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第三十話 夕食会

2016.9.11に、加筆・修正いたしました。


 1月の第3週金曜日。

 早朝から聖騎士さんが定宿の黒猫通りのミント亭へお迎えに来て師匠を連れて行った。


「カオル!! 愛してるぞー!!」

「はいはい」


 テキパキと身支度を手伝いついでに師匠命令でメイド服に袖を通したボク。

 恒例の『いってらっしゃいませ。ご主人様』の件で師匠が残念な感じに。

 宿屋の前で見送りしたから衆人観衆の視線が痛い。クスクスと笑い声も聞こえる。

 どうやらコレがボクと師匠の日常みたいです。

 相変わらず拝む方が居ますけれど、ご利益はありませんよ? 教会へ行かれた方がよろしいかと思います。


 逃げるように宿屋へ戻り食堂へ。


 羞恥に耐えられなかったのが本音です。オシオキが必要かもしれません。


「おう! 嬢ちゃんはいつ見ても"そんな"なりしてんな?」

「師匠命令なんです」

「剣聖様の趣味か....それじゃぁ仕方がねぇな....」

「はい....」


 仲良くなった料理長。師匠の残念さは黒猫通りのミント亭で周知されている。

 戦闘に関しては卓越した技量と『戦術も素晴らしい』と評判だけど、問題は人格。

 所構わずボクに抱き付きセクハラ行為を目撃された。

 だいたいレジーナ辺りが見付けて助けてくれたりくれなかったり....状況による。

 見知らぬ男性が近くに居ると"近付くなオーラ"を師匠が放ち誰も近づいて来れない。

 ソレはボクも嬉しい。なにせ被害に遭った。


 夕食後に部屋へ戻ったボクと師匠。

 我が侭が始まり『酒を持って来てくれ』と頼まれて食堂へ取りに行った。従業員さんも夕食時は忙しいから頼み辛い。

 そこで大商の護衛で逗留していた護衛さんが酔っていたらしく、ボクを見て『酒を注げ』と言い始めた。メイド服から侍女と勘違いしたんだと思う。

 丁寧に断ったけれど強引に捕まれ『止めて下さい』と言い掛けた所で師匠登場。

 一瞬で彼は伸され宿からポイ捨て。雇い主の大商さんは平謝り。今日【オナイユの街】に到着したばかりでボクを知らなかったそうです。

 『彼は私の甥で最近雇ったばかりの者なんです』と謝罪を繰り返し師匠も納得。師匠が来なければボクが伸してたけどね?

 酔いが覚めた頃に部屋を訪れ、彼は土下座で懇願し大商さんも『今後二度とこの様な事はさせませんから』と約束。

 『仕方が無いな』と師匠が許して一件落着。不思議なのは師匠がボクに『酒を持って来てくれ』って言ったくせに何故ボクの窮地に気付き現れたのか。本当に不思議です。


「それで? 今日はどうした?」

「調理場をお借りできればと....友人に夕食をご馳走する約束をしたんです」

「なるほどな。好きに使っていいぞ? ただし――そこで血抜きをするんじゃねぇぞ? 臭いが移っちまう」

「そうですよね...すみません...」


 《魔法箱(アイテムボックス)》から先日狩った大猪を出した辺りで注意を受けた。

 大きさに驚きながら血の滴る獲物を前に。浅慮でした。


 《飛翔術(ウォラーレ)》で飛んで街の外へ。

 生肉店で頼めば解体してくれるけれどお金が掛かる。なるべく貯蓄しておきたい年頃なのです。オーブン基金の為にも。

 手頃な高さの木にロープで両足を縛って逆さ吊り。

 頭部は《魔法箱(アイテムボックス)》の中。そのうち調理しよう。

 しばらくして血抜きも終わりお手製のスキニングナイフ――皮の解体に便利――を使って丁寧に皮を剥ぐ。

 さすがに皮をなめす時間も無ければ設備も無い。加工屋さんに売るかお金を払ってなめして貰おう。毛皮製の衣類が大量に作れる大きさ。大猪だもの。

 体重300キロを越えています。最初に選んだ立ち木が折れたんです。ヘンテコパワーの出番でした。

 ほんの2年前は解体作業で息を切らす子だったボクも既に師匠の領域に近づいています。

 "戦闘"ではなくて日常作業だけですけど。

 家事一切を何もしてくれない人だから.....反面、出番があって嬉しいボクです。


 部位事に食肉解体用のナイフで柵切り。

 サーロイン・ヒレ・リブロース・ロース・肩ロース・ウデ・モモ・バラ・三角バラと...牛肉じゃないって。

 生レバーは別に確保して他の内臓君はその場で焼却処理して埋めました。

 寄生虫の問題とか下処理に時間が掛かるんです。丁寧に洗い塩漬けにでもすればいいんだけど....大猪君は大き過ぎて血抜きに時間が....生臭そうな気がした。

 美味しい料理を作るからね? 大猪君。


「お? 戻ったか」

「はい。先ほどはすみませんでした」

「別に気にする事じゃねぇよ。嬢ちゃんは"わかってる"からな。たまたまだろ?」

「そう言っていただけると....ありがとうございます」


 血汚れた自分を《浄化(パージ)》で洗濯して調理場へ戻り料理を開始。

 食塩水を作り各種部位を揉み洗い。

 臭味取りの為に再度食塩水を作り直して漬け込む。

 さて、何を作ろうかな?


 手間と時間を考えイノシシのチャーシューと蒸し焼き肉。

 味噌を発見して定番の牡丹鍋も決定。

 煮込みながら同時進行できるリエットも作ろう。

 慣れた手付きでそれらを仕込みせっせと作る。

 【オナイユの街】で好まれる狩猟――シビエ――料理もいくつか料理長から教えて貰えた。

 お礼に生肉をお裾分け。100キロ近くあげたから物凄く喜ばれた。


「嬢ちゃんは流石だな。部位の切り別けもうめぇ」

「コレくらい出来ないと師匠のお世話はできませんから」

「ちげぇねぇ!」


 『ガハハ』と笑いボクも笑い返す。

 宿屋の店主さんとレジーナも様子を見に来てた。

 リエット用の肉と脂を合わせて煮込み、柔らかくしたものをすり潰してペースト状にする調理法を知らないみたい。

 表面をラードで固めて熟成させるフランスの保存食なんだけどね。

 ボクも牛肉と豚肉以外で作るのは初めて。

 保冷用の石櫃をお借りした。寝かせた方が美味しい。


 アユに似た川魚を料理長が提供してくれ後でフライにしよう。

 サラダも簡単だし後で調理かな?

 ふむ。デザート用に先日摘んだ木苺でタルトを作ろう。

 では早速タルト地を....


 蒸し焼き――ロースト――の加減を見つつテキパキと。

 調理場は広く料理長の他に調理も出来る従業員が入れ替わり立ち代わり作業に従事している。

 極力邪魔にならないように気を付けながらボクも料理を続ける。

 お昼近くなった頃から続々と食堂へ人が傾れ込み始め作り終えた料理を《魔法箱(アイテムボックス)》へ。

 お礼を忘れずその場を去った。『あとで少し寄越せよ!!』と料理長のお言葉。もちろん了承。お邪魔しちゃったからね。


「これは黒巫女様」

「....こんにちは」


 裏口から宿屋を出て大通りを歩くと見知らぬ壮年の男性に声を掛けられた。

 身形も上等な品物でお付きを2人連れている。

 他愛もない世間話から段々と雲行きが怪しくなり....


「実は今年14になる息子が居りましてね? 今度是非機会を作っていただけたらと――」

「歓談中悪いが街内は"特別警戒中"でな。身分証を出してくれ。ああ、黒巫女様は必要ございません。どうぞお行き下さい」


 いつかの屋台に並んでいた憲兵さんと聖騎士さん合計5名。

 息子を押し付けようと目論む男性とお付き2人を連れ去り姿を消す。


 ネチッコイ視線の正体はアナタでしたか。今確信しました。

 そしてボクの護衛は随分と多いですね? まだ視線を感じます。お年寄りとか街の住人の方々よりも鋭い気配。訓練された人ならではのモノを。

 嬉しいけど凄い事になってませんか? あの男性達は大丈夫でしょうか?

 『協定破りは万死に値する!!』って聞こえたんだけど.....なんの協定が結ばれているの?

 もしかしてボクは重要人物に!?


 気にしたら負けなので気にせずお買い物。

 串焼きの出店でおじさんはおまけしてくれた。

 果物を買いに青果店へお邪魔したらオレンジを3つくれた。買ってない...


「形が悪くてねぇ♪ 貰っとくれ♪」

「....ありがとうございます」


 満面の笑みに抗えず頂きました。

 これは"黒髪の巫女"効果なのでしょうか? 収拾の付かない事になっています。

 お礼に店先を《浄化(パージ)》で掃除。『神の御業だ!!』なんてお爺さんが叫んでいました。

 いいえ、ただの魔法です。便利な魔法なんです。師匠の家の蔵書に埋もれていたんです。


「こんにちは!」

「いらっしゃいませ!」


 鍛冶ギルドの近くに在るレギン親方の工房。

 先日沢山の屑鉄を手に入れたから今のうちに鋳潰しておこうと考えた。

 大遠征も控えている。やれる事をやっておかないとね。


「レギン親方はいらっしゃいますか?」

「いますよ~....親方! カオルお嬢さんが来られましたよー?」


 弟子のニールさんが叫びドスドスと音が鳴り響く。

 やがて奥からモジャモジャ髭のドワーフさんが。

 結わいた髪がチャームポイント。正面から見ると厳つい人です。


「おう! 嬢ちゃん! 今日はどうしたんでぇ?」

「お忙しい所すみません。また炉をひとつお借りできませんか?」

「いいぜ! 嬢ちゃんならいつでも好きに使いな!」


 気前の良いレギン親方。ニールさんもそんなレギン親方を慕ってる。

 ボクは感謝を述べて出店で買った串焼きの品々を渡した。

 その為に買って来たからね~♪ おまけも感謝です♪


「わりぃな! おいニール! 茶ぁ淹れろや!」

「へーい」


 普段はお客さんから各種注文を受けるその場所も、今は立派な食卓に。

 《魔法箱(アイテムボックス)》から木目模様(ダマスカス)鋼の包丁を取り出しオレンジを剥く。

 出された食器に乗せて差し出しレギン親方は感慨深そうに口へ運ぶ。


 実弟のシルさんが打ち今は亡き奥さんが使っていた包丁だからね。

 レギン親方も想うところがあるはず。

 《浄化(パージ)》でキレイにして再び仕舞いボクは奥の炉を借りた。

 小さな声で『ありがとうな』と呟いたレギン親方は、誰に向けて言ったんだろうね?


 部屋も借りて麻製の黒いチュニックとズボンへ着替える。

 メイド服は鍛冶仕事用に作られた衣服じゃないから。丈夫な革のエプロンを身に着け炉に火をくべた。


 高温の室内。自然と汗が吹き出る。

 猪頭鬼王(オークキング)が装備していた屑鉄な武具を鋳潰す。

 赤く熱せられたそれらを砂地で作った板型へ。

 縦1m 横30cm 高さ5cmの鋼鉄の板が7枚できた。

 6枚を仕舞い1枚の鉄を再加熱して3つの塊に別ける。

 さらに叩いて不純物を取り除き炭素量を調整。硬過ぎても脆く割れてしまう。

 幾重にも伸ばして折り返し何層か折り畳んでから形成開始。

 金床と金槌を使い器用に円筒形へ。

 師匠が教えてくれた鍛冶仕事。

 火花が飛ぶ度に火傷を負った事もある。丁寧に軟膏を塗ってくれたのは良い思い出。

 丸型金床へ移動し丸くなるまで叩き続ける。

 途中何度も"火入れ""水入れ"を繰り返し、仕上げに切れ目を美しく。

 食事を済ませたレギン親方にお願いし、壁に掛かった牛革のベルトを数本買い取る。何処にでもある代物で消耗品だから無料(ただ)みたいな値段だった。

 出来上がった物にベルトを通して装備。

 表面だけ肉厚で裏面は普通。作ったのは凡庸型の"鋼鉄製の腕甲(ヴァンブレイス)"。

 想像通りにできたね♪ 受け流す前提なら簡易盾にも使えそう。


「お? 良いもんできたじゃねぇか。"銘"はきらねぇのか?」

「銘ですか?」

「おう! 商売するしねぇに関係なくせっかく作ったんだかぁよ?

 おれぁ自分のモンに銘を入れてるぞ? 伊達に工房を開いちゃぁいねぇからな!」

「う~ん....」


 銘ですか。製作者の『カオル』は変だしなんか嫌だ。

 師匠の名前でも掘る? って師匠は関係ないよね。


「悩んでるな? ガハハ! コレが俺の銘だ! カッコイイだろう?」

「なんて読むんですか?」

「そりゃぁドワーフ語で『フラマ』だな。炎っちゅう意味なんだぞ?」


 ふむ。ラテン語ですか。"b"という文字が変形した感じ。

 魔法も色々な言語がごちゃ混ぜなんですよね。さすが不思議な力。

 レギン親方の言う通りカッコイイ。中二病患者だけど。


 という訳でボクも(たがね)を使い内側に文字を刻み付ける。

 そうして同じ物を2つ作り合計3つ。投げナイフも確保。両刃で重心に気を付けただけの持ち手も無骨な代物。柄を握って戦える様な物じゃない。

 熱中していて暑さを忘れ、扉を開ければ――夕陽が沈む時間に。

 大慌てでレギン親方とニールさんへお礼を述べて身支度。

 作成物を仕舞い《浄化(パージ)》したり着替えたり。

 炉の周りもキレイに掃除した。


 駆けて聖騎士団詰め所で師匠を捕まえ教会へ。

 『まてまて♪ こいつぅ♪』と喜ぶ師匠は無視しよう。


「ごめん遅れたー!」

「おっそいわよ!」


「「いいよいいよ」」


 教会前で待ち合わせをしていたカイとメルとエリーの3人。

 仁王立ちで怒るエリーに許してくれたカイとメル。

 師匠はボクに『どういうことだ?』と目で訴え掛けてきて『夕食をご馳走するんですよ』と答え――なにやら寂しそうな顔を。

 仕方が無いから繋いでいた手を俗に言う"恋人繋ぎ"にすればあっという間に機嫌が直った。チョロイン? 師匠ですからね。


「それじゃ行――」

「行きましょう♪」


 ムギュっと空いていた手を捕まれなにやら柔らかいモノを顔に押し付けられる。

 視界の半分を遮られ、「プハッ!?」と叫んで出て見れば、そこに見知った顔が。

 屋台の手伝いもしてくれた治癒術師のカルアさん。

 シルさんの件で心配してくれた優しい人。

 でも何で此処に居るの?


「お仕事帰りですか?」

「うふふ♪ そうなのぉ♪」

「なんでおねぇちゃんが着いて来るのよ!!」

「おねぇちゃん?」

「エリーちゃんはおねぇちゃんの義妹なのよぉ♪」


 ふむ。義理の妹さんなんですね? だから種族が違うんだ。

 猫人族のエリーとエルフのカルアさん。

 ツンデレエリーと柔和なカルアさん。

 冒険者のエリーと治癒術師のカルアさん。

 類似点がひとつも無いとは珍しい。

 深い家庭の事情があるんでしょうね。お家にご両親は居られませんでしたから。

 深く追求しません。両親を失う悲しみはボクも良く知っています。


「...それで? なんでおねぇちゃんが居るのよ」

「ごはんを食べに行くんでしょう? おねぇちゃんは家族だもの。一緒に食べるのは当然よぉ?」

「カオルちゃんもおねぇちゃんと『一緒がいい』って♪」

「そうですね」


 ボクの事を『家族』と呼んでくれた人ですからね。

 『一緒がいい』なんて一言も口にしてませんけど。

 あと胸を押し付けて来ないでください。師匠の手に力が!? 痛いです!! さりげなく親指でサワサワしないでください!! 残念美人はこれだから――


「おねぇちゃんに続け~♪」


 何故かカルアさんに先導されて張り合った師匠がソレに続く。

 両手の塞がるボクは引き摺られる形で早歩き。

 カイ達も無言でただならぬ雰囲気を発する集団に!?


 青果店に再び立ち寄り野菜を買ったり酒屋でお酒を買ったり。

 さすがに手を離してくれました。買い終わって《魔法箱(アイテムボックス)》へ仕舞った途端に繋ぎ直されましたけど。

 張り合う2人は何を考えているのでしょうか? 『家族』と呼んでくれるのでしたらそれなりの対応を望みます。


 ようやく黒猫通りのミント亭へ辿り着き食堂へレジーナが案内してくれる。

 席も空けておいてくれた。というか、宿屋の店主さんはクレープ屋台を2店舗に増やし、今は別の場所を借りて食堂を開店している。

 たった数日で場所と人材を確保した手腕は凄い。やっぱりやり手の商人さん。伊達に恰幅の良いお腹をしていない訳です。

 そして屋台の売り上げと料理のアイデア料も頂けました。

 手付け金と合わせて金貨13枚と破格です。火蜥蜴(サラマンダー)の革で金貨1枚消費してしまいましたけれど。

 残念な事にオーブンは買えません。中古の古いタイプで時間制御(タイマー)付きの代物ですら金貨20枚以上の値段なんです。

 上を見ればコンロ付きの代物もあったんです。しかも3口!! 薪もいらない素敵な調理道具!! 値段がオープン価格でした。いくらするんでしょうね?

 やっぱりカイ達にお願いして魔物を狩りに行こうかな? ボクはギルドに登録できないけれど、カイ達が着いて来てくれれば問題ないみたい。

 法の抜け穴を利用している感じ。実際そういう輩も居るそうです。子供に手伝わせる人は居ないだろうけど....


「おう! 嬢ちゃん!」

「ただいまです。早速場所をお借りしますね?」

「いいぞ? ただし――」

「忘れていませんよ? お裾分けですね?」

「そういうこった!」


 師匠達をテーブルへ向かわせボクは料理長と相談事。

 人数が増えたからちょこっと料理を追加したいのです。

 カッペリーニ――髪の毛の意味――並の細い麺ならまだ良いんだけど、【オナイユの街】で売っているパスタは極太なんです。

 それはもうウドン並に太くて平たい乾麺。きし麺.....パッパルデッレだ!?


 自己解決したボクは大急ぎで料理を開始し作り置きしていた分も仕上げて早速提供。

 『美味い!!』と味見で十分な料理長から太鼓判を押され料理片手にみんなの下へ。


 猪肉とズッキーニのクリームソース――パッパルデッレ――、猪のロースト、野菜たっぷり薔薇模様を描く牡丹鍋、シーザーサラダ、温野菜のサラダ、食後に木苺のタルト。

 以上が本日の献立。最後に土鍋を中央へ置いた瞬間に『ワッ!!』と拍手喝采。

 肉料理には赤ワイン。もちろんノンアルコール。健康に気を付けてくださいね? 特に師匠?

 猪肉には動物性タンパク質が豊富で、必須アミノ酸が多く含まれている。

 それに低カロリーで滋養食品だから疲労回復にとてもいい。

 昨日は戦闘もしたし、猪肉はちょうどよかった。


「美味いな!」

「そうねぇ♪」

「女として敗北を認めるわ....」

「私もそうね....」

「うめぇうめぇ!!」

「カイ!? 行儀が悪いわよ!!」

「メルはいちいち口うるせぇぞ? そっちの3人を見てみろよ」


「「「.....」」」


「師匠!? 『あーん』はしませんからね!!」

「まぁそう言うな。嫌いじゃないだろう?」

「される側とする側の違いです! 師匠はボクに『あーん』をさせたいだけでしょう!?」

「それじゃぁ~♪ おねぇちゃんがカオルちゃんにしてあげるわぁ♪」

「ほほぅ? "私のカオル"にカルアが『あーん』だと? 許さんぞ!!」

「うふふ~♪ おねぇちゃんはカオルちゃんの"家族"だもの♪ 当然の権利よぉ~♪」


 突如勃発した師匠とカルアさんの『ボクへあーんできる権』争い。

 言い合いながら料理を口にしてお酒まで飲むこの2人。

 呆れて黙々と食べる事に専念するカイ、メル、エリー。

 現実から目を背ける事にした様子。ボクもそうしよう。

 他愛もない会話を続け次第に和やかな雰囲気へ。

 口の周りを汚してしまう師匠の給仕を忘れてはいけない。カルアさんみたいに優雅に食べられないのですか?

 隣の席で独り孤独にグラスを傾ける紳士へ猪のローストをお裾分け。

 料理長も頷き彼も喜んでくださいました。

 騒がしい一団なので気配りは必要なのです。

 6人では多いかな? と思った量も完食。

 大猪君に感謝しつつ食後のデザート。

 木苺のタルトも大変喜ばれました。

 一口で食べたカイはメルに怒られる。『はしたない!』だそうです。『意地汚い』も加えて下さい。


「エリー? メル? カイ? よかったら使ってください」


 食器もあらかた片付けお皿洗いもお手伝い。

 料理長からタルトの品評も聞いてボクは大満足。

 そしてテーブルへ戻り《魔法箱(アイテムボックス)》から3人に贈り物をした。


「エッ!? いいの!?」

「うぉ!! 超カッコイイじゃねぇか!!」

「こんなに高い物....いいの?」

「うん。3人は革製の物を使っていたからね。その鋼鉄製の腕甲(ヴァンブレイス)はきっと役に立つと思います。

 材料も昨日手に入れた猪頭鬼王(オークキング)の武具を鋳潰して作ったから実質"無料(ただ)"みたいなものですよ。ボクが作りました。使ってください」


 銘もきった。内部に刻んだ言葉は『EMK』。Emergency Medical Kit――救急医療キット――ではなくて、エリー、メル、カイの頭文字。

 3人だけの特別製。彫金仕事をまだ覚えていないから無骨な代物だけど鏡面仕上げの秀逸品だと自認してる。レギン親方も褒めてくれた。


「「「カオルの手作り....」」」


 声を合わせてお互いを見やり感謝の言葉。

 凡庸型だからサイズは牛革のベルトで調整できる。

 手袋(グローブ)を装備したあとに着けるといいね?

 師匠が『ランクが低い』とか言っていたから3人はまだまだ未熟な冒険者なんだと思う。

 それなら丁度良い。鋼鉄製の装備は一般品で多く出回っている。冒険者ギルドで見た冒険者らしき人達も相応の装備をしていた。


「少しでも身を護るのに役立ててくれたら嬉しいです」

「そうだな。励めよ?」


「「「はい!!」」」


 元剣聖からの激励を受け取りカイ達は元気に答える。

 珍しいんだよ? 師匠は滅多に他人を褒めない。じゃなくて期待しない。

 【イーム村】に居た時でさえボク以外の人へそんな温かい言葉を口にしなかったんだから。


「それでぇ~....カオルちゃん? おねぇちゃんの分はぁ~?」

「...カルアさんは戦いに行かないですよね?」

「うふふ♪ おねぇちゃんだけ仲間外れにするつもりなのぉ~?」


 物凄い眼力が!? これは逃げられなさそうです....


「こ、今度何か作っておきます」

「お願いねぇ♪」


 大喜びで左腕に装備した3人。師匠も満足気でワインを飲んでいます。

 小声で近づいて来たカルアさんに抵抗できずに約束してしまったボクは――負けたのでしょうか?


「師匠!? 飲み過ぎです!!」

「まぁまぁ落ち着け。祝いの席だ。そうだろう?」

「そうですけど....」

「これが最後の"1本"だ。な?」

「わかりました」


 グラスに注ぎ入れてふと気付く。

 『最後の一杯』ではなく『最後の1本』と聞こえた。

 つまり開けたばかりのこのワインは全部飲むということで、空瓶は5本を越えている。

 もちろんカルアさんも飲んでいたし、カイ達も一杯は飲んだ。


 やっぱり飲み過ぎです!!


 大慌てで師匠のグラスへ手を伸ばし――避けられ頬を撫でる仕草に!?

 酔っていても強い師匠....けれどボクも弟子としての意地が――


「カルアさん? "何を"しているんですか?」

「おねぇちゃんだってカオルちゃんに触りたいのぉ♪」


 隣に座るカルアさん。擽ったい感覚を膝上――太股に感じ見れば手が撫で撫でしてる。

 そして師匠も撫で撫でを開始。2人の変態に挟まれ身動きが取れず、ボクは強硬手段に打って出た!


「ていっ!!」

「ガッ!?」

「いったーい! カオルちゃんに叩かれたのぉ~! おねぇちゃんキズモノにされちゃったから、カオルちゃんが責任を取ってお嫁に貰ってねぇ~♪」


 軽いチョップひとつ『責任を取れ』と? それならボクは太股を触られた責任を取ってください!

 まずは謝罪を! そして【聖騎士教会】に所属する治癒術師として謝罪文の公開を求めます!

 というか酔ってるでしょう!? 師匠もです!! いつの間にかノンアルコールじゃない気がします!!

 買って来たワインのボトルと銘柄が違うんです!! 誰の仕業ですか!? 責任者はどこー!?


「....カオル? おねぇちゃんがああ成ったら誰にも止められないの。我慢して」

「エリー....助けて」

「ごめんね? 無理なのよ。私じゃおねぇちゃんに敵わないの」

「俺も無理だからな?」

「私も....頑張って....カオル」


 同情的な言葉を投げかけるエリー、カイ、メルの3人。

 どうやら頬擦りしてくる酔っ払いさんを止める事は無理みたいです。

 だけどボクには師匠が居ます! 頼れる存在! 残念美人だけどきっとボクを――


「フハハハ!! カオルは私の嫁だからな!! 大丈夫だ!!」

「ムグッ....」


 両脇から胸を押し付けボクの所有権を主張するエルフが2人。

 カイが『羨ましい』と発言してメルとエリーから総叩き。

 知らないんだろうね? コレ、物凄く苦しいんだよ?


「カオルは渡さん!!」

「おねぇちゃんも負けないわぁ!!」


 ボクの頭上で繰り広げられる飲み比べという戦闘。


 もうだめだ。この2人、早くなんとかしないと....


 無情にも救いは無く、夜の帳が落ちるまで師匠とカルアさんの戦いは続くのだった。


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