第二十九話 冒険者ギルド
2016.9.11に、加筆・修正いたしました。
状況も落ち着き――チョップした――どうにかこうにか大通りを歩く師匠を含めて5人の人物。
帝国兵士さんから徴税官さんまで目が点になっていたのが印象的。
ところで、この凡庸人型拘束具――通称ヴァルカンこと師匠はどうにかなりませんか?
引っ付いて来るのは構いません。いつも手を繋いでくれて嬉しいです。
でもね? 師匠はボクより背が高いからこうやって師匠が引っ付かれると、ボクは持ち上げられたりして浮遊感が気持ち悪いのです。
あと、そのニマニマ顔を止めて下さい! せっかくの美人さんが台無しです! ほら通り過ぎる人がみんな――拝むんですね? そうですか。
「カオルの師匠って剣聖様かよ」
「そうね。それならあの強さも納得できるわ」
「でもよ? 剣聖様にチョップしてたぜ?」
「ええ....あれは驚いたわね」
「というか、あの剣聖様のデレデレっぷりの方が驚くわ」
「でも....気持ちはわかるわね....」
「そうね」
「ああ! 俺も腕を絡めたい!」
「カイ!? いい加減にしなさいよ!!」
「カイ? あとでお説教です」
「なんだよ!! 別にいいだろ!?」
「アンタ...メルの気持ちわかってて言ってるの!?」
「ちょっとエリー!? それは言わない約束でしょ!?」
「ご、ごめんメル....」
「ん? 何の話だよ! 俺も混ぜろよ!」
「いいからカイは黙ってなさい!!」
なんだか後ろは楽しそうですね? 丸聞こえな上にカイは鈍感さん。
メルはカイに好意を持ってるんだね。エリーはそれを知ってる。
そしてたぶん――何度も繰り返されたやり取りなんだと思う。
だって手馴れた手付きでメルがカイを叩いてたから。
幼馴染で同い年。近過ぎてカイは気づけないのかな?
何度か師匠の変態行為――フレアスカートだからニーソックスの間までの剥き出しの太股を触ろうとしてきた――を凌ぎつつ、【オナイユの街】東側に在る冒険者ギルドへ辿り着く。
建物は近くにある他の鍛冶や商業ギルドと変わらない。
白い壁に青い屋根。垂れ下がる看板に『冒険者ギルドオナイユ支部』と書かれてる。
クエストを終えたカイ達を先頭に両開き扉を潜り抜けて内部へ。
石造りの外観とは違い木の温もりを感じられる造り。
壁も床も板張りで、入って右手に食堂が併設されている。
もちろん正面にカウンターが存在していて各種受付ごとに職員が忙しそうに仕事を行なう。
左手に掲示板が在り色々なクエスト? が張り出されて武具を装備した冒険者らしき人達が眺めて居たり。
想像していた『無法者』『自由人』というイメージからは掛け離れた人達。
【オナイユの街】は治安が良いからだろうか? 聖騎士団の詰め所もあるくらいだし。
ってそうだ!! ボクは師匠にオシオキをしなければいけなかったんだ!!
「師匠!? なんでボクに"魔物が売れる"って黙っていたんですか!?」
「そうか....カオルはついに知ってしまったか....」
怒るボクに思わせ振りな態度の師匠。
組んでいた腕も外して――ボクが師匠の腕を組んでいたみたいだ!?――詰め寄る。
カイ達に続きギルド内の人達もボクと師匠のやりとりを興味深そうに聞いていて....コレは有効活用させていただきます! オシオキですよ!
「非常に残念だが、私がカオルに黙っていた理由は2つある」
「....理由ですか?」
「まず1つ。魔物の買取りは冒険者ギルドで登録した冒険者にしかできない」
ふむふむ。登録くらいしますよ? オーブンの為に! 食材も欲しいのです!
「そして2つ目。コレが一番重要な事だ。冒険者登録をするとギルドが発令した"緊急クエスト"に必ず参加しなければいけない」
「....そもそもクエストってなんですか? 『簡単なお使い』ってメルから聞きましたけど」
「そうだな。この3人は見たところ"ランク"も低いから『簡単なお使い』程度しか受けられないだろう。
ずばりクエストとはその名の通り探求、探索だ! 基本的に国や街、村や個人から依頼された仕事を自分で選び受注する。
クエストにはランクごとに報酬が用意され、達成して初めて受け取る事ができる。
問題なのは"緊急クエスト"だ。コレはさっき言った通りギルド登録者は参加必須。命を落とす危険性が高く、その割りに報酬は少ない。まぁ義務なんだが余程の事が無い限り発令はされないな」
師匠のながーいご説明。頷いたボクに続き聞いていた人達も同意する。
職員が『その通りです!』って叫んでいたり、カイ達も『そうだな!』と教えてくれた。
「それだけですか?」
「それだけ!?」
「うん。だって『緊急クエスト』の意味は"困っている人が居るから早急に対応しなければいけない"という事ですよね?
師匠は『危険性が高い』ともおっしゃいましたけど、一般の方に比べて戦い慣れている冒険者の方の力が必要だから発令される。
考えられるモノとして外敵の侵入阻止。街道の治安維持。魔物の異常発生による災難を防ぐ為の適切な処置。
報酬が少ないのもそれらが生活に直結して被害を出すからでしょうし....間違ってますか?」
「あっているぞ? カオルは絶対にそう言うと思ったから教えなかった」
なぜ? 当たり前の事じゃないですか? そしてその理由はボクが質問した答えになっていません! 再度回答を求めます!
「素晴らしい!!」
「立派ですね!!」
「流石は剣聖様と黒巫女様!!」
「緊急クエストの報酬が少ないのはそういう理由なのよ!! わかった!?」
「「「は、はい!!」」」
大盛り上がりの職員達。指摘されて恐縮する冒険者らしき人達の姿もチラホラと。
どうやら受付嬢さんを怒らせてはいけないようです。
屈強な冒険者らしき風体の男性が小さくなって怯えてるんです。
長柄の両手斧も凶悪さを感じないくらいに弱々しく....
「まぁ...そもそも冒険者ギルドは15歳からしか登録できないからな。カオルにはまだ無理だ」
ガーン!! 長々と説明しておいて回答がソレって....
登録以前に資格制限に行く手を遮られると思わなかったです....
やっぱりオーブン基金はコツコツチマチマやるしかないのかなぁ。
「エッ!? カオルって今いくつなの!?」
「今月12歳になったよ....」
「マジカ!?」
「そうなの!?」
「いくつだと思っていたの?」
「えっと...」
「魔術師って見た目は若いけどお年寄りが多いって聞いた事があったのよ」
「おとぎ話の大魔術師様でね?」
またその話しですか。料理長とレジーナからも聞いたよ?
「カオルは大人びてるからもっと歳かと思ってたのよ」
「私も同じ」
「大丈夫だぜ! 俺は12歳でもいける!」
「「死ね!!」」
バカ発言したカイをメルとエリーの2人掛かりで叩きのめす。
師匠が参加しようとしてボクが止めた。本当に死んでしまいます。本当は死ねばいいと思うよ?
しばらく待ってカイが復活し、買取り窓口へ。
終始ご機嫌斜めなメルをエリーが宥める。
師匠はボクの手を離さない。なぜなら握手を求めて他の冒険者が名乗り出て来て倒されたから。
『下心がミエミエだ!』とは師匠の談。
どうやらボクに触れたかったそうです。壮年の男性が! ボクは男だよ!?
「ご、ご苦労様です。魔物の買取りですね? 買取官のイライザと申します」
小柄な身体のホビットの女性。
カウンターの向こうで見えないけれど、どうやら踏み台を使っているらしい。
その気持ちはよくわかります。ボクも背が伸び悩んでいますから。
「ああ! 頼むよ!」
カイを主導に交渉が始まる。
カイでいいのかな? メルの方がしっかりしているイメージが.....
量が多い旨をカイが伝え、解体場へ案内されて倒した魔物を《魔法箱》から取り出す。
ざっと醜悪鬼10体、猪頭鬼20体、そして猪頭鬼王1体。
《魔法箱》の収納力に驚き、猪頭鬼王で再度驚きの声が上がる。
「か、カオル? この猪頭鬼王どうしたんだ?」
「えっと――カイとエリーとメルが戦っている時にお手伝いに入ったんです。
最初は醜悪鬼と猪頭鬼が数体だったんですけど血臭に惹かれて集まり出して....
それで最後に猪頭鬼王と猪頭鬼が沢山現れて倒しました」
「そうか.....」
悩み始める師匠。カイ達も補足してくれて事の顛末を話す。
イライザさんは茫然自失。なんでも一度にコレほど大量な買取りはした事がないらしい。
大容量の《魔法箱》があるからこそ成せる技ですね。
「私が今日【聖騎士教会】の招集に応じた事を覚えているか?」
「はい。聖騎士団の詰め所へ行かれたのですよね?」
「そうだ。大遠征を行なうから会議に参加した。そこで――まぁ詳しく話せないが最近魔物の動きが活発になっていると聞いてな?
その為に近々調査隊を派遣する手筈だったんだが....その必要は無くなった。この猪頭鬼王で確信した」
なるほど。そんな話しがあったんですね。
元とはいえ、師匠は【カムーン王国】で誉れ高き剣聖だから会議に呼ばれた。
ソレは知っていたけど猪頭鬼王にそんな理由が.....
「すまないがカオル? 私は詰め所へ行ってこの件を伝えなければいけない。後で詰め所へ来てくれるか?」
「わかりました。でも――」
不意に感じた寂しさ。
すぐに会えるとわかっていても何故か切なかった。
だからちょっとだけ師匠に甘える。
手を伸ばして頬に触れ、キメ細かい肌をそっと撫でて。
視線も交差し指が唇へ移動する。
プックリと膨らんだ師匠の唇。
"初めて"を捧げた異性の女性。『家族』と呼んで思慕の念も抱いてる。
いつかこの感情が変わる事があるのかな?
愛しています。家族として。大好きです。人として。
傍でボクを必要としてくれる大切な人。
ですが――コレはオシオキなんですよ?
「いってらっしゃいませ、ご主人様」
手を離して微笑む。会釈も添えて見送りはバッチリ。
"魔物が売れる"事を秘密にされたからお相子です。
他人の前で恥ずかしい思いをしたでしょう?
身を切る思いでボクも辱めを受けて――
「カオルきゅん!!」
「ていっ!」
タコチューしてきたので即チョップで撃退。そんな予感はしていたのです。
師匠こそ『下心がミエミエ』ですよ? 耳元で「またあとで」とフォローしておきました。
「....魔性の女ね」
「むしろ見習いたいわ」
「俺は....アリだと思う」
「女性同士もアリですよね!! むしろ推奨です!! 絡み合う手と手.....女性ならではの細い手が複雑に絡んで――」
泣きながら走り去った師匠の後にとんでもない人が現れた。
茫然としていたイライザさん。
鼻息荒く女性同士の恋愛が如何に尊い代物かボク達に説き始める。
「百合道は奥が深いんです! いいですか? そもそも子供を産めないという禁忌を犯す事で何倍もの快楽を――」
「「「話しが長い」」」
「すみません....」
息の合ったカイ達3人によりイライザさんの口演会は終了した。
百合は女性同士の恋愛に用いられる隠語なんだそうです。思わず聞き入りそうになってしまって危なかったです。
お父様の教えというか、香月家の家訓というか、ボクは知らない事を覚えたい衝動に駆られてしまう人種なもので....
超高速の速読が得意です! お父様とお母様も得意でした!
記憶力も良いです! お父様とお母様も!
けれど同じ家族の師匠はその辺微妙な方です。とても頼れる人だからいいんですけどね....
査定を開始したイライザさんを見ながらそんな事を考えていたり。
メルから『普通の魔物は山分けにして、猪頭鬼王は丸々カオルの取り分でいいわよね?』なんて提案された。
「いいんですか? ボクは同じく山分けで問題ないですよ?」
「いや、こういう事はしっかり決めておかないと後で揉めるんだぜ?」
「そうね! 私達で猪頭鬼王の相手なんて出来ないもの!」
「ええ。普通の魔物を山分けするだけでも申し訳ないくらいです」
「っていう訳だからよ?」
「わかりました」
結構しっかりしていたカイ。
ボクはてっきり鈍感バカと認識していました。
改めます。鈍感なカイでいいですね?
さっきからカイがボクへ近付く度にメルの眉間に皺が寄ってるのに気付きなさい。
「猪頭鬼王の武具は買取りから外してください」
「わっかりました~!」
『百合道』発言以降テキパキと職務を全うするイライザさん。
ボクは鉄が欲しかったから丁度いい。投げナイフの威力も中々のモノだったし、魔法剣と併用して使い捨て武器にでもしよう。
鋼鉄程度では魔力に耐えられなくて溶けてしまうから。
溶解寸前の鋼鉄が飛んでくるとか恐ろしいよね。
「カオル? ソレ、何に使うの?」
「鋳潰して武具にでもしようかと思って」
「エッ!? カオルってそんなことも出来るの!?」
ん? 自分の装備を作るのと手入れは当然じゃないの? 師匠はそう言ってたよ?
気になったのでその事を聞いてみる。
「手入れはもちろんするわよ。でも、私は武具なんて作った事無いし」
カイとメルも両手を前に出して、ブンブン振って否定していた。
「出来ると便利ですよ?」
「そ、そうね...私だってやれば出来るわ! 私だって!」
ツンデレ全開のエリー。
あまり乗り気じゃないのが丸わかりですよ?
剥ぎ取った装備を《魔法箱》へ。
査定が完了したイライザさんに連れられギルドの買い取りカウンターへ案内された。
「それではこちらが報酬です!!」
総額で銀貨30枚。
安いような高いような?
ボクは銀貨7枚を受け取り銅貨50枚は遠慮した。
「それと、こちらが猪頭鬼王の報酬です!!」
金貨1枚。
いやいや、買い取り価格の基準がおかしくないですか!?
普通の魔物30体で銀貨30枚なのに、なんで猪頭鬼王1体で金貨1枚なの!?
「すげぇ!! 金貨なんて初めて見たぜ!!」
「ええ。でもアンタ1人であのバケモノ倒せる?」
「無理ですね。カイなんて踏まれてペシャンコです」
「おい!? ちょっとひどくねぇか!?」
「あはは♪」
「カオルまで....ひでぇよ!!」
だって『ペシャンコ』なんて言うんだもん。
勝てないなら逃げちゃえばいい。あの時もみんな逃げる事を考えていたからね。正解だと思う。
「まぁまぁ。お詫びに夕食をご馳走しますよ?」
「マジカ!!」
「やった♪」
「ありがとうございます!」
「でも明日にしましょ? 今日は疲れちゃったし」
「そうですね。クエスト帰りでお疲れですよね?」
「まぁ....さすがに今日は帰って休むか。おやじ達もいねぇみてぇだしな」
「私も....ですね」
「そうね。おねぇちゃんに顔見せに行かないとだわ」
そうして冒険者ギルド前でカイ達と別れボクは言い付け通りに師匠の元へ。
カイとメルはご両親が冒険者ギルドの職員で今日はお休みらしい。エリーもお姉さんが居るらしく、帰って行った。
ほどなく――というか各ギルドから聖騎士団の詰め所はとても近い。利便性を考えて区画整理されているみたい。
緊急時に対応できるようにそうしているのだろう。
今日も聖騎士達が訓練をしていて、中には知り合いの姿もチラホラと。
変態予備軍は無視しよう。兜を被っていてもボクにはわかる。その瞳の色は忘れない。トイレ事件のアヤツだね? お前は変態だー!
「ご苦労様です。師匠に呼ばれて来ました」
「これは黒巫女様。どうぞ」
「....ありがとうございます」
詰め所の入り口を護る聖騎士さん。
定着してしまった呼び名はどうしたものか.....まぁ好意的に捉えてくれているから今更否定するのも心苦しい。
「失礼します」
聖騎士さんが扉を開きボクは礼儀的に挨拶。
1歩進んでテーブルを囲む集団の中に師匠と聖騎士団長のレンバルトさんの姿を発見。
他にも全身鉄鎧を装備していない高位の聖騎士さんの姿も....
確か聖騎士には階級があって一様に聖騎士と呼ばれているけれど士官、下士官、一兵卒云々と内実分かれているらしい。
見た目でわかるのはレンバルトさんみたいに白地を貴重に青い騎士服を纏った方々。
もちろんこの【オナイユの街】に駐屯しているレンバルトさんが一番上の階級。将校さんな訳だ。
「ああ、カオルか。悪いがもう少し掛かる。外で待っていてくれ」
「わかりました」
師匠と目が合い命令を下される。
普通に言われただけだけど、なんだかそんな雰囲気だった。
緊張感が張り詰めている感じ? もしかして状況はかなり深刻?
「ハハハ!! ご心配なさらず大丈夫ですよ? 新しい試みをしようという話しでしてな」
ふむ。表情に出ていたみたい。
レンバルトさんに気付かれ笑われた。
「いえ...お邪魔をしてすみません。それでは、ボクは外に居ます」
「そうしてください。もうすぐ終わりますからね」
う~ん....読まれやすいなぁ。無表情を作るのは難しい。師匠も嘘を見破る天才だし。
会釈して詰め所を出る。
扉の前で聖騎士さんに許可を得て訓練場の隅っこを借りた。
せっかく時間があるんだ。取り戻した勘を鈍らせない為にボクも修練しよう。
「ふぅ....」
外套を脱いで《魔法箱》へ。
白銀の鎧が露にされて日の光を反射する。
曲剣と比べるとほんのり色が青い。
作った時の記憶が曖昧で、風竜か精霊君の仕業だと思う。まぁ他の白銀と性能に差は無さそうだけどね。
目を閉じて精神統一。
何度も繰り返し行なった修練。いや、一種の修行かな?
座禅を組む事もあるし、こうして棒立ちで全身の力を抜く。
師匠曰く『魔法と同じで何事もイメージが大事だ』と言われてイメージトレーニングもしていた。
空を駆けるイメージ。縦横無尽に走り回る自分を想像。
あらゆる武器で唐竹・袈裟切り・逆袈裟・右薙ぎ・左薙ぎ・右切り上げ・左切り上げ・逆風・刺突。
散々型も覚えたし実践してる。
回避術も教わった。師匠流のやり方で打ち合わせる事は普段しない。避けて、いなして、反撃。
ボクが鍔迫り合えば確実に負ける。師匠から手痛い仕返しを何度もされて身に染みてる。
まだ子供で背が小さく握力も無い。まして押し返せる程の馬力を持たない。ヘンテコな力は除外して。
アレはアレで持続性が無いから、使いどころを選ばないと万が一なんて事が普通にある。
今日も師匠の真似をしよう。
あの素早く刀を引き抜き相手を一閃する必殺技を。
高速の抜刀術。目にも留まらぬ速さ。
初めて見た時から強い憧れを抱いた。
相手は醜悪鬼だったけど『凄い』の一言。
無形の位で構え動いた素振りも見せずに両断。
涼しげな横顔が目に焼き付いてる。
身内贔屓。わかってる。でも見惚れたんだ。
だから真似る。いつか出来るように。そうしたら師匠も褒めてくれるから。
「シッ!」
戦闘のスイッチを入れて柄を持ち、鞘を走らせ曲剣を引き抜き左切り上げからの納剣。
奇しくも師匠がボクに与えてくれた武器は刀を彷彿とさせる形状をしている。
片刃の曲剣。本来ならばもう少し剣幅があり反りも深いファルシオンだけど、コレはボク特製の品物だから刀に似通っている。
師匠が持っていた白銀製の脇差を鋳潰して作られた代物だからね。
とても大事なボクの宝物だよ。
イメージよりも数段遅いボクの動き。
もう一度繰り返し、切り上げた姿勢からゆっくり納剣。
引き抜いてから納剣までの間に違和感があった。
たぶんコレは軸線のブレだと思う。
「ハァッ!!」
師匠を真似て掛け声ひとつ。何度繰り返しても師匠と比べるまでもなく"遅い"。
ボクの得りはスピード。即ち速さ。
抜剣までの動きは着いていけてる。問題はその後。納剣も慣れて来た。当然だ。ずっとやっている事なのだから。
引き抜いた直後に剣筋がイメージ通り軌道を描けない。
腕力不足? 握力? ん~....なんだろう?
時間も忘れひたすら修練に励む。
少しでも強くなって師匠の手助けをするんだ。
きっと褒めてくれる。『頑張ったな』って。優しい人だからボクにはわかるんだよ。
「カオル」
没頭する事数時間。太陽も傾き辺りは夕陽に照らされていた。
「師匠? もうよろしいのですか?」
「ああ。3日後に大遠征軍を出す事に決まった。私とカオルは斥候だ」
「斥候ですか?」
「そうだ。本隊に先立って偵察をするんだ。教えただろう?」
「はい.....2人だけで行く気ですね?」
「当然だな」
頭を撫でてニンマリ笑う師匠。
ボクが参加する事も決定されている。さらに師匠は郡体行動を嫌う。
2年以上も一緒に暮らしていれば顔を見てわかります。ボクが嘘を吐くとバレるのと一緒です。
そして師匠は対魔物となると狂戦士な一面を見せるときがあるんです。
返り血を浴びて嗤っちゃう人。ボクも同類だったりします。
アレは一種の興奮状態で、ドーパミンがドパドパ出ているだけだと思います。
生存本能? 魔物が多ければ多い程、師匠は殺る気が出てしまう生き物。
カッコイイんですけどね~....血濡れた美人さんは.....そのあとボクに抱き付きさえしなければ。
「今回の大遠征軍はすごいぞ?」
「そうなんですか?」
外套を羽織った道すがら、師匠と今回の従軍について説明を受ける。
装備を隠した理由は白銀製の装備を見せびらかせない為と自己防衛の為。
師匠がスカートに手を入れようとするんです! 太股の絶対領域を狙ってくるんです! 残念美人なんです!
故にこうして隠して抗う。装備を褒めてくれるのは嬉しいけれど魂胆がミエミエですよ?
『半白銀鎧の留め具が曲がっているぞ?』とか言いつつペタペタ触ってきた。
高速で手を振り払い高速で触れてくる師匠と戦う一幕もあったり。
挨拶に出て来たレンバルトさんが苦笑いしていたのが印象的です。
「ああ。聖騎士はもちろん、帝都から帝国騎士――しかも皇帝直属の近衛騎士が派遣される。【聖騎士教会】と【エルヴィント帝国】の合同遠征だな」
つらつらと語る師匠によると、帝国騎士は騎士爵位を持つ貴族な方でかなりの量が居るらしい。
12年前の大改革で地方領主を勤める騎士爵はほとんどが改易されて近衛騎士に転封されたとかなんとか。難しい話しを色々してくれた。
【カムーン王国】よりは風通しが良いみたいです。よくわかんない。師匠も言葉を濁してたから。
とりあえず二カ国による合同演習は初の試みだって事はわかりました。
『所属する国家が違うから指揮系統はそれぞれ別になるだろう』
対人に赴きを置いて訓練を積んだ近衛騎士。
対魔に赴きを置いて訓練を積んだ聖騎士。
いきなり連携を取って戦うのは無理だとボクも思います。
裏話で『建前が重要なんだ』とお言葉が。実に面倒臭そうな話しで師匠が嫌う内容。
厄介事だからってボクでストレスを発散しないでください! 腕を組むのを止めませんか? ボクが小さいから持ち上げられて浮遊感が!?
「まぁ騎士だけで総勢50名を越える。もちろん補給要員に冒険者ギルドも参加する」
「大掛かりなんですね」
「だから大遠征軍なんだ」
カイ達も参加するのかな? 補給なら荷駄の管理とか食事の手配くらいの簡単なものだろうし。
一番重要な兵站を担う存在だから大変だけど。騎士さん方が全滅しない限りは安全に稼げてウマウマかな?
師匠も居るから大丈夫だよね。なんたって物凄く強い人だもん。
抗うのも面倒になり師匠の腕に捕まって飛んでみたりした。
道行く人の微笑ましい笑い声が聞こえた気がする。




