第79話「投下、国債1兆ドル」
AM9:30、自由の国、ニューアーク市。ロームフェラビル。
「やはり、基幹AI『Winx Club』はリスク回避を選択したか……!」
会議室の空気が震えた。
Winx Club ──世界の資産運用の心臓部。
34ヶ国の中央銀行、300以上の巨大ファンドが接続し、一秒間に数千万件の取引予測を行う『市場の神経網』。
10年間、年間損失ゼロ。
人類史上もっとも信頼された投資AI。
ただし 「未知のリスク=まずは売却」という初期設計思想がある。
その性質は、今回も例外ではなかった。
「論理的だ。出血したらまず止血だ──冷徹にな」
巨大スクリーンに真っ赤な数字が並ぶ。
•ダウ先物 −6.0%
•ナスダック −10.2%
•S&P500 −9.1%
•ドル円 121.23円→ 114.39円
「……数分でこれかよ」
誰かが息を飲む。
世界は『Winx Clubの判断』を信じ、一斉に売りへ走った。
市場が、雪崩のように崩れ始める。
9:35。
オープンから、たった5分で1回目のサーキットブレーカーが発動した。
「新記録だな。うちの損失は?」
「5%ダウンといったところですね。パイナップルが10%、ゴーグルは12%まで落ちてるので、それを考慮すると優秀かと」
「さすがは世界最強AI『Winx Club』だ。頼れる妖精だぜ!」」
♦︎♦︎♦︎
同時刻(現地時間23:35)。東京都千代田区霞ヶ関、文部科学大臣室。
「たった5分でサーキットブレーカーが発動とはね」
サーキットブレーカーとは相場が急騰・暴落した際にインターバルを挟むシステムである。いわば相場全体の「ストップ高・ストップ安」である。
「インターバル後から、量子コンピュータ『スーパーセル』で『Winx Club』を先読み、『トリクシス』で利益を最大化するわ」
インターバル時間、15分。
その900秒である人は絶望し、ある者は希望を抱き、あの男は祈り、その女は確信していた。
♦︎♦︎♦︎
同時刻(現地時間13:35)、連合王国・シリー諸島沖。
試合が始まった。
まずはドローンを捕まえる。
「『ワープ』!」
大阪の梓さんに教わった魔法だ。目の届く範囲ならどこでも文字通り瞬間移動できる。
目の前に現れたドローンを掴み、バッテリーを抜く。兵器だけあって、わかりやすくモジュール化してるから簡単に終わる。
「『ワープ』!」
続いて救助船の甲板に降りる。
「悪いな嬢ちゃん、『あの国』を勝たせると『ボーナス』が出るんだ……」
申し訳なさそうに、乗組員が教えてくれる。
なんでも対戦相手、ケリー=ロームフェラは財団のお姫様らしい。大会実行委員会の目を盗んで買収が行われていたようだ。
「『昏睡』!」
親切にも教えてくれたおじさん乗組員を魔法で眠らせた。救命ボートに乗せて投下。
さて、ここからが本番。と、いっても、すぐに終わる。
「『ワープ』!」
救助船ごと瞬間移動。これで要救助エリアから出たはずだ。審判の魔女が目を丸くしている。彼女に向けて聞く。
「『まだ』勝ってません、よね?」
「え!あ、ああ。あの救命ボートが要救命エリアから出れば勝利だ。他の者は救助成功だ」
「ありがとうございます」
(これでいつでも『勝てる』。続いて空母ね)
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同時刻(現地時間23:45)。東京都千代田区霞ヶ関、文部科学大臣室。
「さくらちゃん、後方は任せて。あなたの暴れっぷりで『その後』の政治のインパクトが変わる」
ゆっくりとティーパックの紅茶をすする。
「……まずは、こっちの経済戦争に勝たなきゃ、だけどね」
サーキットブレーカー解除まで後5分。
「フェイズ2に移行。『トリクシス』スタンバイ。相手方『Winx Club』の売却銘柄を『スーパーセル』で先読み、『トリクシス』で空売りして資金を増幅させる」
『永田町の魔女』の魔法は、まだ始まったばかりだ。
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