し、他の魔法少女のレベルを底上げしました。この先は誰にもわかりません」
そこへ梓が3人を引き連れて戻ってきた。
「説明するなら、この子がいた方がわかりやすいかと思って」
梓のその言葉に、3大魔女は1人の少女の方を向く。ゆりあが納得して説明する。
「助かったわ梓ちゃん。
この子は椎葉ユウ。長田洋子によって作られた、『人工魔法少女』です」
それまでの3人の眼差しの変化にユウはたじろぐ。ゆりあは次の句を継ぐ。
「昨年12月までは男の子でした。つまりは長田洋子は男の子から魔法少女を『作った』のです」
3人の表情が初めて見る驚愕の表情を見せる。エリザードはあんぐりと口を開け、マリアは目を剥く。メルケンは耳の後ろを掻きむしる。
そこへ到着したばかりの水田マリがさらに補足する。
「長田洋子が日本を出たのが1995年。そこからこの欧州で魔法だけでなく、先端科学技術も学びました。とりわけクローン技術では、研究員になりすまして、某国の研究所に出入りしていた形跡がありました」
「そして日本国内、さくらちゃんの生まれた産婦人科は廃業していましたが、当時『不妊治療』も行っていたと記録を発見しました」
最後に沙織が日本国内での調査結果を言う。
「まだ状況証拠だけですが、これで2人のDNAが同じなのは、一定の仮説が立てられるかと思います」
最後にゆりあが結んだ。
それを聞いたエリザードが結論を口にする。
「つまりは」
戦闘は膠着したまま、いつの間にかドンロンシティー空港付近まで移動していた。その対岸のベンチを見下ろす。
「藤原さくら女史は」
そこは2日前、エリザードとさくらがハンバーガーを食べた場所だった。
「長田洋子のクローンということだな」
死んだはずの長田洋子は、今も世界を揺るがしていた。




