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第六十五話 報酬は突然に

師匠が手綱(たずな)を持つ馬へ(またが)り、ゆっくりと進む。


一路(いちろ)エルヴィント帝国の帝都へ向けて。


相変わらず師匠はボクの太股(ふともも)を触ってくるが、馬上なので注意も出来ずにいた。


『残念美人』はどこまでいっても治ならそうだ。


エリーとエルミアは本当に仲が良く、見ているだけで微笑ましい。


ダンジョンでは頼りがいがあったグローリエルだが、1歩ダンジョンを出ると『残念美人』2号へ早変わりしていた。


当の本人は、最後尾で馬に揺られて眠っているので無視をしている。


あんなに魔法もバンバン撃てる凄腕なのにね。


ヒマなので、ファルフと遊ぶ。


「ファルフ」と呼ぶとお気に入りの場所、馬の頭の上からボクの掌へ。


掌の上で翼を羽ばたかせる姿は、本当にカワイイ。


そこで、不意にある事を思い出したので師匠に聞いてみた。


「ねぇ、師匠。ティル様とかフェイ様が倒した魔物も預かったままなんですけど、どうしましょう?」


そう聞くと「いいんじゃないか?王女様は、どうせお金なんて腐るほど持ってるんだ。私達の物にしてしまおう」と意地悪そうに答えた。


腐るほどお金があるとか、なんというセレブなんでしょう・・・・


さすが王女様ですね。


「ところで師匠、そろそろボクの太股から手をどけ・・・」そこへ食い気味に「お!カオル!アレを見てごらん!」と言い、訳のわからない方角を指差してはぐらかした。


はぁ・・・・


まぁいいか・・・・


うな垂れていると、ファルフが心配そうにボクの肩から顔を覗きこんでいた。


うんうん、ファルフには癒されるね・・・・


ありがとうファルフ。


人差し指で頭を撫でると嬉しそうに羽をバタつかせた。


小さなファルフに癒されながら帝都へと向かう。


帝都に着いたのは夜半(やはん)()ぎだった。


既に城門は閉ざされていたが、門番の近衛騎士がいたので借りていた馬を返し迎賓館へと向かう。


グローリエルも帝都にある住処(すみか)へと帰って行った。


明日のお昼過ぎに、お城で待ち合わせをしておいたから大丈夫だろう・・・・


なんだか眠そうにフラフラしていたけど。


というかずっと寝ていたくせに、まだ眠いのですか・・・・


ある意味すごいな。


午前0時を過ぎていたが、迎賓館ではメイドさん達が温かく迎えてくれた。


着替えを手伝ってくれた熟年猫耳メイドさんの案内で、いつもの部屋へ通される。


4人とも疲れていたようで、簡単にお風呂を済ませベットで泥のように眠った。


翌朝9時過ぎにメイドさんに起こされる。


眠い目を擦りつつ起き上がると、メイドさんの手には(とう)(かご)が・・・


凄く嫌な予感がする。


猫耳メイドおばさんの目が妖しく光る。


またこのパターンか!


寝起きでノロノロなボクは、逃げる事も出来ずに洗面所へ連れて行かれ顔を洗い目を覚まされる。


肌着を渡され、観念して着替えようとするとある事に気付く。


あれ?これっていつもの肌着じゃない・・・・?


なんというか白い着流(きなが)しの和服のような・・・・


考えていると、早く着替えるように催促(さいそく)された。


慌てて寝間着にしていた上着を脱いで、白い着流しの肌着に着替える。


洗面所を出ると、妖しく目を光らせた熟年の猫耳メイドさん達がテキパキと着替えさせてくれた。


足袋(たび)を履き、長襦袢(ながじゅばん)を着せると身体の凹凸(おうとつ)が出ないように固定する。


その上に桜色(さくらいろ)の生地に白や金の桜の花びらを描いた着物を着せ、伊達(だて)()めを締める。


コルセットに比べれば、全然キツくない。


そこへ茜色(あかねいろ)の帯を締めて着付(きつ)けてくれた。


うん、かなり可愛い着物だ。


ボクが着てさえいなければ・・・・


薄い鴇色(ときいろ)鼻緒(はなお)が特徴的な草履(ぞうり)を履くと、猫耳メイドおばさんは髪型に意識を集中していた。


ボクの長い黒髪に(くし)を通し、何やら他のメイドさんと相談している。


そのままロングじゃいけないのですかね?


コクコクとうなづき合うメイドさん。


どうやら決まったようだ。


結局長すぎてアップに出来なかった様で、首と背中と腰の後ろ3箇所をリボンで結んだだけだ。


すみませんね・・・・本当は切りたいんですけど、師匠命令で腰から下までしか切れないんです。


その後、薄く化粧を施され「できました!」と猫耳メイドおばさんが尻尾をブンブン振りながら答えた。


はぁ・・・朝から疲れた。


いつの間にか後ろには3人のギャラリーが。


ボクが気付かないうちに、師匠とエリーとエルミアは起きていたようで、ボクの姿を見て「可憐だ・・・」「さすが私のカオルね!」「カオル様・・・ポッ」と、三者三様の褒め方をしていた。


エルミア・・・いくらなんでも「ポッ」とか口に出してから顔を赤くしなくてもいいんじゃ・・・


まぁ平常通りですね。


師匠の手を取り、椅子から立ち上がる。


メイドさん達にお礼を言って、食堂で食事を済ませ登城(とじょう)する。


城門の前にはグローリエルが待っていた。


「おはよう、グローリエル」


声をかけると「おう、おはようさん!」と笑顔で返してくれた。


5人で城門を(くぐ)ると、近衛騎士団副長のレオンハルトが待っていた。


なんだか疲れた顔をしている。


アレかな・・・前に侍女(じじょ)さんを押し付けたからそれが原因かな?


なんとなく後ろめたい気持ちもあるので、優しく声をかけた。


「おはようございます。レオンハルトさん、なんだか疲れているようですが大丈夫ですか?」


そう言うと「黒巫女様・・・・くろみこ・・・さまぁ!」と、突然泣き叫んだ。


ちょ!


なんて姿を(さら)しているんですか!?


慌てて駆け寄ると、ぐずぐず泣いていたレオンハルトが「黒巫女様に言われた通り、侍女のベルと付き合っているんですけど俺にはもうムリです・・・」と、言い出した。


もうムリって・・・・というか、なんかキャラが違くなっていませんか?


俺様キャラが、どこかへ行ってしまってますよ?


可愛そうなので、しゃがみこんだレオンハルトの頭を撫でてあげると大粒の涙を流した。


「それで、どういう事か説明していただけますか?」


ボクがそう聞くとグスグスと鼻を(すす)りながら「俺とベルと、皇女のフロリア様と黒巫女様の4人でダブルデートをしたいとか、無理難題を言うんです・・・」と情けない顔をしながら話す。


えーっと・・・・


色々、ツッコミどころ万歳(まんさい)なんですが・・・


どうするべき?


師匠を見上げて「どうしましょう?」と聞くと「カオルが()いた種だ。責任取るしかないんじゃないか?」と不貞腐れた顔をして答える。


はぁ・・・仕方ないか・・・・


レオンハルトに向き直り「わかりました。それでは私からリアへ話しておきますので、安心して待っていてください」と告げる。


レオンハルトはグズグズ泣きながら「わかりまふぃた」と言い、トボトボとどこかへ歩いて行った。


大変だなぁ・・・・・ボクのせいなんだけど。


うなだれつつアーシェラの私室へ向かおうとすると、騎士に呼びとめられた。


「お待ちください。皇帝陛下が謁見(えっけん)の間でお待ちです」


そう言い、師匠を先導して謁見の間へ案内される。


エルミアがボク達の身だしなみを整えると、それを確認した師匠が「準備できた。よろしく頼む」と騎士に伝えラッパを吹き鳴らす。


またこれをやるのですか・・・・


めんどくさいんですけど・・・


ラッパの音色を聞きながら、疲れた顔から笑顔を作り出す。


グローリエルは眠そうに欠伸(あくび)をしていた。


さすが剣騎・・・・じゃないですね。


『残念美人』。


はぁ・・・図太(ずぶと)い神経が羨ましい。


ラッパの音が止むと謁見の間こと、大広間の扉が開く。


赤い絨毯(じゅうたん)を師匠に続いて進むと、一番奥の玉座にはアーシェラの姿があり貴族の姿は無く多くの騎士達が壁沿いに(たたず)んでいた。


この前の時とはちょっと違う感じ?


まぁ、人が少ないのはボクにとって嬉しいんだけど。


大股(おおまた)で歩けないボクに合わせて、4人はゆっくりと歩いてくれる。


ドレスの時もそうだけど、なんでこう・・・歩きにくいのか。


時間をかけてゆっくりとアーシェラに近づき、玉座の手前で師匠が立ち止まる。


師匠達が片膝(かたひざ)ついて(かが)む中、ボクは和服なのでどうしようか悩んでいると「ははは!よいよい、そのまま立っておれ!」と笑いながらアーシェラが話す。


というか、そもそもこの和服はアーシェラが着させたんじゃないか!


この策士め!


呪詛を込めた目で見つめているとアーシェラが話し出す。


「こたびの調査、ご苦労であった。詳細は後ほど我が剣騎が報告せよ!」


そう言うと「はっ!」と、声高々にグローリエルが答える。


さっきまで欠伸していたくせに・・・・・


「では、褒美を渡す」


アーシェラがそう言うと、騎士達が台座を運んできた。


その台座には大きな帆がかけられ、中を覗き見ることは出来ない。


ていうか、アレでしょ?


オーブンでしょ?


早く下さいよ。


催促(さいそく)するような目をアーシェラに向けると、ニヤリと笑い「これじゃ!」と言ってビシッと格好(かっこ)つけた。


それがやりたかっただけかい!


アーシェラに指示された騎士が帆を外すと、豪華な4口のコンロが付いたオーブンが現れる。


ボクは誘われるようにコンロの前へ。


なんという・・・使いやすそうなオーブンなんでしょうか!


石造りの土台に、天板は御影石(みかげいし)が使われている。


なんという便利で豪華な・・・


う、腕が・・・ウズウズする・・・・


これは・・・早く使ってみたい!


ボクが感激していると「うむうむ!喜んでおるようじゃの!だが、それだけでは無いぞ!」アーシェラがそう言うと、ボクを傍に来るように呼び寄せる。


ボクはいぶかしげにそれに従い、アーシェラの傍へ行くと「わらわ、第18代エルヴィント帝国皇帝アーシュラ・ル・ネージュの名において命ずる。ヴァルカンの弟子カオルに、この花雪(はなゆき)勲章(くんしょう)を贈り名誉(めいよ)爵位(しゃくい)として男爵(だんしゃく)(くらい)を与える」と言い、ボクの両肩に手を当てた。


えーっと・・・・ちょっと待ってね?


花雪勲章ってなに?


男爵って何のこと?


いやいやまてまて、男爵はわかるぞ。


貴族の爵位の種類だ。


男爵だから第5位ってことか。


でも名誉爵位ってなんだ?


いやいや、そもそもボクこの国の人間じゃないんだが!


アーシェラに小声で聞いてみる。


「アーシェラ様。とても嬉しいんですが、お(うかが)いしなければいけないことが沢山(たくさん)・・・」


ボクがそう言うと「フフフ・・・」と妖しく笑い「大丈夫じゃ!カオルよ!聞きたい事はわかっておる。まず雪花勲章じゃが、これはカオルが雪の花『エーデルワイス』のように白い肌をしておる事と、小さな花のように可憐だという意味で特別に作ったものじゃ。次に名誉爵位じゃが、当代限りの爵位じゃ。カオルはこの国の者ではないゆえ、子に継がせることは出来ぬ」と説明してくれた。


なるほど、アーシェラなりに気を使ってくれたのですね。


アーシェラの言葉を聞き安心した。


そこへ師匠が「カオル、任命(にんめい)された返答(へんとう)をしなければいけないぞ」と指摘してくれた。


ボクはアーシェラへ向き直り「まずは、偉大なる名誉に感謝を。我が力、我が才を皇帝アーシュラ・ル・ネージュ様、帝国国民の為に(ふる)います」と返答した。


アーシェラはニコリと笑い「うむ!よろしく頼むぞ!」と言った。


というか、ボクがこんな名誉を貰っていいんだろうか?


師匠はカムーン国の人間だからいいとして、エリーとエルミアも一緒なんだけど・・・・


エリーとエルミアに目を向けると、嬉しそうに微笑んだ。


なんだかよくわからないけど、良いのか。


その後は大広間にいる騎士達が見事な敬礼をしてくれて、アーシェラの私室で昼食をいただくことに。


それはもう美味しい料理を振舞(ふるま)ってくれた。


1週間近く、ダンジョンや宿屋で簡単な食事だったのでとても嬉しかった。


食後に、さきほど聞けなかった事を色々と聞いてみる。


「アーシェラ様、色々とありがとうございます。それでですね、聞きたい事があるのですが・・・」


そう言うとアーシェラは「うむ!なんでも聞くがよいぞ!」と言ってくれた。


ここぞとばかりに聞いてみる。


「ではまず、なぜボクに勲章と爵位を授けてくださったのでしょうか?」


ボクの質問にアーシェラは笑いながら「それはのう。カオルはオナイユの民、ひいては帝国国民を救ってくれたからの。その功績に、オーブン1つというわけにはいかんのじゃ。わが国にも外聞(がいぶん)というものがあるからの。他国に舐められてはいかぬ!」と大きな胸を張りながら答える。


なるほどね・・・・エルヴィント帝国のメンツってヤツですか・・・


貴族ってめんどくさいですね。


ボクはうなづき「なるほど。そのおかげでボクは名誉爵位を得ました。それには何か制限や、責務はございますか?」と聞く。


「制限と責務はそうじゃのぅ・・・・特に無いかの。貴族らしく振舞えばよい!たまに、わらわの願いを聞くのじゃ!」と笑いながら話す。


なんというアバウトな人なんでしょう・・・・


要するに、ノブレスオブリージュって事か。


権力・社会的地位には責任が(ともな)う。


その力を帝国、ひいては国民の為に尽くす事。


それよりも気になるのはアーシェラのお願いが怖い事だよ・・・


結局、今回の魔族調査だって騙されたんだし・・・


こんな空気じゃ、問い詰められないじゃないですか。


はぁ・・・・


あ、でも・・・・この勲章のメダル、カワイイよね。


小さな雪の花『エーデルワイス』か・・・たしかスイスの国花だったはず。


この小さな花がボクみたいか・・・・


実際そうなのかもね。


身長伸びないし・・・・


はぁ・・・ミルクを沢山飲もう・・・・


ボクがそんなことを考えていると「カオル、何か名前を考えなければいけないね」と師匠が話してくる。


「名前ですか?」


ボクがそう聞くとアーシェラが「うむ!貴族は名乗ることができるのじゃ。わらわのアーシュラ・ル・ネージュのような偉大な名前をのう!」と自身満々に話す。


ふむ・・・というかボク『香月カオル』って名前があるんですが・・・この世界に来てからは名乗ったことないけど。


ボクが「では、香月(こうづき)カオルと呼んで下さい」と言うと「なんと!?カオルは東国『ヤマヌイ』出身だったのじゃな!?」とアーシェラが驚いた。


それを聞いた師匠が「そ、そうか・・・(異世界人だと思っていたが、東国『ヤマヌイ』の出身だったのか?いや、しかし私が知るヤマヌイの料理とカオルが作る料理はかなり違うぞ)」と驚いた表情を見せた。


東国『ヤマヌイ』って何のことだろう?


師匠が何か考えているようなので、アーシェラに聞いてみる。


「アーシェラ様、ヤマヌイってなんですか?」


ボクがそう聞くと「ぬ?カオルはヤマヌイの国の出身ではないのかえ?」と、不審そうな顔をした。


むむ!これはやばいですね。


なんとかごまかさなければ・・・


ん~っと・・・「ボクは両親が亡くなってから、師匠と出会うまでずっと1人で生きてきました。なので、出身地は知らないのです」と話した。


両親の事は思い出すと悲しいけど、今は師匠がいてくれるから大丈夫。


それを聞いたアーシェラは「そ、そうか・・・・すまぬな・・・・言いにくいことを・・・・」と謝罪をしてくれた。


う~ん・・・本当はこんなこと言いたくないんだけどね。


他に思いつかないからしょうがないか。


「あの・・・それでヤマヌイってどんなところなんですが?」


改めて質問すると「うむ。ヤマヌイは和の国と呼ばれておってな。我がエルヴィント帝国もそれなりに国交があるのじゃよ・・・ふむ。カオルが今着ているのがヤマヌイの服じゃぞ」と、ボクの和服を指差して言った。


おー。


なるほど、日本的な感じなのですね。


どおりで反物(たんもの)が売っていたのに、帝都で和服を着た人を見ないわけだ。


それにしても、いつのまにか平然と女装してるなぁ・・・ボク・・・・


このまま師匠の策略に流されてしまうのかなぁ・・・・


まぁいいか・・・・師匠が喜んでくれるなら。


隣で考え事をしている師匠の手を握ると、ボクを見て微笑んでくれた。


うんうん、今日も美人さんだ。


こんなキレイな師匠と、これからもずっと一緒にいて欲しいと改めて思った。


ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。

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