第104話「決勝戦②地下鉄」
『あは、なんで気づかなかったんだろ?』
軽い笑いと共に、不吉なさくらの声をドローンが拾う。
それをドローンのマイクで聴く夏樹とは滑走路の両端なので距離はかなり離れている。
(まさか……!)
そのまさかはすぐに起こる。
『やっぱり、『先輩』の魔法を『コピー』すれば良いんーー』
ドローンからの通信が途絶える。
(やっぱり、ドローンの制御が乗っ取られた!)
虫の羽音のようなドローンのローター音が近づいてくる。
1機ではない。全機だ。
ナツキ型AMFGは稼働している。
さくらはその『穴』を正確に突破してきた。
審判の『欧州3大魔女』3人と夏樹自身の魔石固有振動を正確にコピーしたのだ。
それだけではない。さくらはプログラムの書き換えまで行った。
つまり。
ドローン群は敵にまわった。
「さすがに、これはマズイ!」
思わず声が出た。ターミナル内でモップを見つけて借用する。
(とりあえず逃げる!)
モップにまたがり飛行する。
(ここなら!)
夏樹が逃げ込んだのは地下鉄駅。幸い、テロ対策で運休している。
(まさか逆に使うとは思っていなかったけど!)
ドンロンの地下鉄は戦時中、防空壕として機能していた。だから通常の地下鉄よりも深く作られている部分がある。夏樹の想定では『ここに逃げられたら』厄介な場所としていた。
(あった!『旧グランドセンター駅』!)
戦時中の葉巻の似合う首相が使っていた司令所跡地。
(やっぱり!変電設備も通信設備もある!)
夏樹は制御盤にテンペストを接続する。
魔法ではない。純粋な侵入。
都市インフラは想像以上に「繋がっている」。
地下鉄は特に顕著だ。
・信号制御
・電力供給
・車両管理
すべてがネットワークで統合されている。
つまり。
一箇所に入れば、全部に届く。
♦︎♦︎♦︎
ドンロン地下鉄中央指令所。
突然、全照明、モニターが暗くなる。
「停電か?」
「まさか、テロ?」
「無人回送システム、ダウン!
いや、ランサムウェアに感染した模様!」
オペレーター達がキーボードを叩くように操作する。
「ログイン不能。完全に乗っ取られてます」
「サンプトン、エンフィールド、グラスフォードの各車両基地から車両が発車!」
それを聞いた総司令がすぐさま決断を下す。
「全送電システム、ダウン!電力が無ければ車両は動かんだろう!」
「了解!」
だが
「ダメです。こちらもロックされています!」
「変電所側も同じです」
総司令が苦くつぶやいた。
「……安全のために複数電源を確保したのが仇になったか」
「市内全域の地下鉄に無人回送車が走り回ってます!」
♦︎♦︎♦︎
旧グランドセンター駅。
「これでテロに見せかけておける」
夏樹がつぶやいた。
魔法なしでも、ハッキングや科学的手段で戦闘継続可能なのが、夏樹が『天才』たる所以である。
狭いところでは、トンネルの幅・高さがギリギリしかないところがある。
目的はドローン群の殲滅。
その優秀さは、作成した自分が1番わかっている。
ならば。
「これで地獄を作った」
トンネルの奥から轟音が近づいてくる。
無人回送列車。
1編成ではない。
複数の路線から同時に発車した列車が、地下鉄網を高速で走り回る。
ドローンは追ってくる。
だが。
トンネルは空よりも遥かに狭い。
急カーブ。低い天井。
突風のような列車風圧。
一機。
二機。
三機。ドローンが壁に叩きつけられる。
さらに。
正面から列車が突っ込んでくる。
鋼鉄の塊。逃げ場はない。
やがて、ドローンのローター音が地下鉄の轟音にかき消されていった。
そして。
完全に沈黙した。




