第86話「ヴィランの凱旋」
「話はまとまった事だし。ゆりあ女史、バーミンガム宮殿でディナーでもどうかね?」
女王・エリザードの誘いを佐藤ゆりあは断った。
「ご招待、とても光栄ですが、『転移』で来たので現状、『密航』状態です。この海域は排他的経済水域で領海ではないのでグレーゾーンではありますが。できればこのまま来た時と同じく『転移』で戻らせていただきます。さくらちゃん、行くわよ。プラント大統領、あなたも」
急に声をかけられて、ダージリンとスコーンを食べていたさくらは盛大にむせた。
「けほっ……り、了解です」
「私も?」
「ニューアークまで送るわ。『彼ら』に引導をわたさないといけないし」
こうして、さくら、ゆりあ、プラントとSPは転移で戻る事になる。
「さくらちゃん。大阪支部にお願い。そこからは梓ちゃんに送ってもらうわ」
「『ワープ』!」
♦︎♦︎♦︎
自由の国、ニューアーク市。ロームフェラビル。
フランク=ロームフェラは困惑していた。
(我々はどこで間違えた?
いや、100回同じ事があっても100回同じ答えを出すだろう)
『空売り』を選択した以上、どこかで『買い戻し』を行わなくてはいけない。しかし、それは自ら『自爆ボタン』を押す行為に等しい。
ロスカット判定:非推奨(市場流動性不足)
ロスカット予測:損失係数-312.2%
ロスカット代替案:耐久
基幹システム『Winx Club』が信じられない言葉を返す。それを役員は呆然と見ていた。
そんな時、会議室の扉がノックされる。
返事を待つ事なく、入って来たのは少女。紺のスーツを着てはいるが、自分の孫よりも幼く見える。それと多分アジア系移民か、アジア人だろう。
「はじめまして、フランク=ロームフェラ。日本の文部科学大臣、佐藤ゆりあよ」
一応名乗りをあげました。みたいなフレンドリーさで会議室の奥へと入っていく。
「なんだね、君は。ここはジュニアスクールの見学コースには入っていないぞ」
語気強く役員は追い返そうとする。
しかし。
「待て、このタイミングでここに現れ、そこにプラントを連れていると言う事は、彼女こそ『ヴィラン』だ」
フランク=ロームフェラの中で長年の感と理性が衝突する。即座に『ヴィラン』だと思い、理性がそれを否定する。
「フランク=ロームフェラ。まさか『ブラフ』を疑っているんじゃないでしょうね?
いいわ。これを見て」
そう言ってスマホを操作して何かを表示して、フランクに見せる。
「そんな、『パイナップル・コンピュータ』の株を30%だと!」
「次はこれ」
「『ラッキード・ダグラス』に『ネブラスカ・パシフィック鉄道』まで!」
「本当は『BSNFレールウェイ』がよかったけど、あっちはバフェットが100%持ってるからね」
『30%』の意味がわからない者はここにはいない。『拒否権』を発動できる数字である。
「今、見せたもの以外もビッグテックも軍事関連も輸送もエネルギーも『全て』よ」
「どこにそんな資金が……まさか!」
「やっと気づいたの?実は今回のトリガー、『人民の国』の1兆ドルの国債売りはブラフ。我が国の保有分から売却したの。まあ、暴落したところを買い戻しているから、昨日より20%程度保有分が減ってる程度だけど」
フランクはその言葉に敗北を悟る。60年以上生きて、初めてと言っていい『敗北』である。
「それと、日本国政府並びに『森林の国』の代行として伝えるわ。両国の年金資産は引き上げさせてもらう。これは正式な書類」
書類に目を通す。確実に本物で日本は『国内投資に軸足を移す』、森林の国は『リスクヘッジに問題を感じた』事が理由として挙げられている。
この2国の年金資産は今や全運用資金の30%近い。しかもこの2国がトリガーとなれば他の国にも波及しかねない。
「なぜだ?今まで全てうまくいっていたはずだ。我々はどこで間違えた?」
「フランク=ロームフェラ。それは国家を超えた事だ。『ロームフェラ』は歴史から何も学んでいない。『自由の国』の大統領令で『ホワイト・ロック』の分割を指示する」
プラント大統領がはっきりと言う。
当然ではある。ここで決別しておかないと、『ホワイト・ロック』は『沈む船』なのだ。
「お聞きの通りよ、フランク=ロームフェラ。でも、あなた達はまだ『負けてない』。
しかし、ーー選択肢はどこにもないわ」
フランク=ロームフェラは、その場に立ったまま動けなかった。
『歴史は繰り返す』その言葉を噛み締めながら、『ヴィラン』をただ見つめていた。




