間話 近衛騎士団副長レオンハルト
2016.9.11に、加筆・修正いたしました。
「だぁ! くっそ!」
訓練用の案山子を突剣で突き破りウサを晴らす。
そうでもしないとやってらねぇ。なんで俺様が"こんな命令"を受けなきゃいけないのかわからない。
俺様の名はレオンハルト。
人間の24歳。
【エルヴィント帝国】の帝都で皇帝陛下をお護りする直属の騎士。近衛騎士団の副長をしているエリートの中のエリート。
先祖代々騎士爵を賜り親父が隠居して俺様が爵位を継いだ。
所詮領地を持たない法衣貴族の騎士爵だが――他の奴等と俺様は違う。
親父がそうであったように俺様の家系は近衛騎士を輩出している。
所謂、役職・職権・地位を持つ選ばれた騎士って訳だ。
そんな超絶カッコイイ俺様だが悩みもある。
俺様が好きになる女は"必ず俺様を好きにならない"。
どうでもいい女は星の数ほど寄って来やがるのに、俺様が求める女は何故か俺様に惚れない!! まぁ....惚れる様な相手にまだ巡り逢えた訳じゃないけどな。
既に隠居した親父は大恋愛をしてお袋をモノにした。
お互いに一目惚れでお袋は市井の出自。当時は商家の長女でネージュ公爵が開いた晩餐会に先代の皇帝陛下の護衛役として親父が任務に赴いた。
そこで出会い身分の差を越えて2人は結婚。俺様が産まれた。
親父は優秀な騎士で将来を有望視されていたから反対は多かったらしい。
なにせお袋の商家は商いが立ち行かなくなり潰れちまったからな。
でも親父は諦めなかった。
亡き祖父さんと祖母さんを説得しお袋を迎えに行った。
しかも正妻としてだ。
以来誰にも目もくれず、息子の俺様の前ですらベタベタイチャツクおしどり夫婦。
仲が良いのはいいけどよ....こっちは恥ずかしいんだぜ? せめて外では止めてくれ。俺様がどんだけからかわれたか知ってんのか?
話が逸れたな。
ようするに、俺様は"恋"がしてぇ。
親父は『そのうち良い出会いがある』なんて言うけどよ? 俺様が惚れて相手も惚れるそんな"恋"ってあんのか?
どこかに俺様が捜し求めるイイオンナはいないものか....
なんて考えて登城したらこの有様だ。
「レオンハルト。この度【聖騎士教会】より正式に依頼があり我が帝国と初の大規模な遠征軍を結成する事になった。
お前は部下を連れて【オナイユの街】へ赴任しろ。コレは皇帝陛下よりの勅命である」
「.....わかりました。近衛騎士団副長レオンハルト。確かに拝命いたします」
「ああ。準備が整い次第出発してくれ」
朝から団長のアムンに呼び付けられ厄介事を押し付けられた。
普通に考えてそんな大役はアンタの仕事だろう?
【エルヴィント帝国】と【聖騎士教会】が手に手を取って戦に行くんだ。エリートである近衛騎士が任命されるのは当然。
それならアンタが隊を率いるのが筋じゃねぇのか? くそう! 面倒な事は全部俺様に押し付けやがって!!
知ってんだぞ!? アンタが財務書類を誤魔化して横領してやがるのを!! なんなら今すぐ洗いざらいぶちまけてやろうか!?
大体【オナイユの街】は特地じゃねぇか。【聖騎士教会】の縄張りに俺様達が行けばどうなるかわかってんだろう!?
奴等の"おままごと"に俺様を巻き込むんじゃねぇよ。
結局俺様よりも立場が上で告発しても権力で握り潰されるとわかっているから引き受けざるを得ない。めんどくせぇ....
俺様を含めて20名の近衛騎士が帝都を出発。【オナイユの街】へ騎馬して向かう。
軍馬で凡そ半日の距離。幼い頃より親父の跡を継ぐと決められていた俺様だ。剣も乗馬も手馴れている。
『文武両道』
義兄妹のあいつらも俺を慕ってそう言ってくれる。もちろん親友もな。
何事も努力だぜ? 優雅に泳ぐ水鳥だって、水面下で懸命に足をもがいてるんだからな。
そもそもこんなバカげた提案をして来たヤツが元凶だ。
【カムーン王国】の元剣聖? 数年前に皇帝陛下と面会したヤツか。
俺様はその頃まだ成り立ての近衛騎士だったからな。親父も現役だった。
毎日必死こいて訓練に励んでいた記憶しかねぇよ。
ああ!! めんどくせぇ!! めんどくせぇ!! めんどくせぇ!!
「副長は今日も荒れてるな」
「かなりご機嫌斜めだな」
「まぁ実際面倒臭いしな」
「ああ」
「武勲になるのか?」
「どうだろうな....政治的なやり取りもあるんだろ?」
「『我が帝国と【聖騎士教会】は友好的に外交をしています』ってな訳か」
「そこに同盟国の【カムーン王国】が入る」
「それは....」
「武勲も褒美も期待できないな」
「当然"それなり"になるだろうよ」
「戦果の報告書が面倒だよな」
「だから副長が荒れてるんだろ?」
「どうりで団長が出張らない訳だ」
「だよなぁ....」
俺様が怒る原因に辿り着いた部下達。
まったくもってその通りだから何も言えねぇ....
建前上二カ国の大規模遠征だが、実質三カ国合同。報告書も山の様に積み上がるだろうな。
ああ!! 真剣でめんどくせぇ!!
「ようこそおいで下さいました。近衛騎士の方々」
半日程馬に揺られて辿り着いた【オナイユの街】。
歓迎する雰囲気をみせる一方対応に困った顔をした犬人族の老人。
聞けば【聖騎士教会】の手伝いをする人物で俺様達の世話役を任されたそうだ。
「わざわざの出迎え痛み入ります」
「馬は厩舎でお預かりを。お世話もお任せ下さい」
「助かります」
礼儀的にやりとり。俺様達は皇帝陛下の勅命を受けて馳せ参じた事になってるからだ。
実際は物凄く面倒で今すぐ帰りてぇ。部下も同じ意見。なにせ案内された宿泊施設が――
「何かご入用の際はなんなりとお申し付け下さい。明日聖騎士団長のレンバルト様と元剣聖のヴァルカン様が聖騎士団詰め所で『軍義を』と」
「....そうか。わかった」
「では私はこれで失礼いたします」
会釈し部屋を出て行った老人。
俺様達は部屋の酷さに絶句。板張りの壁と床に、ただ人数分のベットが置かれ隣接する扉の向こうは水場。
帝都住みの帝国民ですらもう少しマシな生活をしている。
【聖騎士教会】が清貧を重んじるのはわかるが、俺様達はエリートの近衛騎士。
大部屋でこの扱いはどうなんだ!? 宿屋ですらもっとマシな部屋が沢山あるだろう!? ふざけんな!!
「副長? 暴れないでくださいよ...」
「わかってる」
「ゲッ!? おいベットを換えてくれ....硬過ぎて寝れねぇ....」
「どれも似たようなモンだぞ」
「マジカ....」
「兵舎を思い出すな」
「お? 子爵家の三男坊も兵舎入りしたのか?」
「当たり前だろ? 法衣貴族の三男坊を舐めるなよ?」
「貧乏自慢をするなよ。今じゃ騎士爵位持ちじゃねぇか」
「ハハハ!! 準騎士爵は羨ましいか?」
「いや....ぶっちゃけ嫁さんも子供も居ない俺から言わせたら変わらねぇ....」
「....その通りなのが辛い所だ」
「まぁ、すぐに騎士爵位は陞爵されるだろうからなぁ」
「人手が足りないしな」
「だぁ!! いいから寝るぞ!! 余計な事を考えればそれだけイライラしちまう!!」
さっさと装備を外して各々ベットへ潜り込む。
朝に出発してもう夜だ。食事も自前で済ませたが――
「「「「「.....」」」」」」
翌朝簡単な――本当に簡単な朝食が出た。
なんだよ....食い物すら満足にでねぇのかよ!
昨夜の宿舎でわかってたけどよ!
コレを食うなら街で外食させろよ.....
食い物がどれだけ重要なのかお前等わかってるのか?
俺様達は戦地へ赴くんだぞ? 隊の士気に関わる。
仕方が無く使いを頼んで自腹を切った。
副長の俺様がやらなくて誰がやるって言うんだよ。
「おはようございます。顔合わせの準備が出来ております。ささ、どうぞこちらへ」
昨日と同じ老人に迎えられ近衛騎士団と聖騎士団の顔合わせ。
どうせ特地は人口3万人程度の街。50万人を抱える帝都と比べるまでもなく片田舎だ。
大した事ない連中だろう? そう高を括っていた俺様達。
だが現実は少し違う。
聖騎士団の詰め所脇に造られた訓練場。そこに聖騎士達は居た。
帝国兵士と同じ全身鉄鎧姿の20名弱。
兜で顔は見えないが、放つ雰囲気は一端のモノ。
見てくれは強そうだ。対魔物の戦闘をしている集団なだけはある。
だが俺様達も対人に特化した心得があるからな。
魔物よりも知性を持ちずる賢い悪党共を蹴散らすのが仕事だ。
帝城に忍び込もうとする愚か者を排除したりな。
「よく来てくれた! 私は聖騎士団長のレンバルトだ」
「俺様は近衛騎士団副長のレオンハルトだ」
握手を交わして理解する。
年齢30くらいの犬人族のレンバルト。
白地に青を基調とした服で着飾り背中に大剣を携えている。
恐らく俺様並に強い。剣騎のあいつらには遠く及ばないだろうが、単身で俺様と同格くらいか。
ならばその部下も俺様の部下と同じ力量だろう。あとは連携がどれだけ優れているか――
「初めましてだな」
レンバルトに気を取られ、俺様は声が聞こえた先へ遅れて目をやる。
割れた人垣から腰に帯刀した赤い騎士服姿のエルフが1人。
爽やかな笑みを零し纏う雰囲気が尋常じゃねぇ。
物凄く美人だ。おとぎ話に出て来るまさしく騎士。
気品がある。風格も申し分無い。ただ、恐ろしく隙がねぇ。
「「「「「っ!?」」」」」
部下が息を呑む。俺様も同じだ。
金色の髪に青い瞳。その赤い騎士服はまさか――
「元剣聖のヴァルカンだ。わざわざ悪いな。よろしく頼む」
「あ、ああ....」
レンバルトと同じ様に握手を交わし自覚する。
格が違う。剣騎のあいつらよりもずっと上の存在だ。
真剣でコレが元剣聖だと? 現役の剣聖はどんだけつえぇんだよ。
「それと――カオル? フードを脱ぐんだ。正式な挨拶の場だぞ?」
「はい。師匠」
場にそぐわない小さな背丈の子供。
ホビットか? なんて思った俺様もフードを脱いだ瞬間に固まった。
漆黒の髪が風になびき黒水晶の様な瞳が日の光を浴びて輝く。
高級なシルク並の艶やかな白い肌にほんのりピンク色の唇。
外套の隙間から覗く防具。間違い無く【カムーン王国】で輸出している白銀製だ。
皇帝陛下に見せて頂いた事がある。少し輝きが青いがそんな事はどうでもいい。
太股....丸見えの太股!! 超絶美少女の生脚だ!!
「キミは.....?」
「初めまして。ボクの名前はカオル」
「カオル....素敵な名前だ....」
微笑む少女。名をカオル。
俺様は間違い無くこの時――"恋"をした。




