第85話「敗北のカテゴリー」
「佐藤ゆりあ女史、話はわかった。2人だけで別室でも用意するかね?」
この場は『連合王国』のものだ。だから女王・エリザードがまず口を開いた。
「この場で構いません。これだけ証人がいれば言った、言わないの水掛け論にならずに済みますし」
ゆりあが答える。その目線はプラント大統領から外れない。
「わかった。それならダージリンを用意させよう。ゆりあ女史もだが、先程まで海上にいたさくら女史も冷えただろう」
意外にもスマホを取り出して、どこかに電話をかけている。「私だ。ダージリンを2つ」と要件だけ告げて切った。
「ご厚意に感謝します。それでは、本題に入りましょうか?プラント大統領」
プラント大統領はここでも強気の姿勢は崩さない。彼は大統領である以前に「ビジネスマン」である。外交を商談に、防衛をコストに変化させて、世界を相手に「自国優先主義」を貫き通した。それと同時にメディア、SNSを駆使できる有能さを持ち合わせている。
「大統領である私の相手が、日本の代表とはいえ『一大臣』である。というのが気に入らないが、まあ、いい。話を聞こうか?」
「ありがとう。私が言いたいのは1つだけ。あなた、ウチの小浜首相に『2回戦、ウチが勝ったら、51番目の州にする』と言ったそうね?ご覧の通り、我が国代表は勝利したわ。その上で言うわ。『やってご覧なさい?』」
プラント大統領は馬鹿ではない。
彼の見守る中で第2艦隊は敗北し、日本を軍事的に追い込むのは不可能だと証明された。
同時に起こった経済戦争はほぼ敗北が確定している。その上で経済的に追い込むのは不可能だろう。
残ったカードは1枚しかない。けれどそれをこの場で切るのは自殺行為に等しい。
なぜならそれは、マスコミやSNSを使った『世論』に訴えること。『魔法』の存在を表明に出そうとした時、どうなるかはケネディー兄弟が物語っている。
何も言えない彼に、ゆりあは追い詰めたりしない。
「ここからは『敗北のカテゴリー』の話をしましょう。第2艦隊の件はとても公表できない。そうでしょ?」
「そうだな。『世界のカウボーイ』である、と自尊心を持つ国民は多い。大義もないまま軍を動かし敗北したとわかれば、軍の立つ瀬がない」
重く、それでいて説得力のある言葉。
メディアに見せない彼の『素の言葉』だった。
「では経済は?」
「『彼ら』には恩義がある。私は『彼ら』に大統領にしてもらったのだ」
そこにゆりあはニヤリと笑う。
「『彼ら』は政府ではないわ。だから『敗北した』のは『彼ら』で『自由の国』ではない」
「それだと、我が政権は立ち行かん……」
「プラント大統領、あなたは2期目。そこにいるウーチン大統領みたいに憲法を変えなければ3期目はない。つまり最長、あと3年。あなたは『首輪なし』で大統領ができる」
「恐ろしい。さすが『永田町の魔女』ね!」
マリア=ティモシェンコが茶化して言う。
それを踏まえて、メルケンも口を出す。
「つまり、佐藤大臣の言う『敗北のカテゴリー』とは責任の所在を『あの財団』に一手に負わせるというの?」
「半分以上、正解です。厳密には、その上で『責任』をとって『分割』してもらいます。かつてのロームフェラ・オイルのように」
ゆりあの答えにエリザードが笑う。
「かっかっかっ!それは面白い。『歴史は繰り返す』だな!」
最後の美味しいところをウーチン大統領が言ってしまう。
「プラント殿、これは貴殿にとっても、利のある話ではないか?なんのしがらみもなく、大統領をやれるのであるから」
プラントはそれでも首を横に振る。
「それでも『彼ら』は裏切れん。私の債権の殆どを握られているのだ。大統領でありながら、破産しかねない……」
ゆりあはその言葉を待っていたかのように、タブレットを差し出す。
「10億ドルあるわ。これであなたの首輪は外せるでしょ?」
今度こそ、プラント大統領は敗北を認めた。
いや、佐藤ゆりあのシナリオに賭ける事にした。
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