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自己紹介の後、待機時間

遠藤視点です

 私、遠藤志帆は転生者・・・、かもしれない。

 そう思う理由は先月、卒業祝に一人酒を飲みすぎた朝、知らない中学生の記憶があったのだ。すくなくとも、私の中学時代とは全然違うな。

 最初は変な夢を見た程度で今もそんな感じだ。だが、気になることがある。

 それは、夢で見たホラーゲームと私が勤めることとなった学校にそこそこ共通点があることだ。

 いや、きっと偶然だと思う。そのホラーゲームのタイトルとうちの学校が同じ名前だったり、学校の歴史とゲームで出てきた学校の歴史が結構似てたりしても、古い校舎の裏にある桜の木にゲームで出てきた怪談と同じ怪談があったとして・・・も。

 きっと・・・偶然だ。じゃなきゃ困る。

 前世の私は退屈が嫌いで、刺激的な日々に憧れがあったらしいが、あんな刺激、私はいらない。

 そもそも、教師として働く以上、暇なんてないだろう。








 入学式初日。私はとあるトラブルに見舞われた生徒の相手をしている。


「・・・重ね重ねすいません」

「気にするな。ここがお前のクラスのSクラスだ。・・・失礼します」


 恐縮して縮こまってる姫園の代わりにSクラスの教室を開ける。まだ生徒は残ってたようだ。


「・・・!遠藤先生、どうしました?」

「薄井先生。そちらの生徒が道に迷ってたので連れてきました。制服は途中で汚れたので着替えてもらいました」


 その後も、大堂先生と同じ質問をされ、同じように返答した。ということは当然・・・。


「なるほど。・・・ところで、なぜ遠藤先生は猫を抱えてるのですか?」

「・・・話すと長いのですが」








 時間は少し遡り、彼女を中庭で見つけたときの話だ。

 中庭で見つけたとき彼女はこの猫・・・カッサイを追いかけていた。それはもう、まだ春先なのに汗だくになるほどにだ。

 そして彼女が追いかけてたカッサイは私にあっさり捕まった。ていうか、私の足にすり寄ってきた。何でか知らないが、この猫はすごい私になついたのだ。

 さっさと飼い主の彼女に返そうとしたのだが、なぜかこいつ、離れないのだ。爪を立ててまで離れようとしない。

 結局、彼女には話を訊かなければならないので、そのまま職員室へ。彼女から事情を聴き終えると、そこで話題はこの猫の処遇についてになった。

 うちの学生寮はペット禁止だ。事故とはいえ寮に連れ込むわけにはいかない。

 結局、彼女の家族が取りに来るまで誰かが預かることになった。しかし、ここでさらに問題が発生した。

 なんと彼女の両親は今日から海外出張するので家にはいないらしい。何でそのときに猫がいないと気づかなかった。・・・とにかく、彼女の両親が帰ってくるのは早くて来年の春らしい。

 つまり、今日から一年間誰かが預からなくてはならない。そして、なついてるってことで私に決まった。どうしてこうなった。


「・・・なるほど、ご苦労様です。先生も今日から本格的に働くことになるのに、大変ですね」

「いえ、学園側から特別手当てを出していただけるそうなので、きっと大丈夫でしょう。・・・それよりも姫園の方が心配です。この子を追いかけて今の時間まで無断欠席してたのですから」


 入学式初日に大きく遅刻し制服ではなくジャージを着ての登校なんて、彼女の今後の学生生活に悪い影響を与えないだろうか。


「まぁ、それは今後の彼女次第ですなぁ。生徒の人間関係は教師の管轄外ですし。・・・ああいえ、一応気にはかけますけど、ねぇ?」


 それでいいのか、と思ってしまうが教師が生徒の人間関係に口出ししにくいのは事実だ。何か問題があったら何とかする、その程度しかできないのである。

 ちなみに、姫園はもういない。私と薄井先生が話をしている間に教室に入って自己紹介をしてもらってる。さっき、拍手が聞こえてきたしもう終わったのだろう。

 彼女の教室を覗いてみると複数の女子と話していた。なんだ、これなら杞憂に終わりそうだ。


「・・・あっ、遠藤先生!ありがとうございました!」

「気にするな。それよりも、今日からこの子・・・カッサイとは当分会えなくなるから、今のうちに挨拶「ネコ!?」

「・・・あ、すいません、つい。・・・さわっていいですか?」

「・・・とりあえず、自己紹介してくれ。そしたらいいぞ」

「あ、はい!えっと、館川思季って言います!今日からここに通う一年生です!よろしくお願いしまっす!」


 館川と名乗った生徒は、いわゆる『イマドキの女子高生』という感じだ。

 かわいい系の顔立ちに薄くだが化粧していて、ブラウン系の髪は肩までかかり、毛先を緩く巻いている。

 身長は姫園と同じくらいだが、館川の方が若干スレンダーだ。おしゃれだが目立ちすぎないヘアピンやうっすらとだが上手なナチュラルメイクなど、おしゃれさんの臭いがするのに彼女の表情や立ち振舞いからはヤンチャな子供みたいな感じがする。

 今も、挨拶が終わると同時に私が抱えているカッサイに手を伸ばして撫でている。


「はじめまして。今日からこの学園に通うこととなった、鳳凰院美琴と申します。先生方のご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」


 丁寧な挨拶をしてくれたのは、鳳凰院美琴。彼女は事はすでに職員の間では有名だ。

 鳳凰院財閥の娘で、容姿端麗・成績優秀という神様から色々貰いすぎな感じの生徒だ。

 腰まで届きそうな黒髪。綺麗すぎて怖い感じのする美貌。同じ女として羨ましくなるボディライン。これであらゆる分野でも一定以上の成果をあげているのだから神は不公平だ。

 だが有名なのはそっちが理由ではない。どちらかというと要注意人物という意味で教頭から職員会議で通達された。

 彼女自身は悪いことはしてないが、彼女の祖父は鳳凰院財閥の会長だ。下手なことをしたら大変なことになるんじゃないかと職員の間で話題となっている。

 しかしその彼女も、以外と普通の女子高生なのか今は私が抱えている猫の毛皮を楽しんでいる。


「えっと、はじめまして。斉藤舞って言います。空手と柔道をやってます。・・・よろしくお願いします」


 斉藤舞。彼女も鳳凰院と同じく有名だ。

 身長はこの中で一番高く、平均的な男子ぐらいある。体型は女子にしてはがっしりしており、腕が少し長い気がする。少し長い髪をリボンでひとつにまとめてる。

 顔は少しカッコいい感じがするが、他の女子がレベル高いせいか普通な感じがしてしまう。

 彼女も職員の間で有名だ。鳳凰院と十年近くの友人で、文武両道の才女。鳳凰院美琴とは密接な繋がりがあり、お互いを親友としてずっと一緒にいた。

 ・・・実は、鳳凰院財閥の会長から斉藤と鳳凰院を同じクラスにしてほしいと要望があったらしい。よほど孫がかわいいのかなんなのか知らないが、おかげで斉藤もついでに要注意人物リストに名を連ねてるのを彼女たちは知らないだろう。

 斉藤もカッサイに手を伸ばして撫でていると、何気ない調子で呟いた。


「・・・この猫、前足だけ白いのね」

「あ!気づいた!?実はこれが『カッサイ』の名前の由来なんだけど・・・、さて、一体なんでしょうか?」

「・・・ハクシュカッサイ?」

「はや!そんなあっさりわかるなんて・・・」


 拍手喝采?・・・ああ前足・・・手が白いから『白手』。だから『白手カッサイ』ということか。・・・ダジャレか!。斉藤も答えを聞いて「やっぱり・・・」と言ってるし。


「・・・それじゃ、皆さん。もう寮に入っても大丈夫だそうなので、各自寮に向かってください」


 おっと、もうそんな時間か。

 私は一言別れの挨拶してから教室を出ていく。このあと、職員会議があり明日以降についての話し合いがあるのだ。


「・・・こんなのが初日で大丈夫かなぁ」


 ふと弱音を吐いてしまうが勘弁してほしい。新米教師に今日は忙しすぎる。

 誰に向けたわけでもない言い訳を考えながら、私はカッサイを抱え直した。




・遠藤 志帆

 転生者。転生した世界を自分の知っているホラーゲームだと思ってる。

 前世は退屈な日常を嫌う中学生で、ホラーに嵌まっていた。今世は忙しい学校の先生。

 前世記憶を思い出したのは、就職が決まって大学を卒業してから。

 ゲームとか関係なく、退屈な時間が来ない教師生活を送ると思ってる。


ホラーゲーム

《おうじょうがくえんの夜》

・学園を舞台にしたノベルゲーム。起こる怪奇現象を階段や噂などを元に解決する。バッドエンドは大体悲惨。

 具体的な登場人物は出さず、あくまでもホラーの描写に力をいれており、一部熱烈なファンがいた。

 恋愛要素は皆無。そもそも名前のある人がほとんどでない。


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