第98話「リーンベルの壁」
すいません。
先週の体調不良でストックがなくなってしましました。
不定期に更新するかもです。
1989年11月。
サウナから帰ると世界は変わっていた。
首都、リーンベルを東西に分ける『壁』は崩壊していたのだ。
気がつけば、『いい方』に世界が変わる。
魔女・ユンゲラ=メルケンはそんな人生だった。
翌年、1990年。
「私は日本の魔女です。なので『欧州3大魔女』の称号は必要ありません」
その女、長田洋子はキッパリと言った。
準優勝だったメルケンはこうして『欧州3大魔女』となった。
その年の年末には連邦議員になる。
翌年には初当選議員ながら、閣僚に選出。
これは『女性閣僚が欲しい』という、当時のゴール首相の思惑だった。
党代表になったのも前任者に献金疑惑が発覚したためで、代表選挙には敗れている。
こうしてメルケンは首相にまで上りつめた。
♦︎♦︎♦︎
現在。連合王国、首都・ドンロン。
目の前に『長田洋子の再来』と呼ばれる少女が立っている。
藤原さくら。
魔法少女ワールドカップ準決勝戦の相手だった。
水晶宮跡。第1回万博が行われた会場後の公園。ここになったのは偶然か必然か、ある程度の広さを求めた結果だった。
ここにはかつて、ガラスで作られた未来があって、火災によってあっけなく失われた。
「『Leanbell-Wand』!」
目の前に鉄の壁が現れる。
さくらが笑って言う。
「滑稽ね。崩される前提の壁だなんて。『イージスの盾』!」
盾が生成されて壁を断ち切ろうとする。しかし、さくらのイメージとは違う変化が起こる。砕け落ちるかと思われた壁はイージスの盾を受けて曲がった。その部分がさくらに襲いかかる。
「!危な!……まさかここまで薄いなんて!」
「滑稽ね。崩される前提なのに気づいておきながら、崩そうとするなんて」
表情を変えずにメルケンは続ける。
「あなたには『リーンベルの壁』なんて教科書の中の歴史でしょうけど、東リーンベル市民にとってあれは『絶望』の象徴だったわ……」
同級生が突然いなくなる。
遠くでも聞こえる銃声。
そういう事かと理解してしまう自分。
だから『魔法』にした。
♦︎♦︎♦︎
1990年、魔法少女ワールドカップ決勝。ロンデニウム城跡。
「『Leanbell-Wand』!」
あの時も同じ魔法だった。対戦相手は同じく日本、長田洋子。
その壁を前に洋子は笑った。
「滑稽ね。崩される前提の壁だなんて。でも変ね。いや、『崩される』事を前提に作っているのね」
即座にに見抜く。
そして。
「『紫電』!」
「キャァ!」
決着は一瞬でついた。鉄は電流を流す。それがメルケンを貫く。
♦︎♦︎♦︎
現在。
(認めないわ。藤原さくらが『長田洋子の再来』だなんて。あの人は一瞬で見抜いた)
「やっぱり、試してみるのは悪手だったね」
納得するようにさくらが言う。
「『100万ボルト』!」
魔法名は違えど、あの時と同じ電流だった。
だから、対策も当然してある。具体的には一部分が酸化鉄となっていて電流がそれより先、メルケンの元まで届かない。
「それ36年前にやられたわ。こちらからも行くわ。『Spielzeug roboter aus Eisen 』!」
レトロなおもちゃのロボットが現れる。
特徴はとにかく大きい。20mはありそうなものだった。箱を組み合わせたようなデザインで、しかし鉄でできているのだろう重厚感がある。それは水色のチープな塗装では隠せていなかった。
腕がぐるぐると回ってこちらに近づく。
「……なるほど鉄を使うってこういう事もできるんだ。ゼンマイ仕掛けなら鉄だけでできる」
さくらは案外冷静に言った。
そしてこう付け加えた。
「壁は崩すためじゃなく、超えるもんだよね」




